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020 ぎこちない二人
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「よーし」
私はベッドの上で座ったまま足を広げ、体を折り畳む。
「……うん」
今まで現実から目を背けていたものの、やはり足首は自分では掴めない。
「ぐはっ、ヤバいわね」
思った以上だったわ。
どれだけ手を伸ばしても、大きなお腹が邪魔して足までは手が届くことはない。
それどころか体も固いようで、少し手を伸ばしただけで膝の裏が痛い。
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
こ、こんなにも出来ないものなの?
さすがにこれはダメでしょう。一人で靴下も履けないじゃないの。
いや、足を曲げたら辛うじて靴下は履けるのか。
片方の足を曲げると、爪先までは触ることが出来た。
それでも、満足に動けるという感じではない。
「いやいや、さすがにまずいわ」
冗談抜きでヤバいレベルね。
いくら私がズボラでテキトーな性格だからって、自分で自分のことが出来ないのは嫌だわ。
「ぐぬぬぬぬ」
足を再び伸ばし、私はストレッチを始めた。
お腹も邪魔で、体を前に折り畳めば息苦しくなる。
それでもまずは、足くらい掴めるようにならないとね。
腹筋が効果的なのかもしれないけど、ここまで太っていると無理そう。
しばらくはストレッチや軽めの体操ね。
あー、明日は窓拭きとかやってみようかな。
シェナには、さすがに小言言われそうだけど。
前屈みになりながら、ベッドに付いて邪魔をするお腹の肉を見ていると、ふいに部屋がノックされた。
こんな遅い時間に誰かしら?
シェナはとっくに時間外のはずなんだけどなぁ。
「はい」
「ミレイヌ、少しいいかい?」
聞きなれた、それでいてとても優しい声がドアの前から聞こえてきた。
私は足を閉じ、ベッドから降りようともがく。
「ランド様?!」
「遅い時間にすまないね。ただ君の顔が見たくて」
ランドはにこやかな笑みを浮かべながら、部屋へと入ってきた。
慌てつつも、なんとか私はベッドの縁に足を下ろす。
間に合った。
ランドに変な体勢見られなくて良かったわ。
内心かなり焦りつつも、何もなかったように私も微笑み返す。
「ああ、もう寝るところだったかい?」
「いえ。大丈夫ですよ」
まさかダイエットのために、お腹ぐいぐいしてましたなんて言えやしない。
「それよりもどうしたのですか、こんな時間に」
「君の顔が急に見たくなってね」
どうしてこの人は、さらりとこんな甘いセリフを言えるのかしら。
「嫌だったかな?」
「嫌なわけないじゃないですか」
心臓がその音を早くさせる。
嫌なわけがない。
私だって、本当はランドの顔をずっと見ていたい。
だけどこんな時、どんな風に反応していいのかわからないの。
私たちは婚約者としての期間は長かったけど、離れていた時期が長すぎた。
本来だったらそこで育てて行く関係性も、ほぼないまま結婚してしまったから。
「それなら良かった。隣に行ってもいいかな?」
「……はい」
夫婦なんだから、そんなこといちいち断らなくてもいいのに。
だけどどこかぎこちない二人が、ここにはいた。
「今日はあの果実酢をわざわざ王宮まで持ってきてくれてありがとう。すごく美味しかったよ」
「それは良かったです。疲労回復の効果もあるのですが、味に癖があるので苦手だったらどうしようかと思ってたんです」
「癖なんて全く感じなかったよ。あんなに爽やかで飲みやすいのは初めてさ」
ランドが私の隣にそっと座った。
触れそうで触れられない、ほんの少しもどかしい距離。
それでも心臓の音は速度を上げ、自分の心の中に何かを訴えかけている。
何歳ずぎたら胸がドキドキするのは、心臓病って言ってたっけ。
でもまだ私は若いし、これはその高鳴りなんかではないはず。
そう思いながら私はランドを見上げた。
私はベッドの上で座ったまま足を広げ、体を折り畳む。
「……うん」
今まで現実から目を背けていたものの、やはり足首は自分では掴めない。
「ぐはっ、ヤバいわね」
思った以上だったわ。
どれだけ手を伸ばしても、大きなお腹が邪魔して足までは手が届くことはない。
それどころか体も固いようで、少し手を伸ばしただけで膝の裏が痛い。
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
こ、こんなにも出来ないものなの?
さすがにこれはダメでしょう。一人で靴下も履けないじゃないの。
いや、足を曲げたら辛うじて靴下は履けるのか。
片方の足を曲げると、爪先までは触ることが出来た。
それでも、満足に動けるという感じではない。
「いやいや、さすがにまずいわ」
冗談抜きでヤバいレベルね。
いくら私がズボラでテキトーな性格だからって、自分で自分のことが出来ないのは嫌だわ。
「ぐぬぬぬぬ」
足を再び伸ばし、私はストレッチを始めた。
お腹も邪魔で、体を前に折り畳めば息苦しくなる。
それでもまずは、足くらい掴めるようにならないとね。
腹筋が効果的なのかもしれないけど、ここまで太っていると無理そう。
しばらくはストレッチや軽めの体操ね。
あー、明日は窓拭きとかやってみようかな。
シェナには、さすがに小言言われそうだけど。
前屈みになりながら、ベッドに付いて邪魔をするお腹の肉を見ていると、ふいに部屋がノックされた。
こんな遅い時間に誰かしら?
シェナはとっくに時間外のはずなんだけどなぁ。
「はい」
「ミレイヌ、少しいいかい?」
聞きなれた、それでいてとても優しい声がドアの前から聞こえてきた。
私は足を閉じ、ベッドから降りようともがく。
「ランド様?!」
「遅い時間にすまないね。ただ君の顔が見たくて」
ランドはにこやかな笑みを浮かべながら、部屋へと入ってきた。
慌てつつも、なんとか私はベッドの縁に足を下ろす。
間に合った。
ランドに変な体勢見られなくて良かったわ。
内心かなり焦りつつも、何もなかったように私も微笑み返す。
「ああ、もう寝るところだったかい?」
「いえ。大丈夫ですよ」
まさかダイエットのために、お腹ぐいぐいしてましたなんて言えやしない。
「それよりもどうしたのですか、こんな時間に」
「君の顔が急に見たくなってね」
どうしてこの人は、さらりとこんな甘いセリフを言えるのかしら。
「嫌だったかな?」
「嫌なわけないじゃないですか」
心臓がその音を早くさせる。
嫌なわけがない。
私だって、本当はランドの顔をずっと見ていたい。
だけどこんな時、どんな風に反応していいのかわからないの。
私たちは婚約者としての期間は長かったけど、離れていた時期が長すぎた。
本来だったらそこで育てて行く関係性も、ほぼないまま結婚してしまったから。
「それなら良かった。隣に行ってもいいかな?」
「……はい」
夫婦なんだから、そんなこといちいち断らなくてもいいのに。
だけどどこかぎこちない二人が、ここにはいた。
「今日はあの果実酢をわざわざ王宮まで持ってきてくれてありがとう。すごく美味しかったよ」
「それは良かったです。疲労回復の効果もあるのですが、味に癖があるので苦手だったらどうしようかと思ってたんです」
「癖なんて全く感じなかったよ。あんなに爽やかで飲みやすいのは初めてさ」
ランドが私の隣にそっと座った。
触れそうで触れられない、ほんの少しもどかしい距離。
それでも心臓の音は速度を上げ、自分の心の中に何かを訴えかけている。
何歳ずぎたら胸がドキドキするのは、心臓病って言ってたっけ。
でもまだ私は若いし、これはその高鳴りなんかではないはず。
そう思いながら私はランドを見上げた。
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