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第二章

第三十七話 改革はギルドと共に

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「このアイリス嬢は、退役した冒険者を冒険者広場の警備兵として雇えないかという案も出しているんだ」

「お嬢さん。あんた、そこまでして……。お貴族サマだと馬鹿にした態度をとってすまなかった」


 ギルド長は深々と、私に頭を下げた。


「いえ。いいんです。普通はそうだと思いますから」

「でもなぜそこまで、肩入れして下さるのですか。たかだか冒険者でしょうに」

「たかだか? だって、同じこの国に住む方たちですし。冒険者さんたちがいなければ、魔物を退治する人もいなくなってしまうし。困る人間がたくさんいるじゃないですか」


 そう。冒険者というのは、絶対に馬鹿には出来ない職業だ。

 魔物を狩る人がいなくなれば、いろんなところで魔物が溢れかえってしまう。
 
 そして薬草採取などを引き受けてもらう人がいなければ、調剤なども困るだろう。

 ただ、一部の貴族たちからすれば泥臭く汚い職業だと思われて嫌煙されているのも事実。

 もっとこう、本当は身分にしたって保障されるべきだと思うのよね。

 かっこいいし。そう。私からしたら、絶対に憧れの職業だと思うんだけどなぁ。


「税を取る代わりではないんですが、冒険者だっていつまでもやっていける職業ではないでしょ。そしたら、退役した後の居場所の確保も、この国の治安を守るためには必要だと思ったのです」


 今度はちゃんと前を見て、ギルド長の目を見て話す。

 ここまで来たのだ、言いたいことはちゃんと言おう。


「確かにそれは有難い話だ。冒険者をケガや歳で辞めた奴らが、荒くれていく姿なんて、仲間として見たくないからな」

「で、どうなんだ? 魔物の肉は食べれるのか?」

「ん-、そうですねぇ。んじゃ、いっちょ確認しますか」

「んんん?」

 
 あれ。なんか全然いい予感がしないんだけど。

 ギルド長は立ち上がると、私たちが来た受付の方へ歩き出す。

 どうやら付いて来いということらしい。


「おーい、この中で魔物の肉を食ったことある奴はいるか?」


 ギルド長は受付嬢の前に立つと、そのまま大きな声でその場にいた冒険者たちに尋ねた。

 明らかにその場にいた冒険者達が怪訝な顔をしている。

 ああ、なんでみんなそうもストレートに聞くのだろう。

 もうちょっと、オブラートに包むという考えはこの国にはないのかしら。

 もーーーーー。やだぁ。


「ギルド長、食うんすか」

「さすが、ギルド長。あの顔は何でも食うな」

「違いない!」


 口々に冷やかしが聞こえる。

 やはり、魔物はこの世界では食べないものらしい。

 この件は諦める方が良いみたいだ。


「おいおい、ちゃんと答えろ、お前ら」


 ギルド長の一喝で、冷やかしや野次が止まる。


「何の魔物でもいいんですか? うちのチームはバジリスクだったら食べたことありますよ。硬くてうまいもんではなかったですけど」


 確か、バジリスクはトカゲのような大型の魔物のはず。

 トカゲならば、確かに肉付きは悪そうだ。


「あの、そのお肉は硬いだけで、問題はなかったですか?」


 硬いだけならば柔らかくするか、揚げるか何かしてしまえば大丈夫なはず。

 毒と、あまりに不味いのならば話はまた別なのだが。

 ギルド長の代わりに私が聞いても、先ほどの様な野次はもう飛んでは来ない。


「ああ、毒とか特に問題はなかったよ」

「コブリンやオークは食えないぞ。あいつら汚すぎて、匂いからして食べられる類のもんじゃない」

「わたしのとこは、コカトリスを食べたって子がいるわよ。尻尾と頭は無理だけど、胴体は所詮鳥だし」


 次々に食べられる魔物と食べられない魔物が出てくる。


「あの、今出た以外の魔物を食べる時に、何か確認する方法っていうのはないものでしょうか」


 そう、これが一番大事な質問だ。

 行き当たりばったりで、食中毒や死んでしまうようなことがあってはいけないから。


「それならお嬢さん、協会の連中の中に鑑定士っつうのがいて、そいつらなら見分けがつくみたいだ。尤も、今まで魔物を好き好んで食べようなんて奴はいなかったから、やったことなどないと思うが」

「キースさま、協会に鑑定は頼めますか?」

「そこは大丈夫だろう」

「でもお嬢さん、硬い肉や見た目が悪いものはどうするんだ」

「硬ければ柔らかくする方法など、いくらでもあります。また見た目についても、加工してしまえば問題ありません。今度、今出た食べたことがあるという肉が手に入りましたら、血抜きして一度冒険者ギルドまで運んで頂けないでしょうか。ブレイアム侯爵家が買い取らせていただきます」


 私が家名を出した途端、またギルド内がザワザワとし出す。

 侯爵家の令嬢が魔物の肉を買いたいと言えば、それもそうだろう。

 しかし実物を見て、実際にやってみないことには何とも言えないのだから仕方ない。

 私が言い出した以上、私が最後までやらないと。

 たとえ、今はお貴族様の遊び事だと思われたとしても。


「アイリス」

「いいんです。私が言い出して、私がやりたいことですから」


 キースに微笑むと、ギルド長が大きく咳払いをした。

 思わずギルト長を見上げると、やや悪巧みを思い付いたような、そんな笑みを浮かべている。


「お前ら、アイリス嬢がここまで言っているんだ。もちろん持って来れるな」

『了解』


 そんな言葉が口々に出てくる。みんなどこか楽しそうだ。

 私までつい、ウキウキしてくる。


「お嬢さん、肉が手に入ったら侯爵邸まで遣いを出すとしよう」

「ありがとうございます、ギルド長。その時はすぐ飛んで来ますね」

「いいてことさ、こっちも利益がある話だ。大船に乗ったつもりで待っていてくれ」
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