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 こんなに早く連れ出されるのかと覚悟を決めた時、ふわりと抱きしめられた。

 驚いて、私は顔を見上げる。


「やっと言えたね、ティア」


 私を抱きしめたのはカイルだった。

 温かく、しっかりとした腕。ずっと欲しかったものだ。


「なんで、どうして」


 離れなければいけないと頭では思うのに、一度包まれるともうあがなうことなど出来なかった。

 なによりもずっと欲しかったぬくもりだ。

 助けを求めた一番のモノ。


「だって……だって……」

「夏休みが終わって、すぐにティアの様子がおかしくなっただろ。僕とリーリエは学園内でまず、ティアに何かあったのか探ることにしたんだ。そしたら一人の子が、ティアが悪役になる方法を探していたので一冊の本を渡したことを突き止めたんだ」

「それは……」

「そして、その本に書いてある悪役令嬢のような行動を取っていることもね」

「その割には、あーんまり、悪役っぽくはなかったけどね」

「リーリエ」


 カイルの後ろには目を真っ赤に腫らせた、リーリエが仁王立ちしていた。


「ティアのやることは、いちいち小さいのよ。教科書を隠してみたけど、わたしが困るといけないから落とし物で届けてみたり、お弁当を隠して、代わりにお菓子を置いてみたり。あの悪役令嬢の本をカイルと読んだけど、全然思ってたのと違うんですもの。逆に何がしたいのかと、頭を抱えたわよ」

「あああ、だって」


 二人があの本の内容を知っていた。

 知っていて、今まで私の芝居に付き合っていてくれていたということか。

 でも、それならどうして?

 どうして最後まで二人は付き合ってくれたのだろう。


「悪役令嬢がやりたいのなら、もっとちゃんと演じないと」

「だ、だって、ホントにモノがなくなったら困るだろうし、お腹が空いたらかわいそうだし……。水に濡れたら風邪、引くでしょ。そんなこと、さすがに出来ないわよ」

「まったく……。ティアは悪役向きじゃないのよ」

「それは……そうかもしれないけど」

「だからわたし、あんまりイライラしたから、わざと誰かにいじめられてるフリをしたのよ」

「リーリエ! じゃあ、水をかけられたとか、階段から突き落とされてケガをしたっていうのは……」

「あれはみんな、自作自演よ。それなのにティアったら、今度は誰がしたのかと犯人捜し、し出すし。ホントに困ったコだわ」


 リーリエは盛大にため息をついた。


「うそ。あれがリーリエ、の?」

「そうよ。わたしが考えた、わたしへのいじめ」


 まさかあれがリーリエの自作自演だったなんて。

 私が考えたいじめなんかよりよほど悪質で、本物のいじめに見えた。
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