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第四章

第六十四話 処遇

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「待たせてすまない」

 
 父はため息交じりに、執事を連れて戻ってきた。

 その顔色は疲労が伺える。


「おかえりなさい、お父様」

「ああ、待たせてすまなかったな、アイリス」

「いいえ、大丈夫ですわ。それよりルカから頼んでおいた件はどうなりましたか?」

「まず簡単な結論から言えば、チェリーにアイリスの情報を流していた侍女たちは皆解雇することになった

「そうですか」

「ただ、チェリーを自宅謹慎にしようとしたところ他の侍女を連れて逃げられてしまったよ」

「逃げた……。その情報すら漏れていたということですか」

「そうだな。どうやらチェリーを乗せた馬車は、領地へ向かったらしい。向こうにつき次第、そのままそこで謹慎させる」


 私たちが帰宅してから、この話はすぐに信頼おける者たちだけで進められた。

 それなのにチェリーが逃げれたということは、どこかでこの話が漏れたということ。

 父にとっても、なんとも頭が痛い話だろう。

 信頼を置ける者たちの中にも、協力者がいたのか、それとも誰かが口を滑らせたのか。

 ただ父とて、ここにいる使用人を全員把握はしていないはず。

 あとは使用人たちの中で、見つけてもらう以外にないだろう。


「逃げたところで、どうにもならない話だというのに。チェリーはなにを考えているのか」

「ただこの話は、屋敷の人間しか知らぬ話です。だったら」

「いや、そういう問題ではない。どこで話が漏れているかも分からない上に、あの子が変わらなくては根本的な解決にはならないだろう」

「たしかに、それはそうですね」


 いくら過去の記憶で生きているあの子にとって、この貴族社会が堅苦しいとはいえ、ここで生きていくのならば守らなければいけないルールはたくさんある。

 それに婚約を破棄したいならしたいで、もっと別のやりようがあるのに。

 盗った盗られたとか、そんなことは言いたくはないけど、これではあまりにも適当すぎる。

 そして今度は、キースに手を伸ばすなんて。

 キースがどんなことを思ってあの子といたのかは知らないけど、なんかやっぱり悲しい。

 そう悲しい。

 自分よりもあの子を選んだかもしれないことが。

 隣に居るのが自分ではないということが、たまらなく悲しい。

 ああ、本当に嫌だな。こんなことを思う自分すら嫌。


「ともかく内部調査はこのまま進めるし、チェリーの処遇についても検討する。そして決まり次第、一番にアイリスへは伝えるよ。だから今日はもうこのまま休みなさい。顔色が悪すぎる」

「はい……お父様」


 せっかくの楽しみにしていたお出かけだったのに。

 昨日から散々だな。

 確かに、父の言うようにゆっくりしよう。

 美味しいモノを食べて、ゆっくりお風呂に浸かって。

 あとはリンと遊んで。

 しばらく外出もしたくない。

 心からそう思えた。
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