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第五章

第七十七話 饒舌なる主張

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「でもあなただって、その座には憧れるでしょう?」


 貴族の娘だけではなく、確かにこの国に生まれた女性ならば誰もが憧れるのが王妃だ。

 職業とは少し違うのかもしれないけど、ある意味、女性の中では一番身分が高い。

 その上、誰からも愛されて、全ての中心となる。

 もし私が転生者ではなかったら、憧れていたのかもしれない。

 だからさも当たり前のように言う王妃の意見は、分からなくもなかった。

 もっとも、キースを見ていればそんな綺麗ごとだけでは済まないことも知っている。

 ただ綺麗に着飾って、注目を集め、愛されるだけではない。

 見られているということすら、本来だったら緊張の連続だろうし。


「私には王妃様の様に振舞うことは出来ません」

「初めは誰でもそうかもしれないけど、慣れれば大丈夫よ」

「王妃様はずっとお妃教育を受けられて来たからですよ。私なんてぽっと出の者には、難しすぎます」

「まぁね。王妃という職務はとても名誉があるとともに、重い責任を負いますからね。中々誰にでも出来るというものではないとわたくしも思うわ。だからそこ、次期王妃は慎重に選ばなければいけないと思うのよ」

「そうですね。王妃様の言う通りです」

「あなたもそう思う?」

「はい。もちろんですわ」


 あながち、嘘ではない。

 その義務も責任も、誰よりも重いモノであり、誰でも出来るというものではないはずだ。

 だからといって、王妃の目論見はまったく理解できないんだけど。


「王妃様のような逸材は、次期王妃候補にはいないのではないですか?」

「そうなのよ。だから、わたくしも心を痛めていたのよ。でもね、ちょうどいい方法が一個だけあるの」

「いい方法ですか?」

「わたくしと現国王様は白い結婚なのよ。あの方はご病気があり、わたくしには指一本触れたこともないの。それにキースは昔からわたくしのことをすごく慕ってくれているし」

「……」

「だからね。わたくしがまた次の王妃に立候補しようと思うのよ。そうすれば、なんの問題もないじゃない」

「ああ、さすが王妃様。ご聡明でいらっしゃる」

「そう?」

「ええ。王妃様でしたら、次の王妃候補が育つまで待つ必要性もないですし」

「でしょう?」



 持論をさも自慢げに話す王妃は、やや滑稽に思えた。

 こんな案、普通で考えたら誰が納得するのだろう。

 国民ですら、きっと疑問を抱くだろう。

 全王妃が実は白い結婚だったとはいえ、次の国王の王妃になるだなんて。

 はっきり言って、どんな悪役な物語なのかと思ってしまう。

 王政にしがみついて、その力を良いものにか、兄の次は弟を誘惑してとしか思えないし。

 脳みそお花畑っていうか、全部が自分本位なのよね。

 自分が王妃に残るためなら、どんな手を使うこともそうだし。

 結局自分が一番可愛いとしか思い様がなかった。


「あなたがこんなにも聞きわけが良いとは思わなかったわ」

「私は国の安定を望むだけですわ」

「ええ、そうね。それが一番大事よね」


 ニコニコと饒舌に話した後、しゃべりすぎたのか王妃は出されていた紅茶に手をつけた。

 そしてそれをそのまま一気に、喉に流し込む。

 そう私はただこの時をずっと待っていた。
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