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033 自称、浮気女襲来
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「こんなとこにいらしていたなんて、思いませんでしたわ」
口元を扇子で覆いながら、一人の女性が侍女を連れて入ってきた。
真っ赤なドレスには、これでもかというほどの宝石がちりばめられている。
夜会でもないのに、派手なドレスだこと。
「あの、部屋をお間違いではないのですか?」
「いえ? 合ってますわよ」
こちらが許可するまでもなく、女性は私の対面に座った。
シェナがすっと立ち上がり、私の後ろにつく。
「ここで貴女とのお話合いをするなど、聞いてなかったのですが……シルビア公女様?」
「まぁ。それが公爵令嬢であるワタクシに言うことですの?」
「今はそんな身分など、関係ないかと思うのですが」
「あはははは。あなた可笑しなことを言うのね。この世界で身分は絶対ではないですの」
「だとしてもです。いきなり部屋に入って来られるなど、非常識なのでは?」
「非常識って、わざわざ来て差し上げたのよ。ありがたく思っていただかないと」
うん。
久しぶりにこんなに話の通じない人に会ったわ。
素で、頭大丈夫ですかって聞きたいぐらい。
「別にこちらから、そんなことを頼んでいませんが」
「そんなことは関係ないのよ。目上のモノが、わざわざ訪ねてきたのだから、ちゃんとするのが普通でしょう」
さも当たり前かのように、シルビアは言ってのける。
確かに身分は絶対だ。
そんなことなど、私も知っている。
だけど、そんなことよりももっと今は大切なことがあるから。
「わざわざ、ちゃんと……ねぇ。そんな身分の高い方いマトモな方が、わざわざ不倫のような真似事ですか?」
「なっ。なんですの、その言い方!」
「別に、何も間違ってなどないかと思うのですが?」
「ワタクシたちは純愛なのですわよ」
「純愛ねぇ。相手が結婚してしまっている以上、それは無理があるんじゃないですか?」
真実がどこにあるかはまだわからないけど、それでもこれだけのことをしたのだ。
私から責められないと思っていたなら、相当頭の中はお花畑ね。
もっとも、この人の言葉なんて私にはどーでもいいんだけど。
それでもなんだか、言わないと気が済まないのよね。
「自分が夫であるランド様から愛されなかったからと言って、ワタクシに当たらないで下さいます?」
「いつ私が、夫から愛されていないなどど言いましたか? それにもし仮にそれが真実だとしても、所詮そっちは不倫程度ですよね?」
「くっ」
貴族間では、不倫などあったとしても離婚は認められない。
ましてやこの国には、第二夫人や側妃なんてものも存在しない。
一度結婚してしまえば、よほどの非がどちらかにない以上は婚姻関係は継続する。
そんなことなど、言われなくとも知っているはずなのに。
「でも、ランド様はワタクシのことを愛していると言って下さったのですわよ。そして、この結婚は国が決めた政略結婚でしかないと」
「それは本人の口から聞かないと、何ともですわね。だいたい、それだってシルビア公女様の妄想かもしれませんし?」
「妄想ですって!! あなた、その成りでワタクシより愛されているとでも思っているわけ⁉」
私が白豚だから。
初夜すらマトモにしてもらってないから。
だから自分の方が愛されてるって?
そうじゃなかったとしても、奪ってさえしまえば愛してもらえるはずだって?
そんな薄っぺらい魂胆。
私に分からないとでも思ったのかしら。
見比べて、勝ち誇った顔をシルビアはする。
だけど――
「思ってますけど? 私とランド様の仲はとても長く深いものです。たかたが、あとからポッと出てきたような人に負けるなんて思ってもいませんし、私はランド様に愛されていると思っています」
例え言葉がなくたって。
そういうこともなくたって。
ちゃんと愛情を感じてはいるの。
もしかしたらそれが、家族への愛かもしれないし。
本当のではないかもしれないけど。
でもちゃんと感じてはいるのよ……。
「ぬけぬけとそんなことが言えたものね。鏡見てから言いなさいよね、白豚のくせに。女としてなんて見られるわけがないじゃないの‼」
激昂し、顔を真っ赤にしたシルビアは持っていた扇子をその手で握り潰す。
怒鳴りたいのはこっちよ。
いい加減頭にきて、机を叩こうとした瞬間、部屋のドアが勢いよく開いた。
口元を扇子で覆いながら、一人の女性が侍女を連れて入ってきた。
真っ赤なドレスには、これでもかというほどの宝石がちりばめられている。
夜会でもないのに、派手なドレスだこと。
「あの、部屋をお間違いではないのですか?」
「いえ? 合ってますわよ」
こちらが許可するまでもなく、女性は私の対面に座った。
シェナがすっと立ち上がり、私の後ろにつく。
「ここで貴女とのお話合いをするなど、聞いてなかったのですが……シルビア公女様?」
「まぁ。それが公爵令嬢であるワタクシに言うことですの?」
「今はそんな身分など、関係ないかと思うのですが」
「あはははは。あなた可笑しなことを言うのね。この世界で身分は絶対ではないですの」
「だとしてもです。いきなり部屋に入って来られるなど、非常識なのでは?」
「非常識って、わざわざ来て差し上げたのよ。ありがたく思っていただかないと」
うん。
久しぶりにこんなに話の通じない人に会ったわ。
素で、頭大丈夫ですかって聞きたいぐらい。
「別にこちらから、そんなことを頼んでいませんが」
「そんなことは関係ないのよ。目上のモノが、わざわざ訪ねてきたのだから、ちゃんとするのが普通でしょう」
さも当たり前かのように、シルビアは言ってのける。
確かに身分は絶対だ。
そんなことなど、私も知っている。
だけど、そんなことよりももっと今は大切なことがあるから。
「わざわざ、ちゃんと……ねぇ。そんな身分の高い方いマトモな方が、わざわざ不倫のような真似事ですか?」
「なっ。なんですの、その言い方!」
「別に、何も間違ってなどないかと思うのですが?」
「ワタクシたちは純愛なのですわよ」
「純愛ねぇ。相手が結婚してしまっている以上、それは無理があるんじゃないですか?」
真実がどこにあるかはまだわからないけど、それでもこれだけのことをしたのだ。
私から責められないと思っていたなら、相当頭の中はお花畑ね。
もっとも、この人の言葉なんて私にはどーでもいいんだけど。
それでもなんだか、言わないと気が済まないのよね。
「自分が夫であるランド様から愛されなかったからと言って、ワタクシに当たらないで下さいます?」
「いつ私が、夫から愛されていないなどど言いましたか? それにもし仮にそれが真実だとしても、所詮そっちは不倫程度ですよね?」
「くっ」
貴族間では、不倫などあったとしても離婚は認められない。
ましてやこの国には、第二夫人や側妃なんてものも存在しない。
一度結婚してしまえば、よほどの非がどちらかにない以上は婚姻関係は継続する。
そんなことなど、言われなくとも知っているはずなのに。
「でも、ランド様はワタクシのことを愛していると言って下さったのですわよ。そして、この結婚は国が決めた政略結婚でしかないと」
「それは本人の口から聞かないと、何ともですわね。だいたい、それだってシルビア公女様の妄想かもしれませんし?」
「妄想ですって!! あなた、その成りでワタクシより愛されているとでも思っているわけ⁉」
私が白豚だから。
初夜すらマトモにしてもらってないから。
だから自分の方が愛されてるって?
そうじゃなかったとしても、奪ってさえしまえば愛してもらえるはずだって?
そんな薄っぺらい魂胆。
私に分からないとでも思ったのかしら。
見比べて、勝ち誇った顔をシルビアはする。
だけど――
「思ってますけど? 私とランド様の仲はとても長く深いものです。たかたが、あとからポッと出てきたような人に負けるなんて思ってもいませんし、私はランド様に愛されていると思っています」
例え言葉がなくたって。
そういうこともなくたって。
ちゃんと愛情を感じてはいるの。
もしかしたらそれが、家族への愛かもしれないし。
本当のではないかもしれないけど。
でもちゃんと感じてはいるのよ……。
「ぬけぬけとそんなことが言えたものね。鏡見てから言いなさいよね、白豚のくせに。女としてなんて見られるわけがないじゃないの‼」
激昂し、顔を真っ赤にしたシルビアは持っていた扇子をその手で握り潰す。
怒鳴りたいのはこっちよ。
いい加減頭にきて、机を叩こうとした瞬間、部屋のドアが勢いよく開いた。
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