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ももの場合
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「おにぃちゃん、だーいすき」
我が家のソファーに座りながら、義妹は旦那の腕に絡まりつく。
これはもう何度目の光景だろうか。
これについて何も思わない旦那にも、これ見逃しにやってくる義妹にも私はうんざりしていた。
良く言えばブラコン。
悪く言ってもブラコン。
兄妹仲が良いのは昔から知ってはいたけど、結婚してからそれは悪化した気がする。
毎週末になるとここに入り浸る義妹に、私は何度も旦那には抗議してきた。
しかし旦那は妹なのだからとか、妹に嫉妬してどうするんだ、と。
でもこれはもう、それを超えている気がする。
まともな二人の夫婦生活すら、困難になってきているのに。
「お前も行くか?」
「は?」
先ほどからの二人の会話。
これから二人はアウトレットに買い物に行くらしい。
で、先ほどのセリフに繋がる。
お前もって、なんなの。も、ってさぁ。
私はあなたの家政婦ではなく、妻なんですけど?
「おにぃちゃん、お義姉さんはお仕事でつかれてるのよ~。ゆっくりさせてあげたらぁ?」
「あはははは。こいつ、ただのパートだぞ?」
「でもほらぁ、お義姉さんちょっと不器用さんだしぃ」
「それは言えてる。こいつのメシとか、ヤバいからな」
「やだぁ。おにぃちゃん病気になっちゃぅ」
食べただけで病気になるような料理って、どんだけ人を馬鹿にしてるのよ。
私は毎日パートに行きながら、家事は全部こなしてるのよ。
この綺麗な部屋も、畳まれた洗濯物も誰がやっていると思ってるの。
だいたいスーパーのお惣菜すら、こんなの食えないとか言って食べてもくれないのに。
働きながら何品も作るのがどれだけ大変なのか、あんたたち知らないでしょう。
せっかくのゆっくり出来る週末だって、コレなのよ。いい加減にして欲しい。
「それに最近は怒ってばっかりだしなぁ」
「お義姉さん、更年期じゃないのー?」
まるで恋人たちのように、くっつき楽しそうな二人に私は背を向けた。
そして無視を決めこみ、キッチンの掃除に取りかかる。
「だからぁ、おにぃちゃんのためにも二人でいこーよー」
「ま、そうだな。息抜きしないと、俺も死んでしまうからな~」
嫌味を吐きながら、楽しそうな二人は家を出て行った。
息抜きしないと? 私にはそんなものないですけど。
馬鹿にして。私は何なのよ……。
ぼたぼたと、大粒の水が流しにこぼれていった。
「部屋……片づけなきゃ……」
あの人の性格のことだから、楽させてやったのに片付けも出来てないのかってきっと言うはずだもの。
私に家のことを全てやらせることには、なんの疑問も罪悪感もないみたい。
ホント嫌になる……。
「あれ? パソコンつけっぱなしなんて珍しい」
夫のノートパソコンは半開きのまま、光を放っていた。
一瞬、どうしようかと考えたものの、このままにしておいてもろくなことがないと判断した私は電源を落とすためにノートパソコンを開く。
目に入ったのは、あるSNSないの個別メールだった。
そこには一人の女性とのやり取りが赤裸々に書かれている。
「何これ……」
毎日のような残業は、その女と会うためのカモフラージュ。会社からその女の家に帰宅し、深夜にこの自宅へ帰宅していた。
そして私と離婚し、二人で海外移住する計画が着々と進んでいるようだった。
「ははははは。何なのよ。これじゃあ、本当に私は二人のお金が貯まるまでのただの家政婦じゃない」
海外……ね。いいんじゃない? あの妹もそこまではついていけないだろうし。
ホント、よく考えたものだわ。
数日後、私は義妹を単独で呼び出した。
「なぁに、お義姉さん。こんな平日に、大事なようがあるからすぐ来てだなんて。あたし暇じゃないんだけど」
「でもきっと聞かないと後悔すると思って」
「?」
私は義妹に二人の計画を告げる。その上で義妹に同情するふりをして、さらにたきつけていく。
「その女に騙されてるのよ。だってそうでしょう? あんなに妹思いのあの人があなたを捨てるはずがないもの」
「おにぃちゃんが、あたしを捨てる?」
「そうよ。あの女が、あなたからあの人を取り上げるために、海外へ連れて行こうとしてるの」
「そんな」
「私は味方よ。たとえあの人が旦那でなくなったとしても。血を分けた兄妹の絆を裂こうだなんて許せなくて。このままだと、あの女に取られてしまうわ」
「おにぃちゃんが取られる……あの女に取られる……」
「ね。許せないでしょう?」
元々ヤンデレ気質であり、兄に異常なほどに執着してきた妹。
ブラコンなんて枠を超えてることは知っていた。だから私と夫が二人になることすらすごく嫌がっていたけど、その点、結婚はしたものの、旦那は私に興味を示さなかった。
だから義妹からの攻撃はあの程度で済んでいたんだけどね。
でもそうね。あの女は夫と二人きりで幸せになるために、義妹からも引き剥がそうとした。
そんなことをすればどいうなるのか。
ふふふ。ああ、楽しみ。
「許せない」
「でしょう。こんなに妹思いだった兄を、あの女が変えてしまったのよ。このままだと二度と会えなくさせられちゃう」
「許せない!」
「今はほら、夫はあの女に洗脳されているから何を言ってもきっと止められてしまうわ。だからね?」
「あの女を消さないと」
「あとはほら、洗脳を解くためにはちゃんと閉じ込めて毒を抜かないとね」
「そうね! そうしなきゃ。おにぃちゃんはあたしが救わないと」
「そうそう。妹思いの兄に戻してあげないと。妹だけをずっと見てくれるように」
「そう。昔みたいに、あたしだけのおにぃちゃんに!」
狂気を称えた義妹に私はそっと、その女の情報を渡した。
私はもうどちらにしても興味がないから。夫が妹思いに戻ろうが、壊れてしまおうが……。
________________________________________
お読みいただける皆様に感謝
現在ホラー・ミステリー小説大賞に応募しております。
もし面白いと思っていたただけましたら
お気に入りやご投票をしていただけますと
作者は感激のあまりに小躍りいたしますので、ぜひぜひ、よろしくお願いいたします(* >ω<)
我が家のソファーに座りながら、義妹は旦那の腕に絡まりつく。
これはもう何度目の光景だろうか。
これについて何も思わない旦那にも、これ見逃しにやってくる義妹にも私はうんざりしていた。
良く言えばブラコン。
悪く言ってもブラコン。
兄妹仲が良いのは昔から知ってはいたけど、結婚してからそれは悪化した気がする。
毎週末になるとここに入り浸る義妹に、私は何度も旦那には抗議してきた。
しかし旦那は妹なのだからとか、妹に嫉妬してどうするんだ、と。
でもこれはもう、それを超えている気がする。
まともな二人の夫婦生活すら、困難になってきているのに。
「お前も行くか?」
「は?」
先ほどからの二人の会話。
これから二人はアウトレットに買い物に行くらしい。
で、先ほどのセリフに繋がる。
お前もって、なんなの。も、ってさぁ。
私はあなたの家政婦ではなく、妻なんですけど?
「おにぃちゃん、お義姉さんはお仕事でつかれてるのよ~。ゆっくりさせてあげたらぁ?」
「あはははは。こいつ、ただのパートだぞ?」
「でもほらぁ、お義姉さんちょっと不器用さんだしぃ」
「それは言えてる。こいつのメシとか、ヤバいからな」
「やだぁ。おにぃちゃん病気になっちゃぅ」
食べただけで病気になるような料理って、どんだけ人を馬鹿にしてるのよ。
私は毎日パートに行きながら、家事は全部こなしてるのよ。
この綺麗な部屋も、畳まれた洗濯物も誰がやっていると思ってるの。
だいたいスーパーのお惣菜すら、こんなの食えないとか言って食べてもくれないのに。
働きながら何品も作るのがどれだけ大変なのか、あんたたち知らないでしょう。
せっかくのゆっくり出来る週末だって、コレなのよ。いい加減にして欲しい。
「それに最近は怒ってばっかりだしなぁ」
「お義姉さん、更年期じゃないのー?」
まるで恋人たちのように、くっつき楽しそうな二人に私は背を向けた。
そして無視を決めこみ、キッチンの掃除に取りかかる。
「だからぁ、おにぃちゃんのためにも二人でいこーよー」
「ま、そうだな。息抜きしないと、俺も死んでしまうからな~」
嫌味を吐きながら、楽しそうな二人は家を出て行った。
息抜きしないと? 私にはそんなものないですけど。
馬鹿にして。私は何なのよ……。
ぼたぼたと、大粒の水が流しにこぼれていった。
「部屋……片づけなきゃ……」
あの人の性格のことだから、楽させてやったのに片付けも出来てないのかってきっと言うはずだもの。
私に家のことを全てやらせることには、なんの疑問も罪悪感もないみたい。
ホント嫌になる……。
「あれ? パソコンつけっぱなしなんて珍しい」
夫のノートパソコンは半開きのまま、光を放っていた。
一瞬、どうしようかと考えたものの、このままにしておいてもろくなことがないと判断した私は電源を落とすためにノートパソコンを開く。
目に入ったのは、あるSNSないの個別メールだった。
そこには一人の女性とのやり取りが赤裸々に書かれている。
「何これ……」
毎日のような残業は、その女と会うためのカモフラージュ。会社からその女の家に帰宅し、深夜にこの自宅へ帰宅していた。
そして私と離婚し、二人で海外移住する計画が着々と進んでいるようだった。
「ははははは。何なのよ。これじゃあ、本当に私は二人のお金が貯まるまでのただの家政婦じゃない」
海外……ね。いいんじゃない? あの妹もそこまではついていけないだろうし。
ホント、よく考えたものだわ。
数日後、私は義妹を単独で呼び出した。
「なぁに、お義姉さん。こんな平日に、大事なようがあるからすぐ来てだなんて。あたし暇じゃないんだけど」
「でもきっと聞かないと後悔すると思って」
「?」
私は義妹に二人の計画を告げる。その上で義妹に同情するふりをして、さらにたきつけていく。
「その女に騙されてるのよ。だってそうでしょう? あんなに妹思いのあの人があなたを捨てるはずがないもの」
「おにぃちゃんが、あたしを捨てる?」
「そうよ。あの女が、あなたからあの人を取り上げるために、海外へ連れて行こうとしてるの」
「そんな」
「私は味方よ。たとえあの人が旦那でなくなったとしても。血を分けた兄妹の絆を裂こうだなんて許せなくて。このままだと、あの女に取られてしまうわ」
「おにぃちゃんが取られる……あの女に取られる……」
「ね。許せないでしょう?」
元々ヤンデレ気質であり、兄に異常なほどに執着してきた妹。
ブラコンなんて枠を超えてることは知っていた。だから私と夫が二人になることすらすごく嫌がっていたけど、その点、結婚はしたものの、旦那は私に興味を示さなかった。
だから義妹からの攻撃はあの程度で済んでいたんだけどね。
でもそうね。あの女は夫と二人きりで幸せになるために、義妹からも引き剥がそうとした。
そんなことをすればどいうなるのか。
ふふふ。ああ、楽しみ。
「許せない」
「でしょう。こんなに妹思いだった兄を、あの女が変えてしまったのよ。このままだと二度と会えなくさせられちゃう」
「許せない!」
「今はほら、夫はあの女に洗脳されているから何を言ってもきっと止められてしまうわ。だからね?」
「あの女を消さないと」
「あとはほら、洗脳を解くためにはちゃんと閉じ込めて毒を抜かないとね」
「そうね! そうしなきゃ。おにぃちゃんはあたしが救わないと」
「そうそう。妹思いの兄に戻してあげないと。妹だけをずっと見てくれるように」
「そう。昔みたいに、あたしだけのおにぃちゃんに!」
狂気を称えた義妹に私はそっと、その女の情報を渡した。
私はもうどちらにしても興味がないから。夫が妹思いに戻ろうが、壊れてしまおうが……。
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