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第三章

第四十九話 決意新たに

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 重たい瞼をゆっくりと開けた。

 部屋の中は、日差しが差し込み温かい。

 あれ? なんで私は部屋にいるんだっけ。

 そう思い、体を動かそうとしたが鉛のように重い。


「な……ごほぉごほぉ」


 声を出そうとして、自分の喉がカラカラだということに気づいた。


「ああ、お嬢様! お目覚めになられたのですか」

 
 私の声を聞きつけたルカが、小走りにベッドまで近づいてきた。


「る、ル……」

「無理してはいけません。あの後、三日間も高熱が出て意識が戻らなかったんですから」

「そうだリン。だから力を使いすぎるのはダメだってあれほど言ったリン」

 
 ルカの斜め上を、リンがふよふよと浮いていた。

 ああ、そうか。
 
 もうみんなにはリンの姿は見せてしまったんだっけ。


『ごめんね』


 声が上手く出なくても、これでならリンとは話せたはず。


「もーーーー。ごめんじゃないリン。リンたちがどれだけ心配したと思ったリン」

「そうですよ、お嬢様。この精霊のリン様がお嬢様の状態を教えて下さったからいいものを。私も旦那様たちもどれだけ心配したことか」

『はい、反省してます』

「反省っていうなら、次からは絶対に無茶しちゃダメリンよ」

「そーです」

『善処します』

「……ごーしゅーじーんサマ!!」

「え、リン様、お嬢様は今何とおっしゃったのですか?」

「善処するとか言ってるリン。つまり一応考えはするけど、ま、約束は出来ないかな~という意味リン」


 あ。リン鋭い。

 じゃなくて、そこまでルカに説明しないでよ。

 涙を浮かべながら、ルカは顔を真っ赤にしている。

 怒るのは分かるの。

 でももし、また同じ場面に遭遇したら、無茶をしないって保証がないんだもん。

 
「ルカが、ルカがどれだけ心配したのかと……」

『ああ、ごめんねルカ』


 ベッドの縁にルカは顔を鎮める。

 私は重い腕を布団から出し、ルカの頭を撫でた。

 泣くほど心配してくれたなんて。

 
『ありがとう、ルカ』

「本来ならば使用人であるルカがお嬢様を守る立場にあります。それなのに、何も出来ず、挙句お嬢様を失うかと」

『ルカは十分すぎるほどしてくれてるわ。私にとっては側にいて、こうやって心配してくれる人がいるだけで十分幸せだもの』


 そう。本当に、前の何十倍も幸せだ。
 
 リンから私の言葉を伝えられると、ルカは更に号泣をしてしまった。

 こうやってリンが受け入れられたのは、ある意味良かった。

 いつその存在が知られるかもしれないと怯えるよりは、マシね。

 ただこの姿がなぁ。

 どう見てもくまさんだし。

 チェリーに見つかれば、いろんなコトが全てバレてしまう。

 せめて、この家を私が出るまでは隠し通したかったのに。


「お嬢様、重大な報告を忘れておりました!」

 
 ルカのその重大な、の響き。

 明らかに、いい予感がしないんだけど。


「この度のお嬢様の功績を称えると共に、我が国初の精霊使いとして、国王陛下かからの褒美が出るとのことです。すごいですよね、お嬢様。この国唯一の精霊使いだなんて」

『え』

「まぁ、そうなると思ったリン」

『え』

 
 いや、褒美とかいらないし。

 ああ、でも考えようによってはこれが悪役令嬢の名を払拭させるいい機会なのかもしれない。

 リンの姿さえ、どうにか出来ればいいだけだし。

 そう考えれば、注目を浴びるのは嫌だけどいい方向に向かってるって思えるもの。

 頑張ってくれたのはリンだけどね。


「ご主人サマが頑張ったから、あの子は救えたリン。も少し、胸を張るリンよ」

『助かったの? よかった』

「でもおかげでご主人サマは三日も寝込んだけどねリン」

『人の命とは比べ物にならないわ』

「でもご主人サマをいじめてたヤツリンよ」

『まぁそうね……でもね、前の人生で一つだけ学んだことがあるの』

「ん? 何だリン?」

『人にやられて嫌なコトはしない、よ。だっていつか絶対自分に返ってくると思うから』


 それにまだ、アレは耐えられない方でもなかったし。

 私はもっと酷いのを知っているからかな。

 あれぐらいなら可愛く思えてしまうのは。

 さすがに自分の大切なもモノに手を出されたり、命の危険があれば私だって別だけど。


「もーーー。そういう問題じゃないリン」

「そうリン、そうリンです」


 リンの言葉につられるように、ルカが話し出す。

 やられたらやり返す派ではないけど、確かにずっとやられっぱなしもダメよね。

 だってどんどんエスカレートしてくるのは目に見えてるから。

 今度の謁見を期に、少し反撃も考えてみようかな。

 そんな私の考えをよそに、二人で揃ってぷんぷんしているリンとルカを見ると、思わず私はほっこりしてしまった。
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