34 / 52
034
しおりを挟む
ドレスを頼んだ日からお茶会まではあっと言う間だった。
それなのに子爵夫人からはお茶会用のドレスが二着と、夜会用のドレスが一着届いた。
「すごーい、三着も届いてるし」
「子爵夫人様よりのご伝言で、夜会用のドレスはまだ仮縫いだそうで、デザイン等がお嬢様のお気に召したようでしたらこのまま作成を進めさせていただきますとのことでした」
宵闇を思い浮かべる黒から紫へと色がグラデーションに変わるシルクのドレスは、裾などに小さなダイヤのような石が縫い付けられていた。
鏡の前で合わせると、マーメイド型のドレスは私の体形にピタリと合わせてある。
すごい綺麗。
シックだし、この細身がいいわね。
それにこの肌触り。こんな高級な贈り物をもらってもいいのかしらね。
ドレスは男性が贈るものだって、ルドには言いくるめられてしまったけれど。
それにしても綺麗ね。
これ着るの頼みしだわ。
ただこれ以上太れないのが難点ね。ルドにお菓子とか餌付けされまくってるから、気を付けないと。
「そんなドレス初めて見ました! これがこの前お嬢様が言っていたドレスなんですね」
「そうそう。いつもの広がってるドレスだと、座るのとかも大変だからこういう形のドレスを作って欲しかったのよね」
「これを着て行ったら、みんなきっと注目して下さると思いますよ」
「だとうれしいな。それにしても、あんな風に言っただけでドレスを作ってしまうマリナ夫人はすごいわね」
「わたしには作った子爵夫人様も、それを提案をしたお嬢様もどちらもすごいと思いますけどね」
「ふふふ、そうかな」
前世の記憶からと言っても、やっぱり褒められるのはうれしいものね。
昔の記憶を使って、便利になるのは絶対悪いことじゃないと思うもの。
でもモノ自体を知ってはいても、構造とか作り方とかそういうのは分からないからなぁ。
もっとちゃんと生活していれば、再現できたのかもしれない。
ん―。勿体なかったな。
「ドレスが届いたのかな」
短いノックの後、ルドが部屋に入って来る。
今日は朝からお仕事へ行ってしまっていたのだが、ドレスが届く時間にわざわざ戻ってきてくれた。
「お帰りなさいルド様!」
「アーシエただいま。そうやってニコニコしながら僕のとこに飛び込んできてくれて、本当に可愛いね」
「大げさですよ、ルド様は」
「そんなことないさ。可愛い君の顔が見たくてこうして僕は帰ってきたんだから」
「ふふふ。お世辞でもそう言ってもらえると、うれしいですよ。ルド様に今日のドレスを選んでもらいたかったんですから」
今日の勝負服ともいえるお茶会のドレスは、どうしてもルドに選んで欲しかった。
大勢の人がいるところでは表立った攻撃を仕掛けてくることはないって分かっていても、やっぱり少し怖い。
だからどうしても気合を入れたかった。
ルドが選んでくれたものを身に付けたら……好きな人が選んでくれれば、それだけで強くなれる気がするのよね。
なんとなく、だけど。
「ルド様はこのピンクのドレスと水色のドレスはどっちが似合うと思いますか~?」
私は二着のドレスを交互に顔にあてた。
自分で見てもどちらの色も可愛く、アーシエの顔には似合っている気がする。
「ん-、そうだなぁ。アーシエ自身が可愛いから、何を着ても似合うと思うんだが」
「むぅ。それでは答えになってませんよ。どっちもは着て行けないんですからちゃんと選んで下さいな」
「そうだなぁ。じゃあ、まずはこれかな」
ルドは自分で持っていたやや大きめの箱を開け、私に見せた。
中には中心に大きな石の付いたネックレスが入れられていた。
石はルドの瞳によく似た紫色。しかも大きさは小指サイズほどある涙のような形だ。
「すごい……キレイ……」
これ一個で、いくらぐらいするんだろう。
でも値段がいくらしても、これは欲しい。
ルドの色。きっとこれは何よりの御守だわ。
「これは虫よけだよ」
ルドはそう言いながら、私にネックレスを付けてくれる。
「虫よけじゃなくてこれは御守、ですよ。だってルド様が一緒にいてくれるみたいですもの」
無機質な冷たい石。
でも何よりもキラキラ輝くその石が私には温かく思えた。
本当に綺麗ね。恋人からプレゼントをもらって喜ぶ気持ちって、きっとこんな感じなんだろうな。
しかも今日は何の日でもないのに。
わざわざお茶会へ行く私のために、これを贈ってくれるなんて。
うれしすぎて、私はどうすればいいんだろう。
「こんなプレゼントをもらってしまって……私はルド様のために何も出来ていないのに」
「アーシエが傍にいてくれる。それだけで僕は幸せだから大丈夫だよ。そしてこれも、僕が送りたかったんだ。ある意味、君は僕のものだっていう証さ」
「私がルド様のモノ……」
「そうだよ。好きな人には自分の髪や瞳の色と同じ色の宝石を贈る習慣があるからね。だからアーシエは僕のモノという意思を誰から見ても分かるように示してるのさ」
アーシエは僕のもの。私はもう一度、首にかけられた宝石を見た。
これはきっとうれしい言葉だ。それに、その想いは私も同じだから。でも――
「アーシエ、どうかしたのかい?」
「いいえ。すごくうれしですルド様。私もですわ」
「それはうれしいな、アーシエ」
「ふふふ」
笑顔で感情を隠し、ふと浮かび上がった黒いモノを、私は見て見ないふりをした。
それなのに子爵夫人からはお茶会用のドレスが二着と、夜会用のドレスが一着届いた。
「すごーい、三着も届いてるし」
「子爵夫人様よりのご伝言で、夜会用のドレスはまだ仮縫いだそうで、デザイン等がお嬢様のお気に召したようでしたらこのまま作成を進めさせていただきますとのことでした」
宵闇を思い浮かべる黒から紫へと色がグラデーションに変わるシルクのドレスは、裾などに小さなダイヤのような石が縫い付けられていた。
鏡の前で合わせると、マーメイド型のドレスは私の体形にピタリと合わせてある。
すごい綺麗。
シックだし、この細身がいいわね。
それにこの肌触り。こんな高級な贈り物をもらってもいいのかしらね。
ドレスは男性が贈るものだって、ルドには言いくるめられてしまったけれど。
それにしても綺麗ね。
これ着るの頼みしだわ。
ただこれ以上太れないのが難点ね。ルドにお菓子とか餌付けされまくってるから、気を付けないと。
「そんなドレス初めて見ました! これがこの前お嬢様が言っていたドレスなんですね」
「そうそう。いつもの広がってるドレスだと、座るのとかも大変だからこういう形のドレスを作って欲しかったのよね」
「これを着て行ったら、みんなきっと注目して下さると思いますよ」
「だとうれしいな。それにしても、あんな風に言っただけでドレスを作ってしまうマリナ夫人はすごいわね」
「わたしには作った子爵夫人様も、それを提案をしたお嬢様もどちらもすごいと思いますけどね」
「ふふふ、そうかな」
前世の記憶からと言っても、やっぱり褒められるのはうれしいものね。
昔の記憶を使って、便利になるのは絶対悪いことじゃないと思うもの。
でもモノ自体を知ってはいても、構造とか作り方とかそういうのは分からないからなぁ。
もっとちゃんと生活していれば、再現できたのかもしれない。
ん―。勿体なかったな。
「ドレスが届いたのかな」
短いノックの後、ルドが部屋に入って来る。
今日は朝からお仕事へ行ってしまっていたのだが、ドレスが届く時間にわざわざ戻ってきてくれた。
「お帰りなさいルド様!」
「アーシエただいま。そうやってニコニコしながら僕のとこに飛び込んできてくれて、本当に可愛いね」
「大げさですよ、ルド様は」
「そんなことないさ。可愛い君の顔が見たくてこうして僕は帰ってきたんだから」
「ふふふ。お世辞でもそう言ってもらえると、うれしいですよ。ルド様に今日のドレスを選んでもらいたかったんですから」
今日の勝負服ともいえるお茶会のドレスは、どうしてもルドに選んで欲しかった。
大勢の人がいるところでは表立った攻撃を仕掛けてくることはないって分かっていても、やっぱり少し怖い。
だからどうしても気合を入れたかった。
ルドが選んでくれたものを身に付けたら……好きな人が選んでくれれば、それだけで強くなれる気がするのよね。
なんとなく、だけど。
「ルド様はこのピンクのドレスと水色のドレスはどっちが似合うと思いますか~?」
私は二着のドレスを交互に顔にあてた。
