大嫌いな双子の妹と転生したら、悪役令嬢に仕立て上げられました。

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化

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第五章

第七十四話 伏魔殿の魔物

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「あのお茶はわたしではなく侍女が入れたものです。侍女たちは全て捕まってはいなくて」

「どうしてそんな嘘を?」

「二人できちんと会話がしたかったのは本当です。でもわたしはお茶とか淹れたこともないし。だけどわたしが手ずから淹れたって言えば、少しは見直してもらえるんじゃないかって」

「見栄を張ったってことね」

「侍女の中に、王妃のスパイがいるんじゃないかってずっと気にはしていたんです。でも元姉さんのとこにいた侍女だったから、大丈夫だと油断してしまって」


 元私の侍女ということは、結構前からあの侯爵家にはスパイがいたことになる。

 手が込んでいるというかなんというか。

 ずいぶんと壮大な嫌がらせだったのね。

 しかも命まで奪おうとしていたなんて、もはや嫌がらせのレベルは超えているわ。


「その侍女はまだ屋敷にいるわね」


 私が毒殺させそうになったせいで、今屋敷は全ての人間の出入りが出来なくなっている。

 どこかに隠れたのだろうけど、逃げ出すことは不可能なはず。


「キース様、その侍女をまず捕まえたいんですが」

「すぐに騎士を侯爵家に派遣しよう」

「でも姉さま、侍女を捕まえてどうするんですの」

「なに、簡単なことよ。その侍女には同じことをやってもらうのよ」


 そう。そのためには、まず王妃の気を引かないといけない。

 
「もう少しここで待っててねチェリー」

「姉さま」

「グレンはここで傍にいてあげて。少しでも、今までのことに反省をしているのなら」

「わかった。ここでチェリーを守っているよ」


 大きく頷くグレンを残し、私たちは城へと向かった。


  ◇   ◇   ◇


 王妃に用意した手紙には、妹が私を殺そうとした罪で捕まったこと。

 私にとって妹は妹であり、減刑を望んでいる。

 そのために王妃様の力をお借りしたい。

 もし願いを叶えて下さるのならば、どんなことでもします。

 そうしたため、王妃へと渡してもらった。

 手紙が王妃へと届けられる頃、件の侍女がキースの執務室へ連行されてきた。


「こ、これはなにかの間違いなのです! あ、あたしは毒など入れてはいません。どうか、どうか信じて下さい」

「それは無理な話ね。私には精霊がついているのよ。その精霊が、あなたが毒を盛った犯人だって特定したの」

「そ、そんな!」

 
 もちろん、これはただのデマカセ。

 リンであっても、そんな透視のようなことは出来ない。

 でもただ嘘であっても信じさせればいい。

 それだけで今は十分だから。


「この計画は王妃様が仕込んだことなのよね?」

「そ、それは……」

「素直に言いなさい。このことが世間にバレたとして、切り捨てられるのはあなただけよ。貴族への殺人未遂は、死罪になることも分かっているわよね」


 彼女はどこかの身分の低い貴族の娘だろう。

 本来、平民が貴族を殺そうとすれば死罪なのだが、貴族が貴族をとなると話が違う。

 よほど悪質だと判断されない限りは、死罪にはならない。

 ただこんな場面で、しかも追い詰められた状態だ。

 死罪という響きだけで、侍女は狙い通り震えあがっていた。


「あなたが黒幕を吐いて、私に協力をすれば殿下にお願して刑を軽くしてあげるわ」

「あ、あ、あなたは……」

「婚約が決まったのよ。だから私が次の王妃となる。あなただって、どちらにつけば得か、そんなの分かるでしょ?」

「は、はぃぃぃ。王妃様です。王妃様が次の王妃候補を殺すようにって。そして宰相の婚約者にその罪をかぶってもらえば、一石二鳥になると。だ、だからあたしは王妃様の命令通りにチェリー様がアイリス様にお茶を振る舞う時をずっと窺っていたんです」

「どうやって雇われたの?」

「あ、あたしは元々王妃様付きの侍女なのです。それでこの一年ほどくらい前にスパイとして入るように言われました。あたしだけじゃなく、他の侯爵家にも一人ずつくらい配置されてます。それで逐一、内情を報告するように言われて……」

「他の侯爵家にも!?」


 まさか、そこまで王妃が手を伸ばしていたなんて。

 今、貴族の中で最高位にあたる公爵家には女性はいない。

 そのすぐ下の侯爵家にしかいないために、そのすべてにスパイを入れて監視させていたなんて。

 異常すぎるわ。

 いくら自分の身分を守るためとはいえ、これは狂気に満ちている。


「それで王妃様がご自分の脅威となる家にランキングを付け、上位の順から排除なされようとしたんです。ある令嬢を盗賊に襲わせてみたり。馬車に細工をして、事故をおこしたり……」

「そして毒を盛る、というね」

「そ、そうです。すべては王妃様の指示なんです」

「お王妃様はそこまでして、何をお望みなの?」

「あの、その……それは……」


 侍女は私ではなく、キースを見上げる。

 キースはその様子に、ただ深くため息をついた。


「キース様、何か知っていらっしゃるのですね」

「ずっと冗談だとばかり思っていたよ。いや、そう思いたかったのかもしれないな。王妃は、一度退位した後、もう一度王妃となることを望んでいる」

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