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「お願いです、イリーナお姉さま。こんな大役、わたしには到底無理ですわ。だから……だから……」
双子の妹のエレーネは私の両手を取ったまま、膝から崩れ落ちた。
そしてその手を自分の顔に当て、大粒の涙を流す。
こんな大勢がいる場所で、しかもエレーネは私たちの正装たる聖なるローブが床につき、土埃で汚れるのも厭わなかった。
私はただ困惑し、おろおろと辺りを見渡す。
聖堂の中を行き交う神官たちも、ただならぬ様子で遠巻きに見ていた。
「エレーネ、お願いだから立ってちょうだい? いい子だからこんなところで泣かないで?」
「だって、だってお姉さま!」
どうしてこんなことになったのかしら。
エレーネの気持ちが分からないことはない。
大神官様に言われた先ほどの大役が、こんなにもこの子を苦しめているだなんて。
でもあの術は私には到底できない……。
圧倒的な力の差。
同じ姉妹、そして同じ聖女として育った私たちには決定的な差があった。
私は細やかな術に長けてはいるものの、エレーネほどの魔力量がないのだ。
だからこそ、先ほどの大神官様が言った術は私には使うことが出来ない。
でも――
「ほら、立ってちょうだいエレーネ」
「だって、だってお姉さま……絶対に無理です……わたしには、ごぼっごほっ!」
「ああ、エレーネ。そんなに興奮してはダメよ。体に障るわ。まずは部屋に行きましょう。すぐに横にならないと。誰か、誰かエレーネを運ぶのに手を貸してちょうだい!」
私が大きな声で叫ぶと、ようやくわらわらと神官たちが近づいてくる。
こんなに興奮して騒いでしまっては、エレーネはきっと今日は熱を出してしまうわね。
とにかく今は休ませないと。
「エレーネを急いで部屋へ」
「「はい、聖女エレーネ」」
数名の神官たちが私に深々と頭を下げた。
そして倒れ込みそうになるエレーネに手を貸す。
「お姉さま、お姉さま、わたしは……わたしは……」
「いい子のエレーネ。今日は大人しくお薬を飲んで寝なさい。あとで見に行くわ。また酷い熱を出したら大変よ。明日、ゆっくり話をしましょう」
「お姉さま……」
「さぁ、いい子ね」
私はエレーネの涙を手で拭うと、頭を撫でた。
柔らかな薄いブロンドの髪。
さらさらとした羽のようなその髪が揺れる。
「このまま部屋まで運んでちょうだい。すぐに薬師にこの子の薬を届けさせて」
「かしこまりました」
泣き、そして何度も私を振り返りながら神官たちに抱えられたエレーネは自分の部屋へと運ばれていった。
聖堂へと続く白い廊下は、ただ静寂を取り戻す。
私はため息を付きながら、今来た道を一人戻り出した。
「神よ……もしそこにおわしますならば、どうか私たち姉妹をお導きくださいませ」
力いっぱいに聖堂に続く扉を開け、私はただ神に祈った。
本当は神や聖女など、私は一度だって信じたことはなかった。
私たちはただ聖なる力が使えるというだけ。
あとは何も普通の人間とは変わらない。
神の声が聞こえるわけでも、未来が見えるわけでもない。
そう、魔力というものを持っているだけの、どこにでもいるような普通の姉妹だと思ってきた。
だからそこ、祈らずにはいられなかった。
この国が解き放たれた厄災の力で滅びようとしており、その厄災から国を守るためには自らの力を犠牲にしないといけないだなんて。
神に祈るしか、もう私にはする手立てがないから。
「どうして急にこんなことになってしまったのかしら……神よ、あなたは私たちに何をさせたいのですか……」
誰も答えてなどくれない広い大聖堂に、私だけの声が響き渡る。
私はただ一人、数時間前のこの聖堂での出来事を思い出していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いつもお読みいただける皆様に感謝
この短編は本日中に完結する作品となっております。
ぜひとも最後までお付き合いいただけますと嬉しく思います。
ブクマ・しおり・感想等全て心よりお待ちしてマスマス(*ノωノ)
双子の妹のエレーネは私の両手を取ったまま、膝から崩れ落ちた。
そしてその手を自分の顔に当て、大粒の涙を流す。
こんな大勢がいる場所で、しかもエレーネは私たちの正装たる聖なるローブが床につき、土埃で汚れるのも厭わなかった。
私はただ困惑し、おろおろと辺りを見渡す。
聖堂の中を行き交う神官たちも、ただならぬ様子で遠巻きに見ていた。
「エレーネ、お願いだから立ってちょうだい? いい子だからこんなところで泣かないで?」
「だって、だってお姉さま!」
どうしてこんなことになったのかしら。
エレーネの気持ちが分からないことはない。
大神官様に言われた先ほどの大役が、こんなにもこの子を苦しめているだなんて。
でもあの術は私には到底できない……。
圧倒的な力の差。
同じ姉妹、そして同じ聖女として育った私たちには決定的な差があった。
私は細やかな術に長けてはいるものの、エレーネほどの魔力量がないのだ。
だからこそ、先ほどの大神官様が言った術は私には使うことが出来ない。
でも――
「ほら、立ってちょうだいエレーネ」
「だって、だってお姉さま……絶対に無理です……わたしには、ごぼっごほっ!」
「ああ、エレーネ。そんなに興奮してはダメよ。体に障るわ。まずは部屋に行きましょう。すぐに横にならないと。誰か、誰かエレーネを運ぶのに手を貸してちょうだい!」
私が大きな声で叫ぶと、ようやくわらわらと神官たちが近づいてくる。
こんなに興奮して騒いでしまっては、エレーネはきっと今日は熱を出してしまうわね。
とにかく今は休ませないと。
「エレーネを急いで部屋へ」
「「はい、聖女エレーネ」」
数名の神官たちが私に深々と頭を下げた。
そして倒れ込みそうになるエレーネに手を貸す。
「お姉さま、お姉さま、わたしは……わたしは……」
「いい子のエレーネ。今日は大人しくお薬を飲んで寝なさい。あとで見に行くわ。また酷い熱を出したら大変よ。明日、ゆっくり話をしましょう」
「お姉さま……」
「さぁ、いい子ね」
私はエレーネの涙を手で拭うと、頭を撫でた。
柔らかな薄いブロンドの髪。
さらさらとした羽のようなその髪が揺れる。
「このまま部屋まで運んでちょうだい。すぐに薬師にこの子の薬を届けさせて」
「かしこまりました」
泣き、そして何度も私を振り返りながら神官たちに抱えられたエレーネは自分の部屋へと運ばれていった。
聖堂へと続く白い廊下は、ただ静寂を取り戻す。
私はため息を付きながら、今来た道を一人戻り出した。
「神よ……もしそこにおわしますならば、どうか私たち姉妹をお導きくださいませ」
力いっぱいに聖堂に続く扉を開け、私はただ神に祈った。
本当は神や聖女など、私は一度だって信じたことはなかった。
私たちはただ聖なる力が使えるというだけ。
あとは何も普通の人間とは変わらない。
神の声が聞こえるわけでも、未来が見えるわけでもない。
そう、魔力というものを持っているだけの、どこにでもいるような普通の姉妹だと思ってきた。
だからそこ、祈らずにはいられなかった。
この国が解き放たれた厄災の力で滅びようとしており、その厄災から国を守るためには自らの力を犠牲にしないといけないだなんて。
神に祈るしか、もう私にはする手立てがないから。
「どうして急にこんなことになってしまったのかしら……神よ、あなたは私たちに何をさせたいのですか……」
誰も答えてなどくれない広い大聖堂に、私だけの声が響き渡る。
私はただ一人、数時間前のこの聖堂での出来事を思い出していた。
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いつもお読みいただける皆様に感謝
この短編は本日中に完結する作品となっております。
ぜひとも最後までお付き合いいただけますと嬉しく思います。
ブクマ・しおり・感想等全て心よりお待ちしてマスマス(*ノωノ)
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