自分で見てもどちらの色も可愛く、アーシエの顔には似合っている気がする。
「ん-、そうだなぁ。アーシエ自身が可愛いから、何を着ても似合うと思うんだが」
「むぅ。それでは答えになってませんよ。どっちもは着て行けないんですからちゃんと選んで下さいな」
「そうだなぁ。じゃあ、まずはこれかな」
ルドは自分で持っていたやや大きめの箱を開け、私に見せた。
中には中心に大きな石の付いたネックレスが入れられていた。
石はルドの瞳によく似た紫色。しかも大きさは小指サイズほどある涙のような形だ。
「すごい……キレイ……」
これ一個で、いくらぐらいするんだろう。
でも値段がいくらしても、これは欲しい。
ルドの色。きっとこれは何よりの御守だわ。
「これは虫よけだよ」
ルドはそう言いながら、私にネックレスを付けてくれる。
「虫よけじゃなくてこれは御守、ですよ。だってルド様が一緒にいてくれるみたいですもの」
無機質な冷たい石。
でも何よりもキラキラ輝くその石が私には温かく思えた。
本当に綺麗ね。恋人からプレゼントをもらって喜ぶ気持ちって、きっとこんな感じなんだろうな。
しかも今日は何の日でもないのに。
わざわざお茶会へ行く私のために、これを贈ってくれるなんて。
うれしすぎて、私はどうすればいいんだろう。
「こんなプレゼントをもらってしまって……私はルド様のために何も出来ていないのに」
「アーシエが傍にいてくれる。それだけで僕は幸せだから大丈夫だよ。そしてこれも、僕が送りたかったんだ。ある意味、君は僕のものだっていう証さ」
「私がルド様のモノ……」
「そうだよ。好きな人には自分の髪や瞳の色と同じ色の宝石を贈る習慣があるからね。だからアーシエは僕のモノという意思を誰から見ても分かるように示してるのさ」
アーシエは僕のもの。私はもう一度、首にかけられた宝石を見た。
これはきっとうれしい言葉だ。それに、その想いは私も同じだから。でも――
「アーシエ、どうかしたのかい?」
「いいえ。すごくうれしですルド様。私もですわ」
「それはうれしいな、アーシエ」
「ふふふ」
笑顔で感情を隠し、ふと浮かび上がった黒いモノを、私は見て見ないふりをした。
1
お気に入りに追加
879
あなたにおすすめの小説

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】婚約破棄されて処刑されたら時が戻りました!?~4度目の人生を生きる悪役令嬢は今度こそ幸せになりたい~
Rohdea
恋愛
愛する婚約者の心を奪った令嬢が許せなくて、嫌がらせを行っていた侯爵令嬢のフィオーラ。
その行いがバレてしまい、婚約者の王太子、レインヴァルトに婚約を破棄されてしまう。
そして、その後フィオーラは処刑され短い生涯に幕を閉じた──
──はずだった。
目を覚ますと何故か1年前に時が戻っていた!
しかし、再びフィオーラは処刑されてしまい、さらに再び時が戻るも最期はやっぱり死を迎えてしまう。
そんな悪夢のような1年間のループを繰り返していたフィオーラの4度目の人生の始まりはそれまでと違っていた。
もしかしたら、今度こそ幸せになれる人生が送れるのでは?
その手始めとして、まず殿下に婚約解消を持ちかける事にしたのだがーー……
4度目の人生を生きるフィオーラは、今度こそ幸せを掴めるのか。
そして時戻りに隠された秘密とは……
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中

ある日突然、醜いと有名な次期公爵様と結婚させられることになりました
八代奏多
恋愛
クライシス伯爵令嬢のアレシアはアルバラン公爵令息のクラウスに嫁ぐことが決まった。
両家の友好のための婚姻と言えば聞こえはいいが、実際は義母や義妹そして実の父から追い出されただけだった。
おまけに、クラウスは性格までもが醜いと噂されている。
でもいいんです。義母や義妹たちからいじめられる地獄のような日々から解放されるのだから!
そう思っていたけれど、噂は事実ではなくて……
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる