69 / 89
第四章
第六十四話 処遇
しおりを挟む
「待たせてすまない」
父はため息交じりに、執事を連れて戻ってきた。
その顔色は疲労が伺える。
「おかえりなさい、お父様」
「ああ、待たせてすまなかったな、アイリス」
「いいえ、大丈夫ですわ。それよりルカから頼んでおいた件はどうなりましたか?」
「まず簡単な結論から言えば、チェリーにアイリスの情報を流していた侍女たちは皆解雇することになった
「そうですか」
「ただ、チェリーを自宅謹慎にしようとしたところ他の侍女を連れて逃げられてしまったよ」
「逃げた……。その情報すら漏れていたということですか」
「そうだな。どうやらチェリーを乗せた馬車は、領地へ向かったらしい。向こうにつき次第、そのままそこで謹慎させる」
私たちが帰宅してから、この話はすぐに信頼おける者たちだけで進められた。
それなのにチェリーが逃げれたということは、どこかでこの話が漏れたということ。
父にとっても、なんとも頭が痛い話だろう。
信頼を置ける者たちの中にも、協力者がいたのか、それとも誰かが口を滑らせたのか。
ただ父とて、ここにいる使用人を全員把握はしていないはず。
あとは使用人たちの中で、見つけてもらう以外にないだろう。
「逃げたところで、どうにもならない話だというのに。チェリーはなにを考えているのか」
「ただこの話は、屋敷の人間しか知らぬ話です。だったら」
「いや、そういう問題ではない。どこで話が漏れているかも分からない上に、あの子が変わらなくては根本的な解決にはならないだろう」
「たしかに、それはそうですね」
いくら過去の記憶で生きているあの子にとって、この貴族社会が堅苦しいとはいえ、ここで生きていくのならば守らなければいけないルールはたくさんある。
それに婚約を破棄したいならしたいで、もっと別のやりようがあるのに。
盗った盗られたとか、そんなことは言いたくはないけど、これではあまりにも適当すぎる。
そして今度は、キースに手を伸ばすなんて。
キースがどんなことを思ってあの子といたのかは知らないけど、なんかやっぱり悲しい。
そう悲しい。
自分よりもあの子を選んだかもしれないことが。
隣に居るのが自分ではないということが、たまらなく悲しい。
ああ、本当に嫌だな。こんなことを思う自分すら嫌。
「ともかく内部調査はこのまま進めるし、チェリーの処遇についても検討する。そして決まり次第、一番にアイリスへは伝えるよ。だから今日はもうこのまま休みなさい。顔色が悪すぎる」
「はい……お父様」
せっかくの楽しみにしていたお出かけだったのに。
昨日から散々だな。
確かに、父の言うようにゆっくりしよう。
美味しいモノを食べて、ゆっくりお風呂に浸かって。
あとはリンと遊んで。
しばらく外出もしたくない。
心からそう思えた。
父はため息交じりに、執事を連れて戻ってきた。
その顔色は疲労が伺える。
「おかえりなさい、お父様」
「ああ、待たせてすまなかったな、アイリス」
「いいえ、大丈夫ですわ。それよりルカから頼んでおいた件はどうなりましたか?」
「まず簡単な結論から言えば、チェリーにアイリスの情報を流していた侍女たちは皆解雇することになった
「そうですか」
「ただ、チェリーを自宅謹慎にしようとしたところ他の侍女を連れて逃げられてしまったよ」
「逃げた……。その情報すら漏れていたということですか」
「そうだな。どうやらチェリーを乗せた馬車は、領地へ向かったらしい。向こうにつき次第、そのままそこで謹慎させる」
私たちが帰宅してから、この話はすぐに信頼おける者たちだけで進められた。
それなのにチェリーが逃げれたということは、どこかでこの話が漏れたということ。
父にとっても、なんとも頭が痛い話だろう。
信頼を置ける者たちの中にも、協力者がいたのか、それとも誰かが口を滑らせたのか。
ただ父とて、ここにいる使用人を全員把握はしていないはず。
あとは使用人たちの中で、見つけてもらう以外にないだろう。
「逃げたところで、どうにもならない話だというのに。チェリーはなにを考えているのか」
「ただこの話は、屋敷の人間しか知らぬ話です。だったら」
「いや、そういう問題ではない。どこで話が漏れているかも分からない上に、あの子が変わらなくては根本的な解決にはならないだろう」
「たしかに、それはそうですね」
いくら過去の記憶で生きているあの子にとって、この貴族社会が堅苦しいとはいえ、ここで生きていくのならば守らなければいけないルールはたくさんある。
それに婚約を破棄したいならしたいで、もっと別のやりようがあるのに。
盗った盗られたとか、そんなことは言いたくはないけど、これではあまりにも適当すぎる。
そして今度は、キースに手を伸ばすなんて。
キースがどんなことを思ってあの子といたのかは知らないけど、なんかやっぱり悲しい。
そう悲しい。
自分よりもあの子を選んだかもしれないことが。
隣に居るのが自分ではないということが、たまらなく悲しい。
ああ、本当に嫌だな。こんなことを思う自分すら嫌。
「ともかく内部調査はこのまま進めるし、チェリーの処遇についても検討する。そして決まり次第、一番にアイリスへは伝えるよ。だから今日はもうこのまま休みなさい。顔色が悪すぎる」
「はい……お父様」
せっかくの楽しみにしていたお出かけだったのに。
昨日から散々だな。
確かに、父の言うようにゆっくりしよう。
美味しいモノを食べて、ゆっくりお風呂に浸かって。
あとはリンと遊んで。
しばらく外出もしたくない。
心からそう思えた。
1
お気に入りに追加
872
あなたにおすすめの小説
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。
しかも、定番の悪役令嬢。
いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。
ですから婚約者の王子様。
私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる