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「そんな風にまた潜ってしまうということは、僕に襲って欲しいっていうことかなアーシエ」

「違います、違います。絶対に、違いますから」

「そんなに目一杯、否定しなくても」

「だって、だって」

「本当に可愛いね、アーシエは」

「んんん」


 私は急いで布団をはぎとると、そのままの勢いで身体をおこした。

 あまりの素早さに、ぐらりと揺れる。

 ああ、やばい。貧血かも。


「ああ、アーシエ危ないよ。昨日は何にも食べていないんだし」


 倒れそうになる私の肩を、ルドが優しく支えてくれた。

 ふわりとルドの髪の匂いが香る。

 ああ、このまま肩にぽすって顔を埋めたい。ルドの体温を感じてみたい。

 って、やだ。変態さんになってしまう。そんな趣味ないのにー。


「ありがとうございます、ルド様。でも、ルド様が変なコト言うからですよ!?」

「そんなに変なコト言った覚えはないんだけどなぁ~」

「十分言ってますぅ。その、襲うって……」

「ああ、そうだね。襲う前には、まずこの子ウサギさんを太らせないとダメだな」

「え」

「ん?」

「……」


 あ、そっちの食べるですか?

 いや、どっちもダメだし。

 それに太るって、女の子にはNGワードだと思うんだけど。太りたくないしー。

 まぁ確かにアーシエは色白ですごく細いわりに、乳だけはおっきいのよね。

 何をどうしたら、こんなスタイルになったんだろうとは思うけど。

 前の私も決して太ってたわけではないけど、この乳には勝てないわ。乳には。

 すごいなぁ。自分で触ってもこれさぁ、アーシエの体だから怒られるかな。


「太るのは困ります! ドレス入らなくなってしまうし。あと、食べるのも禁止です」

「禁止なのかい? でもさすがに痩せすぎだと思うんだけどな、アーシエは。それにドレスならいくらでも仕立て直せばいいし」


 いくらでもって。いくらかかるのよ。

 でも本当にやりそうで嫌だわ。やっぱり太らないようにしないと。


「そうですか? 他の方を知らないので分からないですけど。ルド様は他の女性の方の、その……体付きっていうか、その……えっと……」

「生では体を見たことはないよ。アーシエしか、ね」

「やっぱり昨日見たんですね! もーーーーーー! ひどーい。うぇーーーーんっ」

「あははははは。冗談だよ。他の女性の裸を見たことがあるかだなんて、アーシエがひどいことを言うからついつい意地悪をしたくなっただけさ」

「ベ、別に私は意地悪をするつもりじゃなくて……ちょっと聞いてみただけです」

「あ、もしかして嫉妬してくれてるとか?」

「嫉妬って……。むぅ」


 私、嫉妬してるのかな……。

 他の人と比べたのかなって思ったら、確かに嫌だなって思ったけど。これが嫉妬っていうのかしら。

 恋愛って、攻略方法とかないから難しすぎるわ。全然分からない。もっとも、この世界には方略本とかもなさそうだけど。


「ルド様の方がよっぽど意地悪です」

「そうかい?」

「そうです」

「それはきっと君が可愛すぎるのがいけないんだよ。こんなに可愛い生き物は本当にどうしてくれようかな」


 うん。目が怖いからダメです、ルド様。

 急にスイッチ入るんだもんなぁ。困るよー。

 話題変えた方がきっといいわね。


「……お腹空きました、ルド様」

「ああ、そうだね。すぐに支度するよ」

「んんん?」


 今、支度させようじゃなくて、支度するよって言わなかったかしら。

 まさかとは思うけど、ルドが朝ご飯の支度をするつもりじゃないでしょうね。

 ああ、でも今この離宮には侍女はいないからあり得るのか。


「ルド様、誰も支度する者がいないのならば、私がいたします!」


 まさか王太子であるルドに侍女の仕事をさせるなんて、絶対にダメでしょう。

 バチが当たるわ、バチが。


「それも魅力的な提案ではあるけど、そのためには僕の前で着替えることになるんだけどそれはいいのかな?」

「!?」


 忘れてたけど、私今ネグリジェを着ていたのね。

 確かにこのまま部屋を出るわけにも行かないし、かといってルドの前で着替えるのも無理。


「まさか、その恰好のまま出て行こうなんて思ってはいないよね。そんなことをしたら……」

「もちろんしません!」

「それならいいんだ。さ、着替えておいでアーシエ。君が着替え終わるまでに、ここに食べ物を運んで来るから~」


 私の頭を二度ほどポンポンとした後、ルドは部屋から出て行く。

 一人広いベッドの上で、しばらくルドが出て行ったドアを見つめていた。

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