1 / 52
001
しおりを挟む
ゆっくりと、王太子であり、仮婚約者でもあるルドが近づいてくる。
ベッドが軋む音は、これから始まることを伝えているように思えた。
逃げ場のない鳥籠の中。
その中のベッドの上に落とされた私は、恐怖からゆっくりと後ずさった。するとそれをルドの顔色が、スイッチが入ったようにガラリと変わる。
「僕から、まだ逃げようと?」
「んーーーー」
足首を捕まれ、そのままルドの方へ引き寄せられた。そしてルドの手がそのまま私の体をゆっくりと、なぞり昇ってくる。
「やっぱり、そうだね。優しくしてあげようかと思ったけど、それではダメみたいだね」
その瞳は、ただ仄暗い光を称えていた。
逃げるイコール拒否と取られてしまったのね。選択を間違えてしまったんだろうけど、でも普通逃げるわよね。こんな展開。
もしかしてこのまま18禁展開なの?
ヤンデレルートの18禁なんて、元喪女だった私には全然無理なんですけど。
先ほどまでの断罪ルートのがまだマシなのかと思えるこの状況で、私は数時間前のことを思い出していた。
◇ ◇ ◇
薄暗い空間に重い鎧を着た人の足音だけが響いていた。
――カツン、カツン。
どこに向かうのかなど考えるまでもない。
ココは行先なんてない、ただの牢獄なのだから。
息を吸うだけで、むせ込みそうになるほどのカビ臭さ。肌に吸い付くような感覚は湿気が多いせいだろう。
冷えきったむき出しの床は体から感覚を奪い、腕を縛っている鎖が私の自由までも奪っている。
牢の前に吊るされたランプだけは辺りを照らしているものの、自分の回り以外どこまでこの空間が広がっているのかも想像はつかなかった。
時折聞こえて来る他の囚人たちの放つうめき声に、私の気力もすでに限界だった。
「本当に……なんなのよ、ココ」
どうしてこんなことになったのか。ちがう。どうしてこんなことになっているのか。そもそもなぜ私がここにいるのか、まったく思い出せない。
さっきまで確かに四連勤目となる夜勤をしていたはずなのに。何がどうしたら、こんなどっかの異世界のようなトコにいるの?
私は自他ともに認める社畜。
シフトに穴が空けば進んで夜勤に入り仮眠の後に日勤をして、また夜勤に入るというのを繰り返していた。
まぁ、人と関わるあの仕事が好きだったし、倒れた仲間の代わりにするという使命感もあったんだけど。
ただ問題は、仮眠から目覚めたら牢の中ということ。
しかも先ほど見回りに来た兵士らしき人間は、明らかに私が知っている世界の人間ではない。
しいて言うならそう、ロールプレイングゲームとか昨日読んでいた異世界恋愛の漫画とか……。
「いや、うんそうだね。やっぱりどう考えてもさぁ、死んだんだね、私……。いやいやいやいや、寝落ちからの死亡とかってさすがにひどくない? もっとこうさ、キャーとかワーとかの後に神様とか出てくるものじゃないの?」
ん-ーー。これって転生っていうのかな。ああでも、夜勤の時にやっていた乙女ゲームはそんな感じだったかなぁ。
あれは転生じゃなくて、憑依みたいな感じだったのよね。ま、未練はないことはないけどそこまではいいさ。
いや、きっと良くはないんだろうけど。死んでしまうとはナサケナイから、仕方ないとどこか諦めている自分がいる。
ただ、この状況はアウトでしょう。いくら私の諦めが良い方だとはいっても、これは受け入れられそうにない。
「牢屋にいる縦髪ロールの令嬢ってさぁ、これはさすがにひどくない? いや、絶対に神様とかいたら抗議するレベルでしょう。だってこれ、頑張っていい方に考えても、悪役令嬢とかの断罪ルートのエンディング部分じゃないのよ! いきなり起きてバッドエンドとか、おかしいでしょう!」
金髪縦ロールは艶やかでしっかり固定されているよう。頭を左右に振ったくらいでは崩れそうになかった。
きゅるんっとか音が聞こえそうなほどなぐらい、しっかりとカールが巻かれている。
私はこの子の名前すら知らないけど、しっかり憑依しちゃっているし。
でも、憑依にしてはこの子の記憶みたいなのがないのよね。
何も分からないまま断罪シーンまっしぐらとか、いきなり起きてエンドですか?
神様さすがにもう少し手心っていうかさぁ、いや、私何かしたんですか……。
天井から吊られた鎖に手を繋がれている以上、顔を覆って泣くことすら出来ない。
出てくるのはため息ばかりだった。
そしてまたゆっくりと足音が近づいてくる。
見回りの兵だろうか。
彼に聞けば罪状を教えてくれるかもしれないけど、下手に刺激して危害を加えられても怖いし。
あああ、もうどうすれば正解なのよ。
暗闇も音も、この空間も、全てが重くのしかかる恐怖でしかなかった。
ベッドが軋む音は、これから始まることを伝えているように思えた。
逃げ場のない鳥籠の中。
その中のベッドの上に落とされた私は、恐怖からゆっくりと後ずさった。するとそれをルドの顔色が、スイッチが入ったようにガラリと変わる。
「僕から、まだ逃げようと?」
「んーーーー」
足首を捕まれ、そのままルドの方へ引き寄せられた。そしてルドの手がそのまま私の体をゆっくりと、なぞり昇ってくる。
「やっぱり、そうだね。優しくしてあげようかと思ったけど、それではダメみたいだね」
その瞳は、ただ仄暗い光を称えていた。
逃げるイコール拒否と取られてしまったのね。選択を間違えてしまったんだろうけど、でも普通逃げるわよね。こんな展開。
もしかしてこのまま18禁展開なの?
ヤンデレルートの18禁なんて、元喪女だった私には全然無理なんですけど。
先ほどまでの断罪ルートのがまだマシなのかと思えるこの状況で、私は数時間前のことを思い出していた。
◇ ◇ ◇
薄暗い空間に重い鎧を着た人の足音だけが響いていた。
――カツン、カツン。
どこに向かうのかなど考えるまでもない。
ココは行先なんてない、ただの牢獄なのだから。
息を吸うだけで、むせ込みそうになるほどのカビ臭さ。肌に吸い付くような感覚は湿気が多いせいだろう。
冷えきったむき出しの床は体から感覚を奪い、腕を縛っている鎖が私の自由までも奪っている。
牢の前に吊るされたランプだけは辺りを照らしているものの、自分の回り以外どこまでこの空間が広がっているのかも想像はつかなかった。
時折聞こえて来る他の囚人たちの放つうめき声に、私の気力もすでに限界だった。
「本当に……なんなのよ、ココ」
どうしてこんなことになったのか。ちがう。どうしてこんなことになっているのか。そもそもなぜ私がここにいるのか、まったく思い出せない。
さっきまで確かに四連勤目となる夜勤をしていたはずなのに。何がどうしたら、こんなどっかの異世界のようなトコにいるの?
私は自他ともに認める社畜。
シフトに穴が空けば進んで夜勤に入り仮眠の後に日勤をして、また夜勤に入るというのを繰り返していた。
まぁ、人と関わるあの仕事が好きだったし、倒れた仲間の代わりにするという使命感もあったんだけど。
ただ問題は、仮眠から目覚めたら牢の中ということ。
しかも先ほど見回りに来た兵士らしき人間は、明らかに私が知っている世界の人間ではない。
しいて言うならそう、ロールプレイングゲームとか昨日読んでいた異世界恋愛の漫画とか……。
「いや、うんそうだね。やっぱりどう考えてもさぁ、死んだんだね、私……。いやいやいやいや、寝落ちからの死亡とかってさすがにひどくない? もっとこうさ、キャーとかワーとかの後に神様とか出てくるものじゃないの?」
ん-ーー。これって転生っていうのかな。ああでも、夜勤の時にやっていた乙女ゲームはそんな感じだったかなぁ。
あれは転生じゃなくて、憑依みたいな感じだったのよね。ま、未練はないことはないけどそこまではいいさ。
いや、きっと良くはないんだろうけど。死んでしまうとはナサケナイから、仕方ないとどこか諦めている自分がいる。
ただ、この状況はアウトでしょう。いくら私の諦めが良い方だとはいっても、これは受け入れられそうにない。
「牢屋にいる縦髪ロールの令嬢ってさぁ、これはさすがにひどくない? いや、絶対に神様とかいたら抗議するレベルでしょう。だってこれ、頑張っていい方に考えても、悪役令嬢とかの断罪ルートのエンディング部分じゃないのよ! いきなり起きてバッドエンドとか、おかしいでしょう!」
金髪縦ロールは艶やかでしっかり固定されているよう。頭を左右に振ったくらいでは崩れそうになかった。
きゅるんっとか音が聞こえそうなほどなぐらい、しっかりとカールが巻かれている。
私はこの子の名前すら知らないけど、しっかり憑依しちゃっているし。
でも、憑依にしてはこの子の記憶みたいなのがないのよね。
何も分からないまま断罪シーンまっしぐらとか、いきなり起きてエンドですか?
神様さすがにもう少し手心っていうかさぁ、いや、私何かしたんですか……。
天井から吊られた鎖に手を繋がれている以上、顔を覆って泣くことすら出来ない。
出てくるのはため息ばかりだった。
そしてまたゆっくりと足音が近づいてくる。
見回りの兵だろうか。
彼に聞けば罪状を教えてくれるかもしれないけど、下手に刺激して危害を加えられても怖いし。
あああ、もうどうすれば正解なのよ。
暗闇も音も、この空間も、全てが重くのしかかる恐怖でしかなかった。
25
お気に入りに追加
874
あなたにおすすめの小説
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
第二部の悪役令嬢がシナリオ開始前に邪神の封印を解いたら闇落ち回避は出来ますか?~王子様との婚約解消はいつでも大歓迎です~
斯波
恋愛
辺境伯令嬢ウェスパルは王家主催のお茶会で見知らぬ令嬢達に嫌味を言われ、すっかり王都への苦手意識が出来上がってしまった。母に泣きついて予定よりも早く領地に帰ることになったが、五年後、学園入学のために再び王都を訪れなければならないと思うと憂鬱でたまらない。泣き叫ぶ兄を横目に地元へと戻ったウェスパルは新鮮な空気を吸い込むと同時に、自らの中に眠っていた前世の記憶を思い出した。
「やっば、私、悪役令嬢じゃん。しかもブラックサイドの方」
ウェスパル=シルヴェスターは三部作で構成される乙女ゲームの第二部 ブラックsideに登場する悪役令嬢だったのだ。第一部の悪役令嬢とは違い、ウェスパルのラストは断罪ではなく闇落ちである。彼女は辺境伯領に封印された邪神を復活させ、国を滅ぼそうとするのだ。
ヒロインが第一部の攻略者とくっついてくれればウェスパルは確実に闇落ちを免れる。だがプレイヤーの推しに左右されることのないヒロインが六人中誰を選ぶかはその時になってみないと分からない。もしかしたら誰も選ばないかもしれないが、そこまで待っていられるほど気が長くない。
ヒロインの行動に関わらず、絶対に闇落ちを回避する方法はないかと考え、一つの名案? が頭に浮かんだ。
「そうだ、邪神を仲間に引き入れよう」
闇落ちしたくない悪役令嬢が未来の邪神を仲間にしたら、学園入学前からいろいろ変わってしまった話。
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~
薄味メロン
恋愛
HOTランキング 1位 (2019.9.18)
お気に入り4000人突破しました。
次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。
だが、誰も知らなかった。
「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」
「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」
メアリが、追放の準備を整えていたことに。
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる