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はるの場合 3
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「あの‼」
私は駅の改札口から出てくるキャリーバッグを引く男性に、声をかけた。
その男性は一瞬、怪訝そうに眉をしかめた後、私が抱っこする子どもを見て気づいたように声を上げた。
「お隣の? 奥さん?」
「はい。そうです。お帰りのとこ、申し訳ありません。でも、どうしてもお話したいことがあって」
「あー、はい。……分かりました」
あまりに必死な私に何かを感じ取ったのか、諦めたように私についてきてくれた。
三人で、個室のあるお店に入る。
今日の日のために、探し出したお店だ。
ここなら多少、うるさくなってしまっても大丈夫だから。
「あの、それでお話というのは?」
「実はうちの旦那が……」
私は彼に全ての事情を話した。
夫と彼の奥さんがかなり前から不倫関係にあること。
家庭を省みず、隣の家に入り浸っていること。
そして何より、二人が私たちとの離婚を望んでいること。
「それは本当なのですか?」
「はい。何度も目撃した上に、録音したモノもあります」
「はっ。ふざけんなよ。オレが家族のために必死になって働いてるのに、浮気ってなんだよ」
顔を真っ赤にした彼は、勢いよくその拳をテーブルに叩きつけた。
「私もずっと隣で浮気されて、本当に苦しくて。でも子どもが小さくて、何もすることも出来ず」
「ああ、すみません。そうですよね」
「いいんです。だって、許せない気持ちは私も同じですから」
「マジで許せないな。奥さんには悪いが、少ししめるくらいじゃ治まらないかもしれないッスわ」
「気持ちは同じなので、大丈夫ですよ。だって、許せないですもの」
そう言いながら私は彼の手に触れ、涙をためた瞳で見つめた。
「今からすぐ行ってきます。うるさくなるかもしれないから、奥さんはココでゆっくりしてて下さい」
「ありがとうございます。私には頼る人もいなかったので、すごく助かります。あ、これ持って行って下さい。証拠になりますから」
「いえ。じゃあ……」
彼はそう言うと、かなり怒った表情で店を出ていった。
今日は早上がりの夫は、もうとっくに家にいる頃。
「うん、これなら上手く行きそうね」
この計画を実行に移す際、彼の経歴も調べさせてもらった。
人情に厚いものの、血の気がやや多く、喧嘩っ早い。
その昔、友だちを助けるために相手方に酷く仕返しをしてしまって捕まったことがあるらしい。
そんな彼にボイスレコーダーまで渡した。
さぞ、二人の関係に激高してくれるだろう。
「本当は私がやりたかったのだけどね」
胸の中の抱っこ紐の中で気持ちよさそうに眠る我が子の顔を見た。
この子のためにも、自分で手を下すわけにはいかない。
私がいなければ、この子は生きていけないから。
「でも夫はもう不要」
もし仮に上手く殺してくれたら、生命保険が。
ダメでも、二人から慰謝料をもらえばいい。
「どちらにしても、私だけが得をするのよね。ふふふふふ」
向こうの旦那さんには申し訳ないけど、後は頼んだわ。
私の代わりに、よろしくね。
今日はどんな日より、幸せでいっぱいだった。
久しぶりに外で飲むお茶も、格別の味がするように思えた。
私は駅の改札口から出てくるキャリーバッグを引く男性に、声をかけた。
その男性は一瞬、怪訝そうに眉をしかめた後、私が抱っこする子どもを見て気づいたように声を上げた。
「お隣の? 奥さん?」
「はい。そうです。お帰りのとこ、申し訳ありません。でも、どうしてもお話したいことがあって」
「あー、はい。……分かりました」
あまりに必死な私に何かを感じ取ったのか、諦めたように私についてきてくれた。
三人で、個室のあるお店に入る。
今日の日のために、探し出したお店だ。
ここなら多少、うるさくなってしまっても大丈夫だから。
「あの、それでお話というのは?」
「実はうちの旦那が……」
私は彼に全ての事情を話した。
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家庭を省みず、隣の家に入り浸っていること。
そして何より、二人が私たちとの離婚を望んでいること。
「それは本当なのですか?」
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「はっ。ふざけんなよ。オレが家族のために必死になって働いてるのに、浮気ってなんだよ」
顔を真っ赤にした彼は、勢いよくその拳をテーブルに叩きつけた。
「私もずっと隣で浮気されて、本当に苦しくて。でも子どもが小さくて、何もすることも出来ず」
「ああ、すみません。そうですよね」
「いいんです。だって、許せない気持ちは私も同じですから」
「マジで許せないな。奥さんには悪いが、少ししめるくらいじゃ治まらないかもしれないッスわ」
「気持ちは同じなので、大丈夫ですよ。だって、許せないですもの」
そう言いながら私は彼の手に触れ、涙をためた瞳で見つめた。
「今からすぐ行ってきます。うるさくなるかもしれないから、奥さんはココでゆっくりしてて下さい」
「ありがとうございます。私には頼る人もいなかったので、すごく助かります。あ、これ持って行って下さい。証拠になりますから」
「いえ。じゃあ……」
彼はそう言うと、かなり怒った表情で店を出ていった。
今日は早上がりの夫は、もうとっくに家にいる頃。
「うん、これなら上手く行きそうね」
この計画を実行に移す際、彼の経歴も調べさせてもらった。
人情に厚いものの、血の気がやや多く、喧嘩っ早い。
その昔、友だちを助けるために相手方に酷く仕返しをしてしまって捕まったことがあるらしい。
そんな彼にボイスレコーダーまで渡した。
さぞ、二人の関係に激高してくれるだろう。
「本当は私がやりたかったのだけどね」
胸の中の抱っこ紐の中で気持ちよさそうに眠る我が子の顔を見た。
この子のためにも、自分で手を下すわけにはいかない。
私がいなければ、この子は生きていけないから。
「でも夫はもう不要」
もし仮に上手く殺してくれたら、生命保険が。
ダメでも、二人から慰謝料をもらえばいい。
「どちらにしても、私だけが得をするのよね。ふふふふふ」
向こうの旦那さんには申し訳ないけど、後は頼んだわ。
私の代わりに、よろしくね。
今日はどんな日より、幸せでいっぱいだった。
久しぶりに外で飲むお茶も、格別の味がするように思えた。
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結末が想像できそうで怖いけど、予想と違う結果になるかもしれないので最後まで見届けますね。
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はるなの場合 3 上手くいけば良いけどフフフフフ(ФωФ)キラン。
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