13 / 38
012 王宮でびゅー
しおりを挟む
「もう帰りませんか? ミレイヌ様」
珍しく弱気なシェナが、数歩あとを歩きながら小さく声をかけてきた。
ここへ来てからというものの、表情はいつもと変わらないポーカーフェイスを装っているけど、シェナはやたら周りが気になるようだった。
まぁそれも無理はない。
なにせココは王宮の廊下なんだもの。
「まだ来たばかりだし、目的達成してないのに帰ってどーするのよ」
「ミレイヌ様って、変なとこにだけ神経質図太いですよね」
「あのねぇ、図太くなければ貴族令嬢なんてやっていけないわよ」
「そうかもしれませんけど……」
「そんなにみんなの目が気になるの?」
「気にしないという方が無理です」
王宮に入った途端、すれ違う人たちはみんな私たちに目を向けていた。
普段から私がこういう場に出ないからもそうなんだけど。
たぶんみんな私の体型が気になってるみたい。
好奇の目と陰口。
それは王宮で働く者たちまで、こそこそと話しているのが聞こえてくるようだった。
そんな周りに睨みを効かせつつも、私を気遣うことにシェナは疲れ果ててしまったらしい。
気にしなくていいとは言ったんだけど、性格的にそーもいかないみたいね。
「そうかなぁ。気にしたら負けよシェナ」
「ですが……さすがに酷すぎませんか?」
「なれてるというより、シェナが思うほど気にもしてないからいいのに」
陰で何を言われようが別にそうもダメージにもならないのよね。
むしろイチイチ腹立てる方が疲れてお腹すくし。あーいうのは相手にしないのが一番なんだけど。
「ただ騎士団のとこにいるランド様にコレ渡すだけじゃない。もう少し堂々としてればいいのよ」
「それは分かってます」
「それかさぁ。注目される私って、やっぱり素敵なのね! とか。じゃなきゃ、みんな私に嫉妬してるのね、とか。そういう風に考えてみたら?」
「ポジティブすぎて、むしろ尊敬しますわ」
「あら、ありがとう」
なぜ私たちがわざわざこの王宮まで足を運んだのか。
それはコレ……果実酢が思った以上に美味しく出来たから。
朝、果実酢をお水で割って氷を入れて飲んだら酸味と甘さのバランスが抜群だったのよね。
甘すぎず爽やかなのど越しもそうだけど、ビネガーには疲労回復の効果がある。
だからお散歩もかねて、最近更に忙しくなってきたランドに差し入れをって思ったんだ。
騎士団の人がどれだけいるかわからないけど、大きな瓶で作ったから足りるでしょう。
それに私たちの分は、作った翌日に届いた兄からの恐ろしく大量の氷砂糖を消費するために、さらに二瓶作ったから。
お酒ではない分、一週間くらいしか冷所でも日持ちしないのよね。
だからせっかく上手に出来たから飲んでもらいたかったんだ。
「あわよくば、うちの嫁サイコーってならないかな」
「願望が口から出てますよ」
「だって」
「王宮では恥ずかしいのでお止めください、ミレイヌ様」
「もー」
いつもの安定なやり取りをしていると、少しだけシェナの顔が緩む。
緊張とか警戒心が少し取れたようね。
私のせいで気ばっかり張ってると疲れてしまうからね。
「ふふふ」
「どうしたんですか急に。気持ち悪い」
「さすがにそれ、ひどーい」
頬を膨らませながら抗議していると、長い廊下の反対側から数名の令嬢たちが歩いて来るのが見えた。
あー、なんかめんどくさそうな連中来ちゃったわ。
そんな本音が思わず口から漏れる前に、令嬢たちは私を見て立ち止まった。
珍しく弱気なシェナが、数歩あとを歩きながら小さく声をかけてきた。
ここへ来てからというものの、表情はいつもと変わらないポーカーフェイスを装っているけど、シェナはやたら周りが気になるようだった。
まぁそれも無理はない。
なにせココは王宮の廊下なんだもの。
「まだ来たばかりだし、目的達成してないのに帰ってどーするのよ」
「ミレイヌ様って、変なとこにだけ神経質図太いですよね」
「あのねぇ、図太くなければ貴族令嬢なんてやっていけないわよ」
「そうかもしれませんけど……」
「そんなにみんなの目が気になるの?」
「気にしないという方が無理です」
王宮に入った途端、すれ違う人たちはみんな私たちに目を向けていた。
普段から私がこういう場に出ないからもそうなんだけど。
たぶんみんな私の体型が気になってるみたい。
好奇の目と陰口。
それは王宮で働く者たちまで、こそこそと話しているのが聞こえてくるようだった。
そんな周りに睨みを効かせつつも、私を気遣うことにシェナは疲れ果ててしまったらしい。
気にしなくていいとは言ったんだけど、性格的にそーもいかないみたいね。
「そうかなぁ。気にしたら負けよシェナ」
「ですが……さすがに酷すぎませんか?」
「なれてるというより、シェナが思うほど気にもしてないからいいのに」
陰で何を言われようが別にそうもダメージにもならないのよね。
むしろイチイチ腹立てる方が疲れてお腹すくし。あーいうのは相手にしないのが一番なんだけど。
「ただ騎士団のとこにいるランド様にコレ渡すだけじゃない。もう少し堂々としてればいいのよ」
「それは分かってます」
「それかさぁ。注目される私って、やっぱり素敵なのね! とか。じゃなきゃ、みんな私に嫉妬してるのね、とか。そういう風に考えてみたら?」
「ポジティブすぎて、むしろ尊敬しますわ」
「あら、ありがとう」
なぜ私たちがわざわざこの王宮まで足を運んだのか。
それはコレ……果実酢が思った以上に美味しく出来たから。
朝、果実酢をお水で割って氷を入れて飲んだら酸味と甘さのバランスが抜群だったのよね。
甘すぎず爽やかなのど越しもそうだけど、ビネガーには疲労回復の効果がある。
だからお散歩もかねて、最近更に忙しくなってきたランドに差し入れをって思ったんだ。
騎士団の人がどれだけいるかわからないけど、大きな瓶で作ったから足りるでしょう。
それに私たちの分は、作った翌日に届いた兄からの恐ろしく大量の氷砂糖を消費するために、さらに二瓶作ったから。
お酒ではない分、一週間くらいしか冷所でも日持ちしないのよね。
だからせっかく上手に出来たから飲んでもらいたかったんだ。
「あわよくば、うちの嫁サイコーってならないかな」
「願望が口から出てますよ」
「だって」
「王宮では恥ずかしいのでお止めください、ミレイヌ様」
「もー」
いつもの安定なやり取りをしていると、少しだけシェナの顔が緩む。
緊張とか警戒心が少し取れたようね。
私のせいで気ばっかり張ってると疲れてしまうからね。
「ふふふ」
「どうしたんですか急に。気持ち悪い」
「さすがにそれ、ひどーい」
頬を膨らませながら抗議していると、長い廊下の反対側から数名の令嬢たちが歩いて来るのが見えた。
あー、なんかめんどくさそうな連中来ちゃったわ。
そんな本音が思わず口から漏れる前に、令嬢たちは私を見て立ち止まった。
49
お気に入りに追加
291
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
最初から勘違いだった~愛人管理か離縁のはずが、なぜか公爵に溺愛されまして~
猪本夜
恋愛
前世で兄のストーカーに殺されてしまったアリス。
現世でも兄のいいように扱われ、兄の指示で愛人がいるという公爵に嫁ぐことに。
現世で死にかけたことで、前世の記憶を思い出したアリスは、
嫁ぎ先の公爵家で、美味しいものを食し、モフモフを愛で、
足技を磨きながら、意外と幸せな日々を楽しむ。
愛人のいる公爵とは、いずれは愛人管理、もしくは離縁が待っている。
できれば離縁は免れたいために、公爵とは友達夫婦を目指していたのだが、
ある日から愛人がいるはずの公爵がなぜか甘くなっていき――。
この公爵の溺愛は止まりません。
最初から勘違いばかりだった、こじれた夫婦が、本当の夫婦になるまで。
【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。
そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。
毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。
もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。
気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。
果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは?
意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。
とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。
【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!
永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手
ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。
だがしかし
フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。
貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです
鳴宮野々花@初書籍発売中【二度婚約破棄】
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。
十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。
そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり──────
※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。
※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる