3 / 10
003
しおりを挟む
家の馬車を使わせてもらえないため、街の辻馬車を乗り継ぎ、家に着くころには日も暮れかけていた。
広間で食事をしている二人に挨拶だけしてから部屋に戻ろうと思っていた。
いつものように使用人が使う勝手口から入り、広間へ。
しかしそこで二人の会話を聞いてしまったのだ。
「……まったく、せっかく爵位を手に入れたというのに、ここは金がほんとに少ないな。領地の税を三倍くらいにしないと、遊ぶ金もありゃしない」
「いいじゃないですか、あーんなに簡単にお兄さんたちが死んでくれたんだから」
「あの馬車にティアが乗ってなかったのは誤算だったけどな」
「あはははは。確かにそれは言えてるわね」
二人の下品な高笑いが食堂に響き渡る。
しかし私には、二人の会話が頭に入ってこなかった。
乗っていなかったのが、誤算? あんなに簡単に死んで?
なにを言っているの。それは、なんのことを指しているの……。
「でも、いいではないですの。このままティアが公爵家に嫁いだあと、今回のように公爵様には退場していただいてしまえば」
退場? どこから、誰が退場するというのだろうか。
「それもそうだな。ティアが公爵家に残れば、あそこの金も使いたい放題だ。学園を卒業したら、とっとと籍を入れてもらうようにしなければな」
「ホントに、それですよね」
「そのために育ててやっているようなものだもの」
「学園のお金も、ドレスのお金も馬鹿にならないからなぁ。ぜーんぶまとめて返してもらわないとな」
そういった後、叔父たちは大きな声でまた笑ってい出す。
私は口元を押さえ、がくがくとする体をなんとか動かし自室へと階段を上る。
今の言葉を組み合わせれば、嫌でも分かる。
彼らがなにをしたのか。誰が父と母を殺したのか。
そして彼らがこの先、何をしようとしているのか。
両親が領地へと向かう道で盗賊に襲われたのは、このためだったなんて。
爵位とお金のため、そんなもののために、二人はこの人たちによって殺された。
そんなもののために……、お父様とお母様は……。
悲しくて、辛くて、なによりも苦しかった。そんなことも知らずに生きて来たことが。
どうして二人の死をただ受け入れてしまったのだろう。
あの時もっと、誰かに調べて欲しいと頼んでいれば、こんな思いはしなかったのかもしれない。
全部私のせいだ。
何もしらない。何も考えなかった、私のせい。
怒りなのかくやしさなのか。
全部をまぜてしまったような感情が、ドロドロと私の中を支配していく。
自室に逃げ帰ると私はドアを閉め、その場に膝から崩れ落ちた。
広間で食事をしている二人に挨拶だけしてから部屋に戻ろうと思っていた。
いつものように使用人が使う勝手口から入り、広間へ。
しかしそこで二人の会話を聞いてしまったのだ。
「……まったく、せっかく爵位を手に入れたというのに、ここは金がほんとに少ないな。領地の税を三倍くらいにしないと、遊ぶ金もありゃしない」
「いいじゃないですか、あーんなに簡単にお兄さんたちが死んでくれたんだから」
「あの馬車にティアが乗ってなかったのは誤算だったけどな」
「あはははは。確かにそれは言えてるわね」
二人の下品な高笑いが食堂に響き渡る。
しかし私には、二人の会話が頭に入ってこなかった。
乗っていなかったのが、誤算? あんなに簡単に死んで?
なにを言っているの。それは、なんのことを指しているの……。
「でも、いいではないですの。このままティアが公爵家に嫁いだあと、今回のように公爵様には退場していただいてしまえば」
退場? どこから、誰が退場するというのだろうか。
「それもそうだな。ティアが公爵家に残れば、あそこの金も使いたい放題だ。学園を卒業したら、とっとと籍を入れてもらうようにしなければな」
「ホントに、それですよね」
「そのために育ててやっているようなものだもの」
「学園のお金も、ドレスのお金も馬鹿にならないからなぁ。ぜーんぶまとめて返してもらわないとな」
そういった後、叔父たちは大きな声でまた笑ってい出す。
私は口元を押さえ、がくがくとする体をなんとか動かし自室へと階段を上る。
今の言葉を組み合わせれば、嫌でも分かる。
彼らがなにをしたのか。誰が父と母を殺したのか。
そして彼らがこの先、何をしようとしているのか。
両親が領地へと向かう道で盗賊に襲われたのは、このためだったなんて。
爵位とお金のため、そんなもののために、二人はこの人たちによって殺された。
そんなもののために……、お父様とお母様は……。
悲しくて、辛くて、なによりも苦しかった。そんなことも知らずに生きて来たことが。
どうして二人の死をただ受け入れてしまったのだろう。
あの時もっと、誰かに調べて欲しいと頼んでいれば、こんな思いはしなかったのかもしれない。
全部私のせいだ。
何もしらない。何も考えなかった、私のせい。
怒りなのかくやしさなのか。
全部をまぜてしまったような感情が、ドロドロと私の中を支配していく。
自室に逃げ帰ると私はドアを閉め、その場に膝から崩れ落ちた。
15
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに
冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。
ゲームにはほとんど出ないモブ。
でもモブだから、純粋に楽しめる。
リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。
———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?!
全三話。
「小説家になろう」にも投稿しています。

どうやら貴方の隣は私の場所でなくなってしまったようなので、夜逃げします
皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。
完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。

【完結】真実の愛のキスで呪い解いたの私ですけど、婚約破棄の上断罪されて処刑されました。時間が戻ったので全力で逃げます。
かのん
恋愛
真実の愛のキスで、婚約者の王子の呪いを解いたエレナ。
けれど、何故か王子は別の女性が呪いを解いたと勘違い。そしてあれよあれよという間にエレナは見知らぬ罪を着せられて処刑されてしまう。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」 これは。処刑台にて首チョンパされた瞬間、王子にキスした時間が巻き戻った少女が、全力で王子から逃げた物語。
ゆるふわ設定です。ご容赦ください。全16話。本日より毎日更新です。短めのお話ですので、気楽に頭ふわっと読んでもらえると嬉しいです。※王子とは結ばれません。 作者かのん
.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.ホットランキング8位→3位にあがりました!ひゃっほーー!!!ありがとうございます!

【完結】「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」――冷徹公爵の執着愛から逃げられません」
21時完結
恋愛
「君との婚約はなかったことにしよう」
そう言い放ったのは、幼い頃から婚約者だった第一王子アレクシス。
理由は簡単――新たな愛を見つけたから。
(まあ、よくある話よね)
私は王子の愛を信じていたわけでもないし、泣き喚くつもりもない。
むしろ、自由になれてラッキー! これで平穏な人生を――
そう思っていたのに。
「お前が王子との婚約を解消したと聞いた時、心が震えたよ」
「これで、ようやく君を手に入れられる」
王都一の冷徹貴族と恐れられる公爵・レオンハルトが、なぜか私に異常な執着を見せ始めた。
それどころか、王子が私に未練がましく接しようとすると――
「君を奪う者は、例外なく排除する」
と、不穏な笑みを浮かべながら告げてきて――!?
(ちょっと待って、これって普通の求愛じゃない!)
冷酷無慈悲と噂される公爵様は、どうやら私のためなら何でもするらしい。
……って、私の周りから次々と邪魔者が消えていくのは気のせいですか!?
自由を手に入れるはずが、今度は公爵様の異常な愛から逃げられなくなってしまいました――。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

(完結)いつのまにか懐かれました。懐かれたからには私が守ります。
水無月あん
恋愛
私、マチルダは子爵家の娘。騎士団長様のような騎士になることを目指し、剣の稽古に励んでいる。
そんなある日、泣いている赤い髪の子どもを見つけて、かばった。すると、なぜだか懐かれました。懐かれた以上は私が守ります!
「無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?」のスピンオフとなりますが、この作品だけでも読めます。
番外編ででてくる登場人物たちが数人でてきます。
いつもながら設定はゆるいです。気軽に楽しんでいただければ嬉しいです。
よろしくお願いします。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる