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 なんで寝ちゃう前にちゃんと着替えなかったのよ。

 おバカすぎるでしょう、私。

 いくら疲れていたからってあの状況では絶対ダメなことぐらい分かっていたハズなのに。

 電池が切れるまで動き回ったり頑張ったりするのって、本当に前からの悪い癖すぎるわね。

 今はアーシエなんだし、もっと気を付けないと絶対にボロが出ちゃうわ。


「そんなにじたばたして、あんまり可愛いことばかりしていると食べてしまうよアーシエ」

「だ、ダメです! 絶対に、ダメです。たたたた、食べるってなんですか。アーシエは食べ物じゃないです」


 うーーーーー。もう。なんなのこの状況は。

 恥ずかしすぎる。寝落ちで着替えさせてもらっただなんて、想像しただけであああああ。

 うん。やめよう、考えるの。

 悶えれば悶えるほど、ルド様のツボになっているみたいだし。

 食べられたら本当に困ります。

 ヤンデレな上に18禁だなんて、ダメです絶対。

 喪女にはハードルが死ぬほど高すぎます。

 そういうのはもう少し慣れてからにしていただかないと。

 こっちは恋愛激初心者なんだから。


「あはははは。ああ、本当に可愛いね。こんなに豊かな表情を見せてくれるのならば、もっと前からここに入れてしまえばよかったよ」


 そう言い終えたルドは私の頬に触れた。

 急にルドは無言だ。

 真剣で、それでいてなんか悔やむような……。

 だからこそ、私は目が離せないでいた。


「ルド様?」

「……」


 二人の間にあった何か。

 きっとそれがこの歪んだ関係性も、この苦しそうに見える表情もさせているように思えて仕方ない。

 もしかしたらアーシエの記憶がなくなってしまったというか、アーシエがある意味死んでしまった原因さえわかれば、ヤンデレルートから抜け出せる気がする。


「そんな顔、なさらないで下さい」


 ルドがしたように、私はルドの頬に触れた。

 私はアーシエではないし、今は不純な動機でしかないけど、きっとルドの苦しみも取り除くから。


「アーシエ君は……」

「?」

「いや、なんでもないよ。さぁ、支度をして朝ご飯にしよう。昨日のうちに君の家には手紙を届けてもらっているから、きっと午後には連絡がくるはずさ」

「まぁ、そんなに早く連絡をしてくださったのですか」

「君の望みだからね」

「うれしいです、ルド様」


 まだアーシエの実家が味方か分からないけど、少なくとも進展はするはずね。


「お仕事行かれますよね。すぐ着替えますわ」

「いや、行かない。ココですればいい」

「で、でもそれでは困るのではないですか?」

「問題ない」

「問題ないって……」


 さらりと言ってのけるが、きっと問題たくさんだと思うのよね。

 でもまぁ、昨日の今日で逃げないから信じて欲しいと言っても無理があるか。


「私はどこへも行かないですが、今日は一緒に過ごしてくださいな。ここに慣れていなくて、一人では寂しいですから」

「アーシエ……もちろんだよ」

「ふふふ。ありがとうございます、ルド様」


 私の返答がよほど良かったのか、先ほどの硬い表情はもうどこにもなかった。

 そして私の頭や顔をなでたあと、ゆっくり起き上がる。

 あああああ。

 シャツ、ルドのシャツがはだけているんですけど?

 これ目のやり場に困るから。

 目に毒っていうか、もーーーー。

 どこ見てればいいのよ。

 ひとしきりジタバタした後、もう一度布団に潜りこむ。

 心臓がもちません。

 生スチールじゃなくて、そう、ルドも私も生の人間なんだもの。

 頭の中で乙女ゲームの世界だって思っても、もう私がココにいる以上、ココで生きている以上ゲームじゃないのよね。

 それがなんだか私には、言い様のない底の深い怖さがある気がしてならなかった。
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