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第三章
第五十一話 リンの変身
しおりを挟む「えーーーーー。そっか。そうよね。ブローチになれたぐらいだもんね」
「そうリン。ボクはご主人サマが思う形になれるリン。すごいんだリン」
「頭では分かってても、理解していないっていうのはきっとこういうことなのね」
「どういうことリン?」
「だって私が思う形になれるのなら、リンに隠れてもらう必要性はなかったわけだし」
今の問題点は、リンがあのくまさんの人形の形をしているから。
この姿だと、絶対にチェリーに記憶が戻ったことがバレてしまう。
せめて少なくとも、あの子がグレンの元に嫁いで平穏な日が訪れるまでは記憶が戻ったことは隠し通したいのよね。
そこまで隠し通せたら、たぶん大丈夫。
別々に暮らし始めるワケだし。
私を目の敵にしたり、過去のことでなにか言ってきたとしても、離れてしまえばなんとかなるハズだもの。
楽観視ってわけではないけど、今ならなんとなく大丈夫な気がする。
味方もたくさんいるし。
それに何より、変わろうと思えた自分がいるから。
いつまでもあの子に怯えていた私じゃないもの。
「ってことで、リンにはしばらくそのくまさん姿を変更してもらおうかな」
「この姿はダメなのかリン?」
そう言いながら、ふよふと宙に浮いたリンが小首をかしげる。
いや、かわいいからそいうの辞めて。
そのつぶらな瞳で、そんなコト言われると変えずらいんだけど。
「だ、ダメとかじゃなくて。チェリーに見つかると危険だからよ」
「でもリンは精霊リン。強いリンよ」
「強いのは分かってるけど、そーじゃないの~」
「えー。ボク、この姿気に入ってるリン。だって、ご主人サマがずっと大事に持ってくれていたリンもん」
「まぁそうね。ずっと一緒だったもんね。おじいちゃんからの誕生日プレゼントだったし」
今考えても、あの家族たちの中でおじいちゃんだけが私のことを思ってくれていたのよね。
私がまだ小さい頃に亡くなってしまったけど。
くまさんのぬいぐるみも、お誕生日でもないのに買ってくれたんだっけ。
母は私にだけ買ったことに、ずいぶん怒っていたのを覚えてる。
でも、唯奈にだって自分はなんでもない日に買ったりしていたんだから、怒る意味が分からないのよね。
「むー。で、ボクはどんな姿になるんだリン」
「えー、どうしようかな。そこまで考えてなかったのよね。でも今度の謁見もあることだし、精霊っぽい姿のがいいと思うのよ」
「精霊っぽいって」
「分かってるから、そんな目で見ないの~」
ぽいって、なんだよ、ぽいって。
リンの目がそう訴えかけていた。
いや、分かってるだけどさぁ。
今のままでは人形そのものだし。
飛んでいるから辛うじて精霊に見えなくもないけど、パッと見は本当にただの人形なのよね。
「リンの姿を造ったのが私だから、仕方ないんだけど。ん-、リンは水の精霊なのよね」
「そうリン。水を司る精霊リン」
「元の世界では、水を司るっていうとウンディーネよね。たしか、水色で人魚のような姿じゃなかったかなぁ。で、手には杖っていうか錫杖のようなものを持っているの」
頭の中で絵本か何かで見たウンディーネの姿を思い出す。
色はそう、私の髪の色のような肌。
瞳も同じ色だと嬉しいかな。
サイズは今と同じくらいで、錫杖も必須アイテムよね。
振り回してたら絶対にかわいいもの。
「想像出来たリン?」
「ばっちりよ。私と同じ髪と瞳の色なの。しばらくの間だけだけど、リンも絶対に気に入ると思うわ」
「ご主人サマと一緒……。それは嬉しいリン。さ、ボクを持って想像して欲しいリン」
「うん」
私はリンの両脇を持ち、上に掲げる。
そして目をつむり、リンの姿が先ほどのウンディーネのようになるように想像を重ね合わせる。
リンの体がまばゆい光を放ち、みるみるうちに想像した通りに変化していった。
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