悪役令嬢の涙。

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化

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「あー、やっと終わった。終わった。もうばっちりだったわ。全部計画通り、ちゃーんと出来たもの。全部終わり……やっと、おわったよぅ」


 ドアを背にして、そのまま座り込む。

 そう、やっと終わったのだ。

 これでもう、嫌な役を演じなくても済む。

 これ以上、リーリエの泣き顔も、カイルの怒った顔も見ないで済む。

 堪えていた涙が溢れてきた。


「これで……きっとた……すけられ……る。ごめん……なさい。ごめんなさい、ごめんなさい……」


 心の中で何度も謝った。

 二人とも傷つけてしまってごめんなさい。

 お父様、お母様、無念を晴らせずこの地を去ることを許して下さい。

 顔を押さえた指の隙間から、止めどなく涙は溢れてくる。


「ふえぇぇぇ、なんで……どうして」


 ちゃんと出来たはずなのに、こんなにも辛いなんて。

 笑えるはずだった。カイルを守れたんだもの。

 これはハッピーエンドのはずだ。

 そう、二人が幸せになる……、私が悪役の物語。


「痛いよう……苦しいよぅ……。誰か、たすけて」


 自分がヒロインでなくてもいいと思った。

 それなのに、その物語はこんなにも私の心を苦しめる。

 せめてなにも関係のない端役なら、まだマシだったのだろう。


「たすけて……」


 知っている。

 助けも、救いも、私にはないことなど。

 でも一体私がなにをしたというのだろう。

 なんで私だけがこんなにも苦しまなけれないけないのだろう。

 手にした幸せが、すべてこぼれ落ちていく。

 しかもそれが、あの憎い叔父たちの手によって。


「だれか……私を……たすけてよ」


 ほんの少しでもいい。

 誰かに抱きしめて欲しかった。

 追放されるにしても、ただ抱きしめて……。

 膝に顔を埋める。

 真っ暗な世界は、私の孤独を表すようだった。

 ふいに、急に背にしていたドアが開く。

 そんなことが起こるなどと予想していなかった私は、もたれかかったまま後ろに倒れ込んだ。
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