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第一章
第十六話 決戦の夜会
しおりを挟む馬車を30分ほど走らせると、王城へとたどり着いた。
王城は白を基調とし、ゴシック建築の大聖堂のような造りに似ている。
侯爵家も随分大きな建物だと思っていたが、城の大きさは比較対象にすらならない。
一人では迷子になるのも簡単そうだ。
今までも何度か来たことはあるのだが、記憶を取り戻してからは初めてなのでまた違って見える。
馬車を降りた私に、グレンが軽く手を上げた。
グレンの横には不服そうな表情を隠さない、チェリーがいる。
チェリーはグレンから送られたという萌黄色のふわふわしたAラインのロングドレスを身に着けていた。
グレンの瞳の色に合わせたドレスは、チェリーによく似合っている。
しかし、この差はなんなの。
自分の婚約者には落ち着いた控えめなドレスを送っているのに、私にはこんな流行の最先端か何かは知らないが、太ももの見えるドレスを着させるなんて。
迷惑甚だしいとは、まさにコレね。
「お待たせして申し訳ありません、グレン様。少し仕度に手間取ってしまいまして」
よそ行き用の敬語を使い、丁寧にお礼を言いながらも嫌味を混ぜる。
「いやぁ、想像以上だね」
どういう意味で? 聞きたい気持ちをぐっと抑え込み、無理やり笑顔を作った。
「婚約者の姉にまでお気遣いいただくなんて申し訳ありません。父がとてもお礼を言いたいそうで、後から顔を出すと言っておりましたわ」
「いやいや、それは困ったな。そんなつもりはなかったんだが」
「どーしてグレンさま、姉ぇさまにまでドレスを贈られたのですか? まさかまだ、姉ぇさまのことが」
「いやいや。そういう意味じゃなかったんだが」
「じゃあ、あのドレスはどういう意味だと言うのですの」
私にドレスを贈られたことに納得のいかないチェリーが、不服そうにグレンに詰め寄る。
まぁ、普通そうよね。
元婚約者にドレスを贈るなんて、頭に来るでしょう。
でもそんなことを私に言われても、知らないわよ。
どうせなら、私を挟まずに勝手にやって。
この婚約破棄のせいで、私はこんな目に合っているというのに。
「私も、これ以上チェリーに嫉妬されても困りますので今後はご遠慮いたしますわ」
「ああ、確かにそうだね。今度からはちゃんとチェリーだけに贈ることにするよ」
「絶対ですよ、グレンさま。あーんまり姉ぇさまにも優しくするものだから、チェリーは嫉妬しちゃうところでしたわ」
チェリーがグレンの腕に自分の腕を絡め、しなだれかかる。
グレンはそれを見て満足げにほほ笑むと、チェリーの髪をなでた。
こういったラブラブの世界は、二人だけに時にして欲しいものである。
ああ、やだやだ。
「後ろがつかえてきましたので、中に入りましょう」
「ああ、そのようだね。行こうか、チェリー」
「はぃ、グレンさま」
◇ ◇ ◇
『グレン・マクミラン様、ブレイアム侯爵家令嬢様、入場いたします』
私たちの入場を告げる声に、会場からの視線が注がれる。
次期宰相候補だけあって、グレンとお近づきになりたい人間ばかりなのだろう。
しかし、二人の後ろを歩く私にまで視線が注がれているのはどうやら気のせいではないようだ。
男女問わずに、いろんな人と視線がぶつかる。
中にいた貴族たちは、色とりどりのドレスを着ていた。
動くと裾がひらひらと動き、その様はまるで熱帯魚の水槽の中のよう。
綺麗なんだけどね。
表面上は。でも、私はココがどれだけ醜いモノかも知っているから。
出来れば長居なんてしたくはないんだけどなぁ。
「すまない、少し呼ばれてしまった。二人ともどこかでこのまま待っていて欲しい」
「大丈夫ですよ、グレンさま。ちゃーんと、姉ぇさまと一緒に待っていますから」
入場してすぐに、グレンの仕事関係なのか慌てた様子で男の人に声をかけられた。
そして少し困った顔をしたあと、グレンが会場の奥へと消えていく。
それにしても、やっぱり夜会は居心地が悪いわね。
今日は特に、周りからの視線が気になってしまう。
きっと、このグレンのドレスのせいね。
恥ずかしくてどうしたらいいのかも分からない私は、あきらめて微笑むことにした。
無難に微笑んででさえいれば、何も言われないだろうと高を括ったのだ。
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