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第二章
第三十一話 デートと言う名のお手伝い
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私は次の日、朝一番で手紙をキースへと出した。
そして翌日すぐに、キースから自分の執務室まで来てくれないかと返信が来た。
計画通りだ。
家で会えば、チェリーのことが気になって仕方ないから。
そして今日、あの子が花嫁衣裳の話し合いのために出かけたのを見計らい、私は急いで馬車に乗り込む。
手には、昨日ルカと作ったお菓子の籠を持って。
別にこのお菓子は下心があるわけではない。
純粋に、思い出した記憶を元に自分が食べたいものを作っただけ。
そしてそれが思いのほか美味しかったから、おすそ分けしに持ってきただけだ。
キースが甘いものが苦手かもしれないということを考慮して、ブランデーのようなお酒をいれたプリンだ。
そう、自分の甘いプリンを作るついでだったんだ。
私は馬車の中で何度も呪文のように自分に言い聞かせる。
『素直じゃないリン』
『そんなことないもん。きっと気のせいよ』
『まったくもぅ、ご主人サマは~』
『むーーー。そんなこと言ったって、急には性格は直らないんです』
「お嬢様、到着しました」
御者に城の裏手につけてもらう。
門兵はいるものの侯爵家の家紋の入った馬車で来ているため、もちろん止められることはない。
私は庭園を横目に演習場の横を通り、城へ入る。
まだ数回した来たことがないため、キースの執務室ぐらいしか場所は分からないんだけど。
でも今はそれだけ分かれば大丈夫だろう。
大きな赤い扉の前にいた騎士に話しかけ、中にいるキースの許可を取る。
すると、勢いよくキースがドアを開けた。
「すまない、アイリス。こんなところへ呼び出してしまって。さぁ、中へ入ってくれ」
うれしそうなキースの顔を見ると、私も思わず笑みがこぼれる。
キースの机の上には、この前の二倍近い書類が右と左に分かれて乗せられていた。
よくあれで、なだ崩れにならないものね。
ある意味、絶妙なバランスだ。
「お忙しいなら、また今度にいたしましたのに」
「ここはもう、誰もいないから普通にしてくれ。なんだか、そのしゃべり方をされると落ち着かない」
「そうですか? いつもキャーキャー言う女の子たちにばかり囲まれていたから、てっきりこの方がいいのかと思いましたよ。それよりも仕事がずいぶん溜まっているようですが、大丈夫なんですか」
「いや、あんまり大丈夫じゃない……。でも、会いたかったんだ」
そう言って真っすぐに見つめられると、嫌みの一つも思いつきはしない。
会いたかったなんて。
うー。恥ずかしい。
話題を変えよう。これでは、私の方がもたないわ。
「それにしてもすごい量の書類ですね」
私は山積みの書類を指さす。
「この前、アイリスが税をと言っていたのを書類にまとめたんだ。しかしそれについての具体的な金額や計算といったものも、多数上がってきてしまって。グレンにもやらせているのが、何分処理する書類が多くて。本当だったら、今日は君と何か贈り物を一緒に見に行きたかったんだが」
「グレンに書類を押し付けられ、逃げられたと」
「そうなんだ。婚約者が花嫁衣裳を作るのに顔を出しに行かないといけないからと言われてね」
今日出かける時に、ずいぶんチェリーの機嫌がいいと思ったら、グレンと合流することになっていたのか。
だが、その分押し付けられたキースは可哀相の一言に尽きる。
私は籠をテーブルに置くと、キースの机に近づいた。
「この書類は私が見ても大丈夫ですか」
「ああ、こっち側のは基本的に誰が見て処理しても問題ないものだが。そんなものを見ても、面白くはないだろう」
キースの指さした書類を手に取る。
税率の計算や、その他人件費などの計算書などだ。
また、城に仕入れる物の見積書などがある。
これぐらいならば私にも問題なく出来る範囲だろう。
書類の束をそのまま、キースのテーブルから客間用のテーブルに移した。
「アイリス、それをどうするんだ」
「こういうものは二人で手分けした方が早く終わります。計算は得意ですので、問題ありません。何か書いても問題ない紙と、ペンを貸してください」
「いや、それはいいんだが……、だがしかし……」
「その代わり、早く終わったら何か買ってくださいますか?」
私は子どものように、いたずらっぽっく笑った。
もちろんこの量だ。
やってみなければ、終わるかどうかはわからない。
でも、なんだかこのままにしておくのも可哀想だし。
言い出したのが私なんだから、やっぱりその責任は少し取らないとね。
「君という女性は、ホントにもう……」
そう言いながらもキースも満更ではなさそうな笑みを返してくれた。
確かにデートと呼ぶにはあまりにも味気ない。
ルカが後で聞いたら、きっとがっかりするとは思う。
でも今はまだ、私にはこれぐらいがちょうどいい。
「分かった。では、そちらを頼む。今日は何とも味気ないデートになるかと思ったが、急いで終わらすとしよう」
「ですね」
