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第三章
閑話休題 おかしな姉妹②(グレン視点)
しおりを挟む「殿下、ここへアイリスが来たのですか」
「ああ、書類はアイリスが半分片付けてくれたさ」
アイリスの優秀さはキースより自分の方が知っている。
「彼女がやった書類を見てもいいですか?」
そう、その上でずっと気になっていることがあった。
「書類ではなく、お前が見たいのはこっちだろ」
そう言ってキースが一枚の紙を差し出した。
それはアイリスが計算する時にメモとして使っていた紙だ。
紙には見たこともないような記号や計算方式が書かれている。
そう、これは彼女の秘密といっても過言ではない。
完璧な令嬢にも関わらず、他の令嬢とは明らかに何かがあの姉・妹・は・違う。
幼いころから、ずっと二人には興味があった。
いつも言動がややおかしいのは妹であるチェリー。
そしてチェリーは何かにつけてアイリスの様子を探り、固執していた。
「で、それで何か分かったか」
「もちろんですよ」
「ずいぶんと腹黒い笑みだな」
キースに言われ、自分が笑みを浮かべていることを自覚する。
何せずっと知りたいと思っていたことの、片鱗が垣間見えたのだ。
喜ばずにはいられないだろう。
「やはり仮説は当たっていそうですね。この計算式もそうですし、それ以外に書かれた文字もそうです。この文字はこの世界には存在しません」
「前に王立図書館で見つけた密書に書かれていたというやつか」
「ええ、そうです。おそらく正解でしょう。元々、チェリーはそうではないかと思っていたのですが、アイリスもやはりそうでしたね」
「こんなのに執着されている姉妹が哀れに思えるな」
「こんなの呼ばわりするなら、その書類は手伝いませんからね」
「いや、それは困る。半分引き取ってくれ。またアイリスから情報が聞ければ、ちゃんと報告してやるよ。この世界の全てを知りたいんだろ」
「そんな大げさなものではないですよ。ただ知らないことがあったら、突き詰めないと気が済まない質なだけです」
そう言って、眼鏡を上げる。
知らないことがあれば、知りたいと思うのが人間だろう。
彼女たちがひた隠していることもそうだ。
何よりあれだけ姉に固執する妹の心の中も。
だからこそ、彼女の計画に僕は加担した。
加担することでまずは彼女を手に入れるため。
そしてそれをされたアイリスを観察するために。
少々可哀想な方法ではあったが、アイリスならまず問題なく抜け出してくれるだろう。
彼女は僕の唯一の友であり、僕が信頼しうる人間なのだから。
ただそうだな。
チェリーの瞳が、いつか姉ではなく僕だけを映せばいいという独占欲だけは、ずっと隠しておかないといけないな。
チェリーに嫌われてしまっては、元も子もない。
「ホント、いつ見てもお前が悪だくみしている姿はぞっとするよ。俺は一生敵になんて回したくないね」
「また、よく言いますよ。僕だって、殿下を敵に回す気はないんですから」
「ところで、例の件はどうだ?」
「ああ。あの方お一人だけごねてますよ。きっと、ずっとではないですか? なんせ鳴り物入りでココに来られたんですから」
「困ったもんだな。ここへきて、そんなことを言い出されてももうどうにもならないところまで来てしまってるというのに」
「まぁ、何も起こらなければ静観でいいでしょう」
「何も起こらなければ、な」
そう言うと、キースは大きなため息をついた。
あの方のことだ、何も起こさないわけがない。
それは僕もキースも痛いほど分かっていた。
「失礼します!」
大きな音を立てながら、兵が部屋へ入ってくる。
「何ごとだ」
「申し訳ありません。城下西の川で急激な鉄砲水が発生し、幾人かが流された模様です!」
「それは大変だな」
「はっ。そしてその流された人の中に、アイリス様がいらっしゃったと」
「「なんだって!」」
アイリスが流された。
そんな馬鹿なことが、あるのだろうか。
今やっとこれからだという時に。
「すぐ行く」
「僕も行きます! 馬の用意を!」
「はっ。すぐ手配します」
兵に続くように、僕たちは部屋を飛び出したのだった。
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