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第一章

第二十話 ボクは精霊なんだリン

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 あれからくまさんとは明け方までいろんなことを話した。

 過去、唯花だった時のコト。

 そして今置かれている現状。

 くまさんにならどんなことでも話すことが出来たし、弱い自分をさらけ出せた。


「そういえば、どうして今まで話しかけてくれなかったの?」

「だってご主人サマ、ご主人サマにはついこの前まで前世の記憶がなかったリンから~」


 ああ、確かに。

 私が記憶を取り戻したのはつい最近のこと。

 記憶を取り戻す前に語り掛けられても、まったく意味不明だっただろう。

 むしろいきなりくまの人形に話しかけられたら、ある意味ホラーよね。


「ごめんね、私全然気づかなくて」

「大丈夫リンょ。ご主人サマがたとえボクのことが分からなくたって、そばにいるだけでボクは幸せだったリン。でも、これでようやくご主人サマを守れると思うと、すごく嬉しいリン」

「そうだ、守るってどういうこと?」

「ボクは精霊なんだリン。だから、加護を与えた人間を守ることが出来るリン」

「精霊? 精霊ってあの本とかに出てくる精霊さんのこと?」

「そうだリン。その精霊さんがボクなんだリン」

「すごーーーい。私初めて見たわ」

「まぁ、そうだリンね。この世界にもいるはいるけど、契約や加護をもらえる人間が少ないリン」


 確かに、精霊なんて神に近い存在。

 おいそれと加護や契約なんてしてはもらえないわよね。

 それにまず、精霊を見る能力がないとだめそうだし。

 ある意味、チートみないなものかしら。

「てへん。精霊はすごいんだリン。そしてボクはこう見えても水の精霊なんだリン。


「水の精霊さん」


「そうだリン。水を自由に操ったり、癒しを与えるコトが出来るリン。もっとも、攻撃とかは得意じゃないけど、ご主人サマがボクと契約してくれればこの世界でもっとたくさんの力が使えるようになるリン」

「力? んと、それは魔法みたいなモノが使えるってこと? でも私、魔力とかないよ」

「ん-。まったくないワケでもないんだリン。ただご主人サマが一人で使えるほどの魔力がないっていうことと、操作が出来ないってだけリン」


 ん-。一人で使えないのに、くまさんと契約したら使えるようになるってことかな。

 ああ、でも使うのは私じゃなくてくまさんてことか。

 もしかすると契約をしないと、精霊もこの世界に直接は干渉出来ないとかそんな感じなのかもしれないわね。

 今まで精霊とか魔法とか、そういうモノとは無縁で生きてきた。

 その挙句、婚約破棄された上に夜会も上手くいかなかった。

 きっとこのままなら田舎に戻されるわ。

 そうしたら時間もたっぷりあることだし、精霊について調べるのもいいわね。

 精霊使いとか大それた者にはなれなくても、一人でこの世界で生きていくためにきっと役立つと思うもの。

 ああ、でもそうね。

 もう一人じゃないんだった。


「契約っていうのは今すぐココででも出来るの?」

「もちろんだリン。いいんだリン? 本当にこんなに簡単に契約しても」

「なんでそんなコト聞くの~? 私にはくまさんが唯一の味方なのに。むしろこちからかお願いしたいぐらいよ」


 ふわふわ浮いているくまさんの手を、私は掴む。


「精霊は人と契約して初めて、力を得るリン。ボクはこの世界に来て、ご主人サマが初めての契約人なんだリン。だから……加護も力も、そんなには強くないリン。それでも契約してくれるリン?」

 リンの顔には不安が浮かぶ。

 私が初めての契約人。

 くまさんは私のコト、ずっと待っていてくれたのかな。

 それだけでも、なんがか胸が温かくなってくる。


「それでもよ。私にはくまさんしかいないから。他の誰でもない、くまさんと契約したいの。私じゃダメ、かな」

「ううん。ダメじゃないリン。ありがとう、ご主人サマ。本当にうれしいリン」

「それは私も、よ。ありがとう。ずっとずっと待っていてくれて」
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