85 / 89
第五章
第七十六話 ほくそ笑むその裏で
しおりを挟む
誰よりも煌びやかに。
この国の誰よりも贅を尽くして。
そんな言葉が王妃には本当に似合っていた。
手紙を出してすぐの訪問と言え、書かれていた内容がよほどお気に召したのか、王妃はすぐに面会を許してくれた。
この前お茶会を開いたのと同じ中庭にテーブルを並べ、王妃は侍女たちを背後に立たせ座っていた。
「急なご面会に関わらず、お目通りを叶えて下さいましてありがとうございます」
「いいのよ。あなたのたっての願いだもの。こんなことぐらい、簡単なことよ」
私が深々と頭を下げると微笑みながら、王妃は手に持った扇をあおいだ。
扇の裏に隠れた顔は、まさにご満悦といった感じ。
ご自分の計画が全て上手くいって、さぞかし気持ちのいいことでしょうね。
ため息も、冷ややかになりそうな顔も、全て泣き出しそうな仮面で覆いつくす。
「そんな顔をせずに、まずは座りなさい」
「はい、王妃様」
「今回はずいぶん大変だったようね」
「……はい」
「まさか自分の妹に毒を盛られるなんて」
「……。精霊の力がなかったらと思うと今頃私はきっと……」
「本当にねぇ。死んでいたかもしれないわね」
分かっていてやっていたのならば、本当に救いようがないわね。
この言葉が出てくる以上、王妃はあの毒の効能を知っていた。
そして私がどうなるか、も。
「でも私は……それでも……」
「さっきの手紙にもそう書かれていたわね」
「はい。例えどんな仕打ちをされても、妹は妹なのです」
「姉妹愛ね」
「あの子は私のことをどう思ってこんなコトをしたのか未だに分かってはいませんが……、それでも大切な妹なのです。だからどうか王妃様、お力を貸していただけないでしょうか? 私はあの子のためになら、どんなことでもいたしますから……」
そう。
王妃へと出した手紙にも同じことを書いたのだ。
どんなことでもするから、妹を助けるために力を貸して欲しい。
きっとこれならばすぐに食いついてくると思ったのよね。
元々、チェリーに罪を擦り付けて殺したかった私を殺すことは出来なかった王妃はずっとイライラしていたはず。
しかもチェリーも罪を認めてはいない。
揚げ足を取ることも出来ない状態で、いわば王妃の計画は八方ふさがりだった。
「そんな、どんなこともだなんて」
「いえ、王妃様のお力を借りて、どうか妹に恩赦を……」
チェリーに罪を被せたまま、邪魔者の私を味方につけることも出来る。
私の提案はそう、王妃にとって一挙両得以上の価値があるのだ。
だからこそ、今の王妃の心のうちなど手に取る様にわかる。
きっと私になにを頼もうか。
どう自分のために活用しようか。
心の底でほくそ笑んでいるのでしょうね。
人は自分が優位に立てば立つほど、足元が見えなくなるもんですよ。
実際にそんな王妃を見て、私がニヤリと思っているなんて、王妃は思いもよらないと思うけど。
「そうねぇ……あなたが、わたくしの力となってくれるなら」
「もちろんです、王妃様。私でよければどんなことでもお力となります。なんなりとおっしゃって下さい。ああ、でも……」
「でも?」
「私ごときが王妃様のお力になど、なれるのでしょうか?」
「ごとき、だなんて。あなたは次期王妃候補ではないの」
「そ……それは……」
「そうでしょう?」
「妹がこんなことを起こして、元より辞退しようと思っていたんです」
「そうなの?」
「元々、次期宰相であるグレン様が私を次期王妃候補に推薦していたのです」
「まぁ、そうなの!」
まぁ、嘘はついていない。
むしろここぞとばかりに、グレンのせいにしておこう。
たまにはいいわよね。
いつも悪だくみばっかりしてるんだから。
この国の誰よりも贅を尽くして。
そんな言葉が王妃には本当に似合っていた。
手紙を出してすぐの訪問と言え、書かれていた内容がよほどお気に召したのか、王妃はすぐに面会を許してくれた。
この前お茶会を開いたのと同じ中庭にテーブルを並べ、王妃は侍女たちを背後に立たせ座っていた。
「急なご面会に関わらず、お目通りを叶えて下さいましてありがとうございます」
「いいのよ。あなたのたっての願いだもの。こんなことぐらい、簡単なことよ」
私が深々と頭を下げると微笑みながら、王妃は手に持った扇をあおいだ。
扇の裏に隠れた顔は、まさにご満悦といった感じ。
ご自分の計画が全て上手くいって、さぞかし気持ちのいいことでしょうね。
ため息も、冷ややかになりそうな顔も、全て泣き出しそうな仮面で覆いつくす。
「そんな顔をせずに、まずは座りなさい」
「はい、王妃様」
「今回はずいぶん大変だったようね」
「……はい」
「まさか自分の妹に毒を盛られるなんて」
「……。精霊の力がなかったらと思うと今頃私はきっと……」
「本当にねぇ。死んでいたかもしれないわね」
分かっていてやっていたのならば、本当に救いようがないわね。
この言葉が出てくる以上、王妃はあの毒の効能を知っていた。
そして私がどうなるか、も。
「でも私は……それでも……」
「さっきの手紙にもそう書かれていたわね」
「はい。例えどんな仕打ちをされても、妹は妹なのです」
「姉妹愛ね」
「あの子は私のことをどう思ってこんなコトをしたのか未だに分かってはいませんが……、それでも大切な妹なのです。だからどうか王妃様、お力を貸していただけないでしょうか? 私はあの子のためになら、どんなことでもいたしますから……」
そう。
王妃へと出した手紙にも同じことを書いたのだ。
どんなことでもするから、妹を助けるために力を貸して欲しい。
きっとこれならばすぐに食いついてくると思ったのよね。
元々、チェリーに罪を擦り付けて殺したかった私を殺すことは出来なかった王妃はずっとイライラしていたはず。
しかもチェリーも罪を認めてはいない。
揚げ足を取ることも出来ない状態で、いわば王妃の計画は八方ふさがりだった。
「そんな、どんなこともだなんて」
「いえ、王妃様のお力を借りて、どうか妹に恩赦を……」
チェリーに罪を被せたまま、邪魔者の私を味方につけることも出来る。
私の提案はそう、王妃にとって一挙両得以上の価値があるのだ。
だからこそ、今の王妃の心のうちなど手に取る様にわかる。
きっと私になにを頼もうか。
どう自分のために活用しようか。
心の底でほくそ笑んでいるのでしょうね。
人は自分が優位に立てば立つほど、足元が見えなくなるもんですよ。
実際にそんな王妃を見て、私がニヤリと思っているなんて、王妃は思いもよらないと思うけど。
「そうねぇ……あなたが、わたくしの力となってくれるなら」
「もちろんです、王妃様。私でよければどんなことでもお力となります。なんなりとおっしゃって下さい。ああ、でも……」
「でも?」
「私ごときが王妃様のお力になど、なれるのでしょうか?」
「ごとき、だなんて。あなたは次期王妃候補ではないの」
「そ……それは……」
「そうでしょう?」
「妹がこんなことを起こして、元より辞退しようと思っていたんです」
「そうなの?」
「元々、次期宰相であるグレン様が私を次期王妃候補に推薦していたのです」
「まぁ、そうなの!」
まぁ、嘘はついていない。
むしろここぞとばかりに、グレンのせいにしておこう。
たまにはいいわよね。
いつも悪だくみばっかりしてるんだから。
1
お気に入りに追加
873
あなたにおすすめの小説
【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう
蓮実 アラタ
恋愛
アルメニア国王子の婚約者だった私は学園の創立記念パーティで突然王子から婚約破棄を告げられる。
王子の隣には銀髪の綺麗な女の子、周りには取り巻き。かのイベント、断罪シーン。
味方はおらず圧倒的不利、絶体絶命。
しかしそんな場面でも私は余裕の笑みで返す。
「承知しました殿下。その話、謹んでお受け致しますわ!」
あくまで笑みを崩さずにそのまま華麗に断罪の舞台から去る私に、唖然とする王子たち。
ここは前世で私がハマっていた乙女ゲームの世界。その中で私は悪役令嬢。
だからなんだ!?婚約破棄?追放?喜んでお受け致しますとも!!
私は王妃なんていう狭苦しいだけの脇役、真っ平御免です!
さっさとこんなやられ役の舞台退場して自分だけの快適な生活を送るんだ!
って張り切って追放されたのに何故か前世の私の推しキャラがお供に着いてきて……!?
※本作は小説家になろうにも掲載しています
二部更新開始しました。不定期更新です
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
見捨てられたのは私
梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。
ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。
ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。
何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?
りーさん
恋愛
気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?
こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。
他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。
もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!
そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……?
※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。
1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる