上 下
61 / 89
第四章

第五十六話 共闘

しおりを挟む
「そうなのよね。いないから、困ったものだわ。しばらくはキースが王政を一人で支えなくてはいけなくなってしまうもの」


 そう言いながらも、王妃は上機嫌だ。

 でも父が話してくれた内容とは、明らかに違う。

 混乱を招かないためにも、国王の退位とキースの即位は同時。

 そしてその時に、婚約又は王妃も決まるという話だったハズ。

 この言い分だと、王妃未定のままキース一人が王政を背負うことになってしまうじゃない。


「でもそれでは……」

「そぅなのよ。やはり一人というのは何かと大変でしょう? それにキースは今まで国政に携わってきていないわけだし」

「……」


 そうか。表向きは、まだ携わってないことになってるのね。

 もう十分すぎるほど、キースもグレンも仕事しているのに。

 まぁ、仕事の領域が違うから王妃様が知らないのも無理はないだろうけど。

 ああ、でもなんとなく、この人の魂胆が分かってしまうのが嫌な感じね。

 全然聞いていた王妃像と違うっていうか、なんというか。

 話、まとまってないんじゃないの。


「だからわたくしがココに残ってキースを支えようと思ってるのょ」


 満面の笑み。

 それも本当に女性らしい、笑みを王妃は浮かべた。

 なんていうのかな。ああ、恋する乙女みたいな?

 でも勘違いも甚だしいでしょう。

 この方は現王妃であって、次期王妃にはもちろんなれはしない。

 今このタイミングでその身分を明け渡さないにしても、いつかというものはやってくる。

 それなのに、そんなモノにしがみついて何になるんだろう。

 そんなにまでして、権力を維持したいものなのかな。

 私には、ある意味まったく理解できない世界だわ。


「チェリー難しいことは良く分からないのですがぁ、グレン様が他国の王女も視野に入れてとは言ってましたけどね。王妃さまと国王様を引き離してしまうなんて、そんな忍びないこと。きっと誰もさせないと思いますよぉ」


 チェリーが小首をかしげながら、王妃に微笑みかける。

 直訳しなくても、嫌味だということはこの場の全員が分かっているはず。

 周りの令嬢たちも、どう反応していいか困ったような表情で顔を見合わせていた。

 でも今回ばかりは、チェリーの言い分の方が正しいだろう。

 前王妃だけが国政に残るなど聞いたこともないし、小姑が居座るってなんだかなぁ。


「でもそうですね。さすがに王妃様にご迷惑をおかけするなど、宰相たちには頑張っていただかないと」

「なに、姉さま、もしかしてグレン様のこと悪く言うつもりなんですの」

「だって仕事が出来ないから、こんな王妃様に気苦労をかけてしまっているんじゃない。本来ならば、きっと国王様と退位されて静かにご養生が出来るはずなのに。それを駆り出そうだなんて」

「でもそれって、キース様が今まで真面目に婚約者を決めて来なかったことがいけないんではないですの?」

「結局、どっちどっちで殿方は宛にならないということですよね、王妃様」


 私たちの言葉に、まるで苦虫を嚙み潰したような顔を王妃はしていた。

 まぁわざと言っているんだから、それはそうでしょうね。

 グレンたちにその罪をなすりつけながらも、王妃あなたの出番などないと言ってるのだから。

 チェリーと共闘する気などさらさらないけど、さすがにこの思惑だけは通したくなどなかった。

 なんていうのか、王妃様の思惑はもっと違う方向を向いている気がするから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

処理中です...