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第四章

第六十五話 贈り物

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 部屋に戻ると、テーブルの上には見慣れないものが置かれていた。

 私はなにか確認しようと、ルカに声をかける。


「ルカ、これはなにかな? なにか聞いてる?」

「そ、それは……キース様から先ほど届けられたそうです」

「キースから」


 贈り物は小さな小箱と手紙。

 私は手紙だけをとり、開封する。

 手紙には前回のお茶会での謝罪と、会って話したいという言葉が書かれていた。

 
「お、お嬢様。そのいただきものは、後にしましょう。今でなくてもいいではないですか。お疲れのようですし、ゆっくりとお茶でも飲まれて」

「そうね。だけど……」


 逃げたところで何も変わらないという言葉は私にも当てはまる。

 この先、キースとの関係をどうするのかちゃんと答えを出さないといけない。

 そう、ちゃんと考えないと。

 そしてこの小箱……。

 中身を見なくても、これが何か分かる。

 あの時の物がきっと入っているのね。

 引きつらないように、上手に笑った。

 これはキースが私のために選んでくれたもの。

 そう言い聞かせているのに、ズキンズキンとどこかが痛む。


「開けないと失礼にあたるし、せっかくキースが選んでくれた贈り物だもの」

「でも、それは!」


 ルカの言いたいことは痛いほど分かる。

 私だって、出来るならば見たくなかった。

 例えどんなで選ばれたものだとしても。

 彼だけが選んでくれたものではない以上、はっきり言ってしまえばいらない。

 そう見たくも、欲しくもない。

 だけどそう突っぱねてしまえるほどの強さもなかった。

 私は箱を開けるために、手を伸ばす。

 ただ頭では思っていても体が固まったように動かない。

 痛みで世界が占められたように、音も消えていった。

 それでも箱に触れようとした私の手を、ルカが掴んだ。

 その瞬間、私の中の世界が音を取り戻した。


「お嬢様、顔が真っ青ですわ」

「ルカ、私……」

「嫌なものは嫌でいいんです。選ぶ権利はお嬢様にあるんですから。相手の気持ちばかりにとらわれてはいけません」

「でも好意なのに」

「たとえそれが、相手からの好意であっても。嫌なものは嫌でいいんです。もっと自分の意志ではっきり決めてしまっていいんです」


 捨ててもよかったのかな。

 これが好意であっても嫌なものなら。

 そっか、私が選んでも良かったんだ。

 こんな簡単なことすら教えられないと分からないなんて、ホント重症ね。

 もしルカが止めてくれなかったら、私はどうしていたのだろう。

 どんな顔で、どんな思いでこの箱に触れようとしていたの。

 そんな思いが頭の中をぐるぐる回った。


「ああ、気持ち悪い」


 精一杯の言葉を絞り出す。

 言い終えると、強烈な吐き気と共に、世界がぐにゃりと歪んだ。


「ご主人サマ!」

「お、お嬢様! 誰か! すぐにお医者様を」


 遠のく意識の中で、二人の叫ぶ声だけを聞いていた。
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