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024 マイスイートエンジェル
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支度の時間などあっという間に過ぎ、兄は昼前には屋敷に到着した。
早すぎてお茶の用意など最後までバタついたのは言うまでもない。
「おお、マイスイートエンジェル! 元気していたかぃ?」
「……お兄様」
兄を客室で待たせ、厨房を手伝っていた私はお茶菓子などを用意し、やっとの思いでこの部屋へと来た。
兄は待ちわびたというよりは、私に会えた喜びを全身で表現している。
ソファーの前で立ち上がり両手を大きく広げ、どうやらハグをしたいようだった。
「お兄様、私はもう結婚した身なのですよ?」
いくら身内だからといって、ハグってどうなのハグって。
しかもマイスイートエンジェル? と呼ばれるほどの年齢でも、もうないんだけど。
さすがに言われている私の方が恥ずかしくなってしまうわ。
「久しぶりに会ったというのに……我が妹はもう兄のことを愛してはくれなくなったというのかい?」
「もう、大袈裟ですお兄様」
「これが大袈裟なものか。もうボクは何を楽しみとして生きて行けばいいんだ!」
「……もぅ」
ソファーに倒れ込み、悔しそうにドンドンと叩く兄を見て、私はため息をついた。
溺愛っぷりもここまでくると、困ったモノね。
私は仕方なく、兄の隣にそっと座った。
兄はうるうるとした翡翠色の瞳で私を見上げる。
兄と私はこの瞳の色以外、良く似ている気がする。
ただ兄は私よりも、ランドよりも背が高くて細いんだけど。
こうマジマジと見ると、ランドとはまた違ったかっこよさね。
社交界でも婚約者がいない兄は引く手あまたなんだけど、このシスコンがネックなのよね。
妹よりもかわいい女性を~なんていうもんだから、みんな困惑していたのを覚えている。
「お帰りなさいませ、お兄様」
私は仕方なく座ったまま両手を大きく広げた。
兄は満足そうに微笑むと、私にハグをする。
「ただいま、ミレイヌ。会いたかったよ」
「お元気そうで何よりですわ」
「ああ、昨日こっちに戻ったばかりなんだ」
「それはいいですが、仮にも私は結婚した身なのです。昨日の今日でこれは困ります」
もてなさなくていいと言われても、清掃やお茶菓子とか最低限のことはしなくてはいけない。
兄が来るというために、どれだけ朝から使用人たちが急いで頑張ってくれていたことか。
「屋敷に戻ったら、ミレイヌがいないことを思い出してね。お土産だけでも早く渡したかったんだ、ごめんよ」
「そのお気持ちはありがたいですわ」
溺愛からの行動ってわかってるからこそ、あんまり言いたくはないけど、これが頻回になっても困るからね。
何事も最初が肝心なのよ。
「そんなことよりも、少し痩せたんじゃないかい? まさかココで嫌な思いをしてるんじゃないかい? そうならもうこのまま家に帰ろうミレイヌ」
「どうしてそう飛躍するんですか!?」
「嫁がせる前からミレイヌがあまり知らぬ相手と結婚し、身もやつれる思いをするんじゃないかってみんな心配してたんだよ」
「考えすぎです」
「でも痩せたと思うよ。何か嫌なことがあったのかい?」
痩せたとはいっても、ドレスワンサイズ分くらいでしかないのに。
兄は心配そうに私の顔を覗き込む。
どこからどう見ても、まだ白豚さんなんだけどなぁ。
身も細ってないし。
「嫌なコト……そうですね。これだけ太っていると馬鹿にされるということがわかったので、ダイエットを始めたんです」
「馬鹿に? 誰にそんなことをされたんだいミレイヌ!」
兄は私の肩を強く掴むと、眉間にシワを寄せた。
「誰というか……社交界で、です。未だにランド様と私の結婚を認めない人もいますし、私が愛されていないと勘違いなさる方たちがかなりたくさん、この妻の座を狙ってきていますからね」
「良くもそんなバカげたことを」
この意見には賛成ね。
いくら認めたくなくたって、結婚した事実は変わらないのだから。
「どこの家の者か教えてくれれば、正式に抗議を出そう。うちの可愛い妹に喧嘩を売るなど、我が侯爵家としても黙ってはいられない」
立ち上がりすぐに行動に写そうとする、兄の服の裾を掴む。
そしてソファーをポンポン叩き、座るように促した。
早すぎてお茶の用意など最後までバタついたのは言うまでもない。
「おお、マイスイートエンジェル! 元気していたかぃ?」
「……お兄様」
兄を客室で待たせ、厨房を手伝っていた私はお茶菓子などを用意し、やっとの思いでこの部屋へと来た。
兄は待ちわびたというよりは、私に会えた喜びを全身で表現している。
ソファーの前で立ち上がり両手を大きく広げ、どうやらハグをしたいようだった。
「お兄様、私はもう結婚した身なのですよ?」
いくら身内だからといって、ハグってどうなのハグって。
しかもマイスイートエンジェル? と呼ばれるほどの年齢でも、もうないんだけど。
さすがに言われている私の方が恥ずかしくなってしまうわ。
「久しぶりに会ったというのに……我が妹はもう兄のことを愛してはくれなくなったというのかい?」
「もう、大袈裟ですお兄様」
「これが大袈裟なものか。もうボクは何を楽しみとして生きて行けばいいんだ!」
「……もぅ」
ソファーに倒れ込み、悔しそうにドンドンと叩く兄を見て、私はため息をついた。
溺愛っぷりもここまでくると、困ったモノね。
私は仕方なく、兄の隣にそっと座った。
兄はうるうるとした翡翠色の瞳で私を見上げる。
兄と私はこの瞳の色以外、良く似ている気がする。
ただ兄は私よりも、ランドよりも背が高くて細いんだけど。
こうマジマジと見ると、ランドとはまた違ったかっこよさね。
社交界でも婚約者がいない兄は引く手あまたなんだけど、このシスコンがネックなのよね。
妹よりもかわいい女性を~なんていうもんだから、みんな困惑していたのを覚えている。
「お帰りなさいませ、お兄様」
私は仕方なく座ったまま両手を大きく広げた。
兄は満足そうに微笑むと、私にハグをする。
「ただいま、ミレイヌ。会いたかったよ」
「お元気そうで何よりですわ」
「ああ、昨日こっちに戻ったばかりなんだ」
「それはいいですが、仮にも私は結婚した身なのです。昨日の今日でこれは困ります」
もてなさなくていいと言われても、清掃やお茶菓子とか最低限のことはしなくてはいけない。
兄が来るというために、どれだけ朝から使用人たちが急いで頑張ってくれていたことか。
「屋敷に戻ったら、ミレイヌがいないことを思い出してね。お土産だけでも早く渡したかったんだ、ごめんよ」
「そのお気持ちはありがたいですわ」
溺愛からの行動ってわかってるからこそ、あんまり言いたくはないけど、これが頻回になっても困るからね。
何事も最初が肝心なのよ。
「そんなことよりも、少し痩せたんじゃないかい? まさかココで嫌な思いをしてるんじゃないかい? そうならもうこのまま家に帰ろうミレイヌ」
「どうしてそう飛躍するんですか!?」
「嫁がせる前からミレイヌがあまり知らぬ相手と結婚し、身もやつれる思いをするんじゃないかってみんな心配してたんだよ」
「考えすぎです」
「でも痩せたと思うよ。何か嫌なことがあったのかい?」
痩せたとはいっても、ドレスワンサイズ分くらいでしかないのに。
兄は心配そうに私の顔を覗き込む。
どこからどう見ても、まだ白豚さんなんだけどなぁ。
身も細ってないし。
「嫌なコト……そうですね。これだけ太っていると馬鹿にされるということがわかったので、ダイエットを始めたんです」
「馬鹿に? 誰にそんなことをされたんだいミレイヌ!」
兄は私の肩を強く掴むと、眉間にシワを寄せた。
「誰というか……社交界で、です。未だにランド様と私の結婚を認めない人もいますし、私が愛されていないと勘違いなさる方たちがかなりたくさん、この妻の座を狙ってきていますからね」
「良くもそんなバカげたことを」
この意見には賛成ね。
いくら認めたくなくたって、結婚した事実は変わらないのだから。
「どこの家の者か教えてくれれば、正式に抗議を出そう。うちの可愛い妹に喧嘩を売るなど、我が侯爵家としても黙ってはいられない」
立ち上がりすぐに行動に写そうとする、兄の服の裾を掴む。
そしてソファーをポンポン叩き、座るように促した。
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