上 下
17 / 52

017

しおりを挟む
「それでなのですが義兄上、姉上のお世話のために我が家でも一番の信頼をおける侍女をここにしばらく置いていただけないでしょうか」

「その娘か?」

「そうです。元々ボクの侍女をしていたのですが、姉上との関係性も良く、誰よりも忠義の深く信頼が出来ます。そしてどんなことがあろうとも、姉上を守ることも出来るでしょう」


 紹介された先ほどの侍女は、やや顔を赤らめながら深々とルドに頭を下げた。

 レオナルドの絶大なる信頼っていうか、んー、なんだろう。

 言葉の節々からそれ以上のモノが窺える。


「そうだ。あなたの名前を聞いてもいいかしら」

「サラと申します、アーシエお嬢様。これからお側にて誠心誠意勤めさせていただきます」

「よろしくね、サラ」

「はいお嬢様」


 うん。素直で可愛い。

 そして私とレオナルドのこんな変な会話を聞いていたのに、まったく動じていないし。

 あ、もしかしてこの世界で転生っていうのが、マイナーじゃないとかかな。

 それなら納得はいくけど。

 でもそんな世界観って、ちょっとどうかとも思うんだけどなぁ。


「まだ心配なことはあるのかな、アーシエ」


 考え込む私の顔をルドが覗き込み、そして頬に触れた。

 ひんやりと冷たく大きなルドの手、気持ちいい。

 そしてその冷たさが、現実のこの場に意識を戻させる。


「ふふふ。ルド様の手、気持ちいいですね」


 私は私の頬に触れる手に、自分の手を合わせた。

 少しルドはびっくりしたような顔をした後、うれしそうに眼を細める。


「外に王宮の侍女を待たせてある。仕事はその者から聞いてくれ」

「かしこまりました、王太子殿下」

「また近いうちに面会の申し込みを入れますね。その時は母からの差し入れなどもお持ちします」

「ありがとう、

「……はい、姉上」


 レオナルドは前のように名前を呼ぶ私に少し微妙な表情をしたもののそれも一瞬で、私とルドに深々と頭を下げて部屋を出て行った。

 ルドはレオが出ていったことを確認すると、待っていたかのように私の髪を撫でる。

 スキンシップしたいのに我慢をしていたような子犬みたいね。

 大きい黒い犬。そう思えば、案外可愛いのかもしれない。

 他の者に盗られたくなくて威嚇したり、焼きもちを焼いて噛みついたり。

 うん。犬と思えば、怖くはないかも。

 ふふふ。そう考えたら、なんだかルドの頭の上のところに耳が見えてくる気もする。


「ルド様もお疲れ様でした」


 私は精一杯背伸びをして、ルドの頭を撫でる。

 あ、髪サラサラだ。

 触ってる私の方が気持ちいいかも。

 このまま触っていたいけど、さすがにダメよね。

 これもある意味不敬罪だし。


「君から触れてくれるなんて、珍しいなアーシエ」

「ダメでしたか?」

「いや……むしろうれしい。もう少しお願いしてもいいかな。今日は少し疲れてしまった」


 やっぱり、公爵家との板挟みなのかな。

 それなら確実に私のせいだし。

 仕事に行ってきていい、だなんて軽いことを言うべきではなかったわね。

 ルドだって、ある意味ここに引きこもってるのは、嫌なことから逃げ出したかったのかもしれない。



「ルド様、こっち来てくださいな」


 私はルドの手を引っ張り、そのままソファーへ誘導する。


「ん?」


 先に深くソファーへ座った私の隣に、疑問符一杯のルドが座った。

 私は自分の足をポンポンと叩きながら、ルドを見上げる。


「アーシエ?」

「もう。ルド様、膝枕ですよ。さ、アーシエの足の上に頭を乗せてくださいな」

「あ、頭かい?」


 恥ずかしそうに慌てるルドがなんだか可愛くて、私はルドの顔をそっと掴んだ。

 そしてそのまま私の足の上に誘導する。


「アーシエ、これはさすがに」

「いいんです。疲れた時はコレが一番です!」

「だ、だがさすがにこれは……」

「はいはい」


 抗議しつつも、膝の上で身動きしないルドの髪を撫でた。

 私も好きだった。

 小さい頃、よくおばあちゃんにしてもらったっけ。

 泣いている時はいつもそう。

 おばあちゃんの膝に顔を埋めると、頭を優しく撫でてくれた。

 そしてそのまま寝てしまってたよなぁ。

 だから元気がない時は、私の中ではコレが一番だって思ってる。

 頑張ったっていうか……ルドにも同じ思いを共有してもらいたかった。

 なんでかって言われると、少し説明は難しかったけど。


「これが一番って、誰かにしたことがあるのかい、アーシエ」

「やってもらったことはあっても、するのはルド様だけですよ」

「そうか……」

「そうです。特別なのです」


 私がそう言うとそれ以上ルドは何も言わず、ただ静かにされるがままにしていた。

 そしてしばらく経つと小さな小気味いい寝息につられ、私も目を閉じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!

高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。

悪役令嬢はお断りです

あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。 この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。 その小説は王子と侍女との切ない恋物語。 そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。 侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。 このまま進めば断罪コースは確定。 寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。 何とかしないと。 でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。 そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。 剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が 女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。 そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。 ●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ●毎日21時更新(サクサク進みます) ●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)  (第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。

きっとやり直せる。双子の妹に幸せを奪われた私は別の場所で幸せになる。

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、問題児である双子の妹が妊娠をしたと知らされる。  しかも、相手は私の婚約者らしい……。  すると、妹を溺愛する家族は容姿が似ている妹と私を交換しようと言いだしたのだ。  そして問題児の妹になった私は家族の縁を切られ追い出されてしまったのだった。  タイトルが全く思いつかず一時間悩みました(笑) ※8話ホラー要素あり。飛ばしても大丈夫です。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~

斯波
恋愛
辺境伯令嬢ウェスパルは王家主催のお茶会で見知らぬ令嬢達に嫌味を言われ、すっかり王都への苦手意識が出来上がってしまった。母に泣きついて予定よりも早く領地に帰ることになったが、五年後、学園入学のために再び王都を訪れなければならないと思うと憂鬱でたまらない。泣き叫ぶ兄を横目に地元へと戻ったウェスパルは新鮮な空気を吸い込むと同時に、自らの中に眠っていた前世の記憶を思い出した。 「やっば、私、悪役令嬢じゃん。しかもブラックサイドの方」 ウェスパル=シルヴェスターは三部作で構成される乙女ゲームの第二部 ブラックsideに登場する悪役令嬢だったのだ。第一部の悪役令嬢とは違い、ウェスパルのラストは断罪ではなく闇落ちである。彼女は辺境伯領に封印された邪神を復活させ、国を滅ぼそうとするのだ。 ヒロインが第一部の攻略者とくっついてくれればウェスパルは確実に闇落ちを免れる。だがプレイヤーの推しに左右されることのないヒロインが六人中誰を選ぶかはその時になってみないと分からない。もしかしたら誰も選ばないかもしれないが、そこまで待っていられるほど気が長くない。 ヒロインの行動に関わらず、絶対に闇落ちを回避する方法はないかと考え、一つの名案? が頭に浮かんだ。 「そうだ、邪神を仲間に引き入れよう」 闇落ちしたくない悪役令嬢が未来の邪神を仲間にしたら、学園入学前からいろいろ変わってしまった話。

処理中です...