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第四章

第五十八話 話の見えない痴話喧嘩

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 爽やかな風が中庭から続く渡り廊下を吹き抜ける。

 秋風に巻き上げられた落ち葉が、くるくると足元を回っていた。

 四人二列に並んで歩く私たちは、なぜか無言のまま。

 グレンと仲良く歩くと思っていたチェリーはほぼ無表情ともいえるくらい、機嫌が悪い。

 そしてよりにもよって、私の隣を歩いている。

 そんな私たちの前を歩くキースたちも、やや足早だ。

 空気が重い。それでも、自分から声をかけたくない。

 みんながそう思っているような、気まずさだけが流れていた。


「はぁ。少し……、話があるんですが、グレン様」


 その声も表情も、いつもとは全く違う。

 怒っているのだろうなと予測はついても、痴話喧嘩に口をはさむほど私も優しくはない。

 勝手にやって。この一言に尽きる。

 ただなにがこれほどまでにチェリーの機嫌を悪くさせてるのかは、私にも分からないのよね。

 お茶会での態度や行動も、イマイチ意味が分からなかったし。


「どうしたんだいチェリー、そんな怖い顔をして」

「理由はご自分が一番分かっていらっしゃるんじゃないんですの?」


 振り返り立ち止まるグレンの目を見ながら、チェリーは腕を組んだ。


ことかな」

「どれの、ではなく全てです。約束が違うではないですか」

「違えた覚えはないとは思うんだけどなぁ。チェリー、君が望んだことは全て叶えてきたはずだよ」

「そうかもしれませんけど、わたしの目的を知っていて、どうしてこんな結果コトになるんです」

「結果までは約束した覚えはないはずじゃなかったかい?」

「グレン様、あなたって人は!!」

「約束は君が目的のためにやりたいことを手伝うということ。その先まで約束してなかったんじゃないかな」

「そういうのをへ理屈と言うのです。こうなる結果なら……あなたが望む結果と、わたしが望む結果が違うのならば、意味がないでしょう」

「そう言われても困ったな。僕は僕で、この結果を望んでいたのだから」

「最低ですね。あなた、他人の気持ちを考えれます?」


 他人の気持ちねぇ。

 チェリーに言われるようでは、グレンも……よね。

 肝心な要点を二人は伏せているけれど、その会話から内容はうっすらとは想像がつく。

 グレンはチェリーの望むことを知っていた。

 知っていて協力はしたけど、結果までは責任を持つとは言っていないってことでしょ。

 グレンはグレンで、自分の目的のためにチェリーに力を貸した。

 だけど、望んだ結果はチェリーが望んだものとは全く違う。
 
 裏切ったわけではないけど、チェリーの望む結果を知っていたのに、自分の望む結果になるように差し向けたってことかな。

 要は、チェリーはグレンにいい様に使われてた。

 ソレ自体が何かは分からないけど、そりゃあ怒るわよね。


「結果が伴わなけれな、意味がないじゃないですか」

「それも分かるけど、君の望む結果と僕の望む結果が真逆だったんだよ。ごめんね、チェリー」

「ホント、サイテー。ありえない」

「ただ、君だって君の目的のために僕を利用したかったんだろ」


 グレンのその言葉にチェリーは大きく息をのむ。

 そして涙をその瞳に溜め、つかつかとグレンに近づいた。

 チェリーは唇を噛みしめた後、右手を振り上げグレンの頬を打つ。

 そのあまりの音に私は肩をすくめ、思わず目をつぶった。
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