二人で顔を合わせ、微笑む。
それが心地いい。
ある意味私には、誰にも邪魔されない静かな時間にさえ思えた。
そして翌日すぐに、キースから自分の執務室まで来てくれないかと返信が来た。
計画通りだ。
家で会えば、チェリーのことが気になって仕方ないから。
そして今日、あの子が花嫁衣裳の話し合いのために出かけたのを見計らい、私は急いで馬車に乗り込む。
手には、昨日ルカと作ったお菓子の籠を持って。
別にこのお菓子は下心があるわけではない。
純粋に、思い出した記憶を元に自分が食べたいものを作っただけ。
そしてそれが思いのほか美味しかったから、おすそ分けしに持ってきただけだ。
キースが甘いものが苦手かもしれないということを考慮して、ブランデーのようなお酒をいれたプリンだ。
そう、自分の甘いプリンを作るついでだったんだ。
私は馬車の中で何度も呪文のように自分に言い聞かせる。
『素直じゃないリン』
『そんなことないもん。きっと気のせいよ』
『まったくもぅ、ご主人サマは~』
『むーーー。そんなこと言ったって、急には性格は直らないんです』
「お嬢様、到着しました」
御者に城の裏手につけてもらう。
門兵はいるものの侯爵家の家紋の入った馬車で来ているため、もちろん止められることはない。
私は庭園を横目に演習場の横を通り、城へ入る。
まだ数回した来たことがないため、キースの執務室ぐらいしか場所は分からないんだけど。
でも今はそれだけ分かれば大丈夫だろう。
大きな赤い扉の前にいた騎士に話しかけ、中にいるキースの許可を取る。
すると、勢いよくキースがドアを開けた。
「すまない、アイリス。こんなところへ呼び出してしまって。さぁ、中へ入ってくれ」
うれしそうなキースの顔を見ると、私も思わず笑みがこぼれる。
キースの机の上には、この前の二倍近い書類が右と左に分かれて乗せられていた。
よくあれで、なだ崩れにならないものね。
ある意味、絶妙なバランスだ。
「お忙しいなら、また今度にいたしましたのに」
「ここはもう、誰もいないから普通にしてくれ。なんだか、そのしゃべり方をされると落ち着かない」
「そうですか? いつもキャーキャー言う女の子たちにばかり囲まれていたから、てっきりこの方がいいのかと思いましたよ。それよりも仕事がずいぶん溜まっているようですが、大丈夫なんですか」
「いや、あんまり大丈夫じゃない……。でも、会いたかったんだ」
そう言って真っすぐに見つめられると、嫌みの一つも思いつきはしない。
会いたかったなんて。
うー。恥ずかしい。
話題を変えよう。これでは、私の方がもたないわ。
「それにしてもすごい量の書類ですね」
私は山積みの書類を指さす。
「この前、アイリスが税をと言っていたのを書類にまとめたんだ。しかしそれについての具体的な金額や計算といったものも、多数上がってきてしまって。グレンにもやらせているのが、何分処理する書類が多くて。本当だったら、今日は君と何か贈り物を一緒に見に行きたかったんだが」
「グレンに書類を押し付けられ、逃げられたと」
「そうなんだ。婚約者が花嫁衣裳を作るのに顔を出しに行かないといけないからと言われてね」
今日出かける時に、ずいぶんチェリーの機嫌がいいと思ったら、グレンと合流することになっていたのか。
だが、その分押し付けられたキースは可哀相の一言に尽きる。
私は籠をテーブルに置くと、キースの机に近づいた。
「この書類は私が見ても大丈夫ですか」
「ああ、こっち側のは基本的に誰が見て処理しても問題ないものだが。そんなものを見ても、面白くはないだろう」
キースの指さした書類を手に取る。
税率の計算や、その他人件費などの計算書などだ。
また、城に仕入れる物の見積書などがある。
これぐらいならば私にも問題なく出来る範囲だろう。
書類の束をそのまま、キースのテーブルから客間用のテーブルに移した。
「アイリス、それをどうするんだ」
「こういうものは二人で手分けした方が早く終わります。計算は得意ですので、問題ありません。何か書いても問題ない紙と、ペンを貸してください」
「いや、それはいいんだが……、だがしかし……」
「その代わり、早く終わったら何か買ってくださいますか?」
私は子どものように、いたずらっぽっく笑った。
もちろんこの量だ。
やってみなければ、終わるかどうかはわからない。
でも、なんだかこのままにしておくのも可哀想だし。
言い出したのが私なんだから、やっぱりその責任は少し取らないとね。
「君という女性は、ホントにもう……」
そう言いながらもキースも満更ではなさそうな笑みを返してくれた。
確かにデートと呼ぶにはあまりにも味気ない。
ルカが後で聞いたら、きっとがっかりするとは思う。
でも今はまだ、私にはこれぐらいがちょうどいい。
「分かった。では、そちらを頼む。今日は何とも味気ないデートになるかと思ったが、急いで終わらすとしよう」
「ですね」
二人で顔を合わせ、微笑む。
それが心地いい。
ある意味私には、誰にも邪魔されない静かな時間にさえ思えた。
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