大嫌いな双子の妹と転生したら、悪役令嬢に仕立て上げられました。

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化

文字の大きさ
上 下
19 / 89
第一章

第十六話 決戦の夜会

しおりを挟む
 
 馬車を30分ほど走らせると、王城へとたどり着いた。

 王城は白を基調とし、ゴシック建築の大聖堂のような造りに似ている。

 侯爵家も随分大きな建物だと思っていたが、城の大きさは比較対象にすらならない。

 一人では迷子になるのも簡単そうだ。

 今までも何度か来たことはあるのだが、記憶を取り戻してからは初めてなのでまた違って見える。

 馬車を降りた私に、グレンが軽く手を上げた。

 グレンの横には不服そうな表情を隠さない、チェリーがいる。

 チェリーはグレンから送られたという萌黄色のふわふわしたAラインのロングドレスを身に着けていた。

 グレンの瞳の色に合わせたドレスは、チェリーによく似合っている。

 しかし、この差はなんなの。

 自分の婚約者には落ち着いた控えめなドレスを送っているのに、私にはこんな流行の最先端か何かは知らないが、太ももの見えるドレスを着させるなんて。

 迷惑甚だしいとは、まさにコレね。


「お待たせして申し訳ありません、グレン様。少し仕度に手間取ってしまいまして」


 よそ行き用の敬語を使い、丁寧にお礼を言いながらも嫌味を混ぜる。


「いやぁ、想像以上だね」


 どういう意味で? 聞きたい気持ちをぐっと抑え込み、無理やり笑顔を作った。


「婚約者の姉にまでお気遣いいただくなんて申し訳ありません。父がとてもお礼を言いたいそうで、後から顔を出すと言っておりましたわ」

「いやいや、それは困ったな。そんなつもりはなかったんだが」

「どーしてグレンさま、姉ぇさまにまでドレスを贈られたのですか? まさかまだ、姉ぇさまのことが」

「いやいや。そういう意味じゃなかったんだが」

「じゃあ、あのドレスはどういう意味だと言うのですの」


 私にドレスを贈られたことに納得のいかないチェリーが、不服そうにグレンに詰め寄る。

 まぁ、普通そうよね。

 元婚約者にドレスを贈るなんて、頭に来るでしょう。

 でもそんなことを私に言われても、知らないわよ。

 どうせなら、私を挟まずに勝手にやって。

 この婚約破棄のせいで、私はこんな目に合っているというのに。


「私も、これ以上チェリーに嫉妬されても困りますので今後はご遠慮いたしますわ」

「ああ、確かにそうだね。今度からはちゃんとチェリーだけに贈ることにするよ」

「絶対ですよ、グレンさま。あーんまり姉ぇさまにも優しくするものだから、チェリーは嫉妬しちゃうところでしたわ」


 チェリーがグレンの腕に自分の腕を絡め、しなだれかかる。

 グレンはそれを見て満足げにほほ笑むと、チェリーの髪をなでた。

 こういったラブラブの世界は、二人だけに時にして欲しいものである。

 ああ、やだやだ。


「後ろがつかえてきましたので、中に入りましょう」

「ああ、そのようだね。行こうか、チェリー」

「はぃ、グレンさま」


◇   ◇   ◇


『グレン・マクミラン様、ブレイアム侯爵家令嬢様、入場いたします』


 私たちの入場を告げる声に、会場からの視線が注がれる。

 次期宰相候補だけあって、グレンとお近づきになりたい人間ばかりなのだろう。

 しかし、二人の後ろを歩く私にまで視線が注がれているのはどうやら気のせいではないようだ。

 男女問わずに、いろんな人と視線がぶつかる。

 中にいた貴族たちは、色とりどりのドレスを着ていた。

 動くと裾がひらひらと動き、その様はまるで熱帯魚の水槽の中のよう。

 綺麗なんだけどね。

 表面上は。でも、私はココがどれだけ醜いモノかも知っているから。

 出来れば長居なんてしたくはないんだけどなぁ。


「すまない、少し呼ばれてしまった。二人ともどこかでこのまま待っていて欲しい」

「大丈夫ですよ、グレンさま。ちゃーんと、姉ぇさまと一緒に待っていますから」


 入場してすぐに、グレンの仕事関係なのか慌てた様子で男の人に声をかけられた。

 そして少し困った顔をしたあと、グレンが会場の奥へと消えていく。

 それにしても、やっぱり夜会は居心地が悪いわね。

 今日は特に、周りからの視線が気になってしまう。

 きっと、このグレンのドレスのせいね。

 恥ずかしくてどうしたらいいのかも分からない私は、あきらめて微笑むことにした。

 無難に微笑んででさえいれば、何も言われないだろうと高を括ったのだ。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

処理中です...