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第二章
第三十五話 お互いの関係性
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それからというもの、私は疑心暗鬼になってしまった。
どんな人であっても、私をそんな風に見ているのではないか。
ただでさえ引っ込み思案でだったわけだし。
人付き合いがうまくない私には、全てが致命傷だったのだ。
そこから夜会にも顔を出さなかったから、友だちと呼べるような人もいなかったし。
悪循環というか。
効果的な嫌がらせだったってわけね。
「妹から、ですかね……」
「妹?」
「ええ……」
「グレンから聞いた話では、嫉妬してしまうぐらいに姉好きだと聞いたんだが……」
「ああ、それ。父にも言われましたよ。妹が私を好きすぎるって」
「ん-。もしかすると、他の人の口から口へと噂が回るうちに、違いものに変化してしまったとか」
「ふふふ。そうなら、いいですね」
「アイリス?」
チェリーを庇おうとするキースの言うことには、一理ある。
しかし今までが今までなだけに、そう簡単に信じきれないのも確かだ。
だいたいそれに、本当に好きならば私を悪役令嬢に仕立てる意味がないもの。
「あーあ。でもどうせなら、私もチェリーみたいな容姿に生まれたかったです。ふわふわしたストロベリーブロンドの髪に、大きなピンクの瞳。人懐っこくて、誰にでも好かれる、そんな風に」
ないものねだりなのは自分でも分かっている。
でもいつも人の中心にいて、可愛がられるあの子が私には羨ましくて仕方がない。
「俺は、今のアイリスが誰よりも可愛いと思っている。それに見たことも話したこともない他人の評価など、気にしたところでどうしようもならないさ。アイリスだって、俺に会う前の評価と、今一緒にいる時の評価とでは全く違うだろ?」
「ん-。会う前というか、一番初めという意味なら」
「あははは。でもまぁ、そうだな」
私はキースの方を見る。
第一印象は本当に最悪だった。
それにその後聞いた王弟殿下としてキースの噂も、確かに良いものはほぼなかった。
いつも遊び呆けて、特定の婚約者もいない。
とっかえひっかえ違う女の人と遊んでいるというのが、貴族社会での評価。
でも先ほどの仕事量にしてもそう。
ああいう風な姿を見てしまうと、きっとこれまでの姿はわざと作っていたんじゃないかって思えてしまう。
本来の自分を隠すために。
きっともしかするとそれは、兄である国王陛下を守るため。
そんな風に近づけば近づくほど、この方をもっと知りたいと思う自分がここにいる。
こういうのも、恋心っていうのかな。
なんだか、歯がゆくて難しい。
「そうですね。確かに、前と後とでは全然評価が違いますね」
「惚れたか?」
「もーーーー。また、キースさまはそんなことを言って。そんなに簡単に惚れないんですからね」
「あー、それは残念だ。さ、ゴミを捨ててくるから貸してくれ」
「それは私が」
「いや、いいよ。大丈夫だ。さ、貸して」
「もぅ。はい、すみません」
こんなことを王弟殿下にやらせているなんて知られたら、怒られてしまいそうね。
しゃべりながら食べ進めるうちに、確かにキースの用意した食べ物は全て綺麗になくなっていた。
私が食べきれない分まで、キースがパクパク食べていたのだ。
あの細い体のどこに入っていったんだろう。
ホント少し不思議よね。
太らないのかな。羨ましすぎる。
「さっきの話だが」
「はい?」
「案外、妹殿はアイリスのことが好きすぎて逆に羨ましいのかもしれない」
「羨ましいって、私がですか」
「聡明で、物静かなとこがとか」
「それこそ、ないと思いますけど」
「いやいや羨ましすぎて、わざと悪口を言っているのかも。いっそ、アイリスも妹のことがかわいくて大好きーとか言ってみたらどうだ?」
「え……、いや、それはさすがに……」
それを言う自分が全く想像できないわ。
ちとキツイ。
「だったら、せめて褒めてみるとか」
「褒める……かぁ。まぁそれなら、出来そうな気もしますが」
キースに手を引かれ、私は立ち上がる。
確かに今まではほとんどチェリーのことなど相手にしてはこなかった。
相手にすれば、付け上がってヒートアップすると思っていたから。
でも、もしそうじゃないなら。
私を羨ましく思って、憎らしいと思っているなら。
キースの言うように褒めるくらいは出来ないこともない。
どうせこれ以上、悪化しようもない関係性なら何かをやってみるのも手よね。
それがどちらに進んでも、あんまり大差ない気がするし。
「そうですね、一度やってみます」
「また、結果を聞かせてくれ」
「はい」
「さて、お腹も満たしたことだし、買い物に行きたいところなんだが」
「どこか行きたいところがあるんですか? いいですよ。先ほども言いましたが、別に何か欲しいものがあったわけでもないですし」
「いや、そういうわけにもいかないさ。なにせ、仕事を半分ももらってもらったんだからな」
「そうですね、じゃあ、これは貸一つということで。今度何かあった時、お願い事聞いて下さいね」
「ああ、もちろんだ。アイリスの願い事なら、なんでも叶えてあげるよ」
「ふふふ。ソレ、高くついても知りませんからね」
「あははは。望むところだ」
キースに二つ返事をもらうと、手を引かれたまま歩き出した。
どんな人であっても、私をそんな風に見ているのではないか。
ただでさえ引っ込み思案でだったわけだし。
人付き合いがうまくない私には、全てが致命傷だったのだ。
そこから夜会にも顔を出さなかったから、友だちと呼べるような人もいなかったし。
悪循環というか。
効果的な嫌がらせだったってわけね。
「妹から、ですかね……」
「妹?」
「ええ……」
「グレンから聞いた話では、嫉妬してしまうぐらいに姉好きだと聞いたんだが……」
「ああ、それ。父にも言われましたよ。妹が私を好きすぎるって」
「ん-。もしかすると、他の人の口から口へと噂が回るうちに、違いものに変化してしまったとか」
「ふふふ。そうなら、いいですね」
「アイリス?」
チェリーを庇おうとするキースの言うことには、一理ある。
しかし今までが今までなだけに、そう簡単に信じきれないのも確かだ。
だいたいそれに、本当に好きならば私を悪役令嬢に仕立てる意味がないもの。
「あーあ。でもどうせなら、私もチェリーみたいな容姿に生まれたかったです。ふわふわしたストロベリーブロンドの髪に、大きなピンクの瞳。人懐っこくて、誰にでも好かれる、そんな風に」
ないものねだりなのは自分でも分かっている。
でもいつも人の中心にいて、可愛がられるあの子が私には羨ましくて仕方がない。
「俺は、今のアイリスが誰よりも可愛いと思っている。それに見たことも話したこともない他人の評価など、気にしたところでどうしようもならないさ。アイリスだって、俺に会う前の評価と、今一緒にいる時の評価とでは全く違うだろ?」
「ん-。会う前というか、一番初めという意味なら」
「あははは。でもまぁ、そうだな」
私はキースの方を見る。
第一印象は本当に最悪だった。
それにその後聞いた王弟殿下としてキースの噂も、確かに良いものはほぼなかった。
いつも遊び呆けて、特定の婚約者もいない。
とっかえひっかえ違う女の人と遊んでいるというのが、貴族社会での評価。
でも先ほどの仕事量にしてもそう。
ああいう風な姿を見てしまうと、きっとこれまでの姿はわざと作っていたんじゃないかって思えてしまう。
本来の自分を隠すために。
きっともしかするとそれは、兄である国王陛下を守るため。
そんな風に近づけば近づくほど、この方をもっと知りたいと思う自分がここにいる。
こういうのも、恋心っていうのかな。
なんだか、歯がゆくて難しい。
「そうですね。確かに、前と後とでは全然評価が違いますね」
「惚れたか?」
「もーーーー。また、キースさまはそんなことを言って。そんなに簡単に惚れないんですからね」
「あー、それは残念だ。さ、ゴミを捨ててくるから貸してくれ」
「それは私が」
「いや、いいよ。大丈夫だ。さ、貸して」
「もぅ。はい、すみません」
こんなことを王弟殿下にやらせているなんて知られたら、怒られてしまいそうね。
しゃべりながら食べ進めるうちに、確かにキースの用意した食べ物は全て綺麗になくなっていた。
私が食べきれない分まで、キースがパクパク食べていたのだ。
あの細い体のどこに入っていったんだろう。
ホント少し不思議よね。
太らないのかな。羨ましすぎる。
「さっきの話だが」
「はい?」
「案外、妹殿はアイリスのことが好きすぎて逆に羨ましいのかもしれない」
「羨ましいって、私がですか」
「聡明で、物静かなとこがとか」
「それこそ、ないと思いますけど」
「いやいや羨ましすぎて、わざと悪口を言っているのかも。いっそ、アイリスも妹のことがかわいくて大好きーとか言ってみたらどうだ?」
「え……、いや、それはさすがに……」
それを言う自分が全く想像できないわ。
ちとキツイ。
「だったら、せめて褒めてみるとか」
「褒める……かぁ。まぁそれなら、出来そうな気もしますが」
キースに手を引かれ、私は立ち上がる。
確かに今まではほとんどチェリーのことなど相手にしてはこなかった。
相手にすれば、付け上がってヒートアップすると思っていたから。
でも、もしそうじゃないなら。
私を羨ましく思って、憎らしいと思っているなら。
キースの言うように褒めるくらいは出来ないこともない。
どうせこれ以上、悪化しようもない関係性なら何かをやってみるのも手よね。
それがどちらに進んでも、あんまり大差ない気がするし。
「そうですね、一度やってみます」
「また、結果を聞かせてくれ」
「はい」
「さて、お腹も満たしたことだし、買い物に行きたいところなんだが」
「どこか行きたいところがあるんですか? いいですよ。先ほども言いましたが、別に何か欲しいものがあったわけでもないですし」
「いや、そういうわけにもいかないさ。なにせ、仕事を半分ももらってもらったんだからな」
「そうですね、じゃあ、これは貸一つということで。今度何かあった時、お願い事聞いて下さいね」
「ああ、もちろんだ。アイリスの願い事なら、なんでも叶えてあげるよ」
「ふふふ。ソレ、高くついても知りませんからね」
「あははは。望むところだ」
キースに二つ返事をもらうと、手を引かれたまま歩き出した。
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