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第四章

第六十三話 元侍女たちの裏切り

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 帰宅後ルカからこのことは侍女長へと伝えられた。

 話を大きくしたくない気持ちと、もうどうでもいいという気持ち。

 そんな狭間で揺れる私に、ルカは一度徹底的にと言った。

 その気持ちも分かる。

 仮にも同じ屋敷で働く仲間がこんなコトに携わっていたなんて。

 いくらチェリーからの命令だったとしても、あってはならないことだもの。


 彼らが仕えているのは、あくまでこの侯爵家でしかないのだから。

 いくら私であっても、ルカを直接雇用しているわけではない。

 全ては父たちのお金であり、采配なのだ。


「お嬢様、大丈夫ですか?」

「ええ、思ったほどは、ね」


 自分でも、思ったより冷静だった。

 怒るでもなく、泣くでもない。

 なんだかそんな感情すら、すでに通りこしてしまっている気がする。


「お父様に執務室ココで待つように言われたけど、どんな感じなの?」


 執務室のソファーに腰をかけたまま、私は後ろに立つルカに視線を向ける。

 呼び出されたのはいいものの、すぐに呼びに来た執事と共に父は部屋を出て行ってしまった。

 今回のことで、屋敷の中はかなり騒がしい。

 犯人捜しをしているのだから、仕方がないと言えばそれまでだが。

 この感じだと、加担した者たちは結構いるのかもしれないわね。

 スパイじゃないけど、なんだかなぁ。

 
「そうです、ね……侍女というものは基本誰よりも距離が近いものですから……」


 ルカは申し訳なさそうな顔をしながら、言葉を濁す。

 確かに専属侍女ともなれば、家族よりもある意味距離が近い。

 どこに行くにも大概連れて歩くし、感謝の気持ちがあればお小遣いや物をあげたりもする。

 そんな中では、雇い主よりも親密になってしまうというのは無理もない話だろう。

 ただ今回の件は、たちが悪すぎるのよね。

 個人情報の漏洩って。侍女としてはあり得ないことだもの。


「分からなくもないわ。私にとってもルカは大事だし」

「お嬢様……」

「でもね、大事だったら本来そんな仕事は頼まないと思うのよ。それに関わった人たちだって、コレがしてはいけないことだと分かっているはずだし」

「そうですね。そうだと思います」

「それなのに協力したということは……チェリーに絶大なる信頼があったか、私を妹をいじめる悪役令嬢として見下していたか」

「お嬢様! アイリスお嬢様はそんな酷いことをする人間ではありません。わたしはお嬢様付きの侍女を命じられてまだ日は浅いですが、それでもちゃんと分かってます」

「ルカ……」

「お嬢様付きを任命されたばかりの頃、何度失敗してもお嬢様は決してわたしを怒ることはございませんでした。本来、わたしなんかが……ただの平民でしかないわたしが、お嬢様付きの侍女になれることはありません」


 確か、元々私付きの侍女たちはみんなチェリーの方へ行ってしまったんだっけ。

 それで本来、配置されるはずもなかったルカが抜擢された。

 初めは右も左も分からなかったみたいだけど、それでも今までいたどの侍女よりも真面目に働いてくれていたものね。

 それに、たった一人の侍女なのに文句を言うこともなくずっと傍にいてくれた。

 平民だからとか、私にはそんなことは関係ない。

 本当に信頼できる人間の一人だ。


「でも、お嬢様が本当に好きで……お仕えしたいと……」

「ルカ泣かないで」

 
 服の裾を掴み、下を向いてルカは静かに涙を流す。


「だって、悔しいんです。お嬢様は誰よりも優しくて、誰よりも頑張っているのに。こんな、こんな仕打ち」

「ありがとう、ルカ。そんな風に怒ってくれるだけで、私は十分幸せよ」


 信頼できる、優しい人たちだけいてくれれば十分。
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