70 / 89
第四章
第六十五話 贈り物
しおりを挟む
部屋に戻ると、テーブルの上には見慣れないものが置かれていた。
私はなにか確認しようと、ルカに声をかける。
「ルカ、これはなにかな? なにか聞いてる?」
「そ、それは……キース様から先ほど届けられたそうです」
「キースから」
贈り物は小さな小箱と手紙。
私は手紙だけをとり、開封する。
手紙には前回のお茶会での謝罪と、会って話したいという言葉が書かれていた。
「お、お嬢様。そのいただきものは、後にしましょう。今でなくてもいいではないですか。お疲れのようですし、ゆっくりとお茶でも飲まれて」
「そうね。だけど……」
逃げたところで何も変わらないという言葉は私にも当てはまる。
この先、キースとの関係をどうするのかちゃんと答えを出さないといけない。
そう、ちゃんと考えないと。
そしてこの小箱……。
中身を見なくても、これが何か分かる。
あの時の物がきっと入っているのね。
引きつらないように、上手に笑った。
これはキースが私のために選んでくれたもの。
そう言い聞かせているのに、ズキンズキンとどこかが痛む。
「開けないと失礼にあたるし、せっかくキースが選んでくれた贈り物だもの」
「でも、それは!」
ルカの言いたいことは痛いほど分かる。
私だって、出来るならば見たくなかった。
例えどんな経緯で選ばれたものだとしても。
彼だけが選んでくれたものではない以上、はっきり言ってしまえばいらない。
そう見たくも、欲しくもない。
だけどそう突っぱねてしまえるほどの強さもなかった。
私は箱を開けるために、手を伸ばす。
ただ頭では思っていても体が固まったように動かない。
痛みで世界が占められたように、音も消えていった。
それでも箱に触れようとした私の手を、ルカが掴んだ。
その瞬間、私の中の世界が音を取り戻した。
「お嬢様、顔が真っ青ですわ」
「ルカ、私……」
「嫌なものは嫌でいいんです。選ぶ権利はお嬢様にあるんですから。相手の気持ちばかりにとらわれてはいけません」
「でも好意なのに」
「たとえそれが、相手からの好意であっても。嫌なものは嫌でいいんです。もっと自分の意志ではっきり決めてしまっていいんです」
捨ててもよかったのかな。
これが好意であっても嫌なものなら。
そっか、私が選んでも良かったんだ。
こんな簡単なことすら教えられないと分からないなんて、ホント重症ね。
もしルカが止めてくれなかったら、私はどうしていたのだろう。
どんな顔で、どんな思いでこの箱に触れようとしていたの。
そんな思いが頭の中をぐるぐる回った。
「ああ、気持ち悪い」
精一杯の言葉を絞り出す。
言い終えると、強烈な吐き気と共に、世界がぐにゃりと歪んだ。
「ご主人サマ!」
「お、お嬢様! 誰か! すぐにお医者様を」
遠のく意識の中で、二人の叫ぶ声だけを聞いていた。
私はなにか確認しようと、ルカに声をかける。
「ルカ、これはなにかな? なにか聞いてる?」
「そ、それは……キース様から先ほど届けられたそうです」
「キースから」
贈り物は小さな小箱と手紙。
私は手紙だけをとり、開封する。
手紙には前回のお茶会での謝罪と、会って話したいという言葉が書かれていた。
「お、お嬢様。そのいただきものは、後にしましょう。今でなくてもいいではないですか。お疲れのようですし、ゆっくりとお茶でも飲まれて」
「そうね。だけど……」
逃げたところで何も変わらないという言葉は私にも当てはまる。
この先、キースとの関係をどうするのかちゃんと答えを出さないといけない。
そう、ちゃんと考えないと。
そしてこの小箱……。
中身を見なくても、これが何か分かる。
あの時の物がきっと入っているのね。
引きつらないように、上手に笑った。
これはキースが私のために選んでくれたもの。
そう言い聞かせているのに、ズキンズキンとどこかが痛む。
「開けないと失礼にあたるし、せっかくキースが選んでくれた贈り物だもの」
「でも、それは!」
ルカの言いたいことは痛いほど分かる。
私だって、出来るならば見たくなかった。
例えどんな経緯で選ばれたものだとしても。
彼だけが選んでくれたものではない以上、はっきり言ってしまえばいらない。
そう見たくも、欲しくもない。
だけどそう突っぱねてしまえるほどの強さもなかった。
私は箱を開けるために、手を伸ばす。
ただ頭では思っていても体が固まったように動かない。
痛みで世界が占められたように、音も消えていった。
それでも箱に触れようとした私の手を、ルカが掴んだ。
その瞬間、私の中の世界が音を取り戻した。
「お嬢様、顔が真っ青ですわ」
「ルカ、私……」
「嫌なものは嫌でいいんです。選ぶ権利はお嬢様にあるんですから。相手の気持ちばかりにとらわれてはいけません」
「でも好意なのに」
「たとえそれが、相手からの好意であっても。嫌なものは嫌でいいんです。もっと自分の意志ではっきり決めてしまっていいんです」
捨ててもよかったのかな。
これが好意であっても嫌なものなら。
そっか、私が選んでも良かったんだ。
こんな簡単なことすら教えられないと分からないなんて、ホント重症ね。
もしルカが止めてくれなかったら、私はどうしていたのだろう。
どんな顔で、どんな思いでこの箱に触れようとしていたの。
そんな思いが頭の中をぐるぐる回った。
「ああ、気持ち悪い」
精一杯の言葉を絞り出す。
言い終えると、強烈な吐き気と共に、世界がぐにゃりと歪んだ。
「ご主人サマ!」
「お、お嬢様! 誰か! すぐにお医者様を」
遠のく意識の中で、二人の叫ぶ声だけを聞いていた。
1
お気に入りに追加
873
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
愛されなかった私が転生して公爵家のお父様に愛されました
上野佐栁
ファンタジー
前世では、愛されることなく死を迎える主人公。実の父親、皇帝陛下を殺害未遂の濡れ衣を着せられ死んでしまう。死を迎え、これで人生が終わりかと思ったら公爵家に転生をしてしまった主人公。前世で愛を知らずに育ったために人を信頼する事が出来なくなってしまい。しばらくは距離を置くが、だんだんと愛を受け入れるお話。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる