大嫌いな双子の妹と転生したら、悪役令嬢に仕立て上げられました。

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化

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第一章

第七話 断罪の続きのような昼食会

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 客間には、すでにグレンもチェリーも両親も集まっていた。

 どうやら私が一番最後だったらしい。

 全員の視線が一斉に突き刺さる。

 その表情は様々だ。

 私の姿に驚いた様な表情を浮かべたグレンに、チェリーが露骨に嫌な顔をする。

 母はやや厳しい表情で、父はほぼ感情は読み取れない。


「遅くなりました」


 知らされていた予定の時間より早かったはずだが、一応詫びてみる。


「お姉ぇさま、グレン様がせっかくいらしているのに遅刻だなんてぇ」

「遅刻? そう? 私が聞いていた時間とは、少し違ったみたいね」


 グレンの横の席をすでに陣取っているチェリーは、口を尖らせた。


「誰がアイリスに時間を教えたのかしら?」


 母は怪訝な顔を侍女たちへ向けた。

 ああ……やられたわ。

 わざと私の聞いた時間だけが、違っていたみたい。

 まぁ、こんな幼稚な嫌がらせをする人間など一人だけ。

 そしてここで私が真実を言えば、きっとあの侍女に迷惑がかかってしまう。

 笑みを浮かべるチェリーを見ると、おそらくこうなることも全て分かっていてやったのだろう。


「今私のところには侍女がおりませんので、勘違いしたのかもしれません」
  

 言いながら、惨めになってくる。

 ここですら誰も私の味方はいないのね。
 

「まったく困ったものね」


 母がため息をつくと、チェリーはとても満足そうだった。

 私は二人の視線を無視し、母の隣に座る。

 和やかなはずのこの雰囲気の中で、異様に居心地が悪いのはたぶん私だけなのだろう。

 私が席に着くと、見計らったかのようにお茶やそれに合わせたケーキなどのお茶菓子が運ばれてきた。

 談笑する彼らを横目に、一人黙々と食べ始める。

 婚約破棄された娘と、新たに婚約をされる娘。

 二人を同じ場で食事させるなど、普通に考えればありえない。

 これを許す意図はどこなのだろう。


「侯爵様、今日僕が面会を申し込んだ理由は、婚約のことについてなのですが」

「チェリーから一通りの話は聞いている」

「わたしからお父様にも今回の事情を説明しておいたのですよ~。グレン様のお手を煩わせてもぉ、いけないので」

「……」


 ある程度はこの状況も理解はしていたが、これでは二度目の断罪を受けている気がする。

 チェリーが確実に前世の記憶を持っていることは分かっても、なぜここまで私に固執するのだろう。

 私がなにをしてきたというの?

 こんなに断罪されなければいけないほどのことなど、なにもしてはいないのに。


「アイリスとの婚約を破棄し、チェリーとの婚約の結びなおしをお願いできますでしょうか?」

「もちろんだ。我が一族としては、娘の幸せと公爵家との縁が一番大事なのだから」


 グレンから婚約の申し込みの手紙を受け取った父は、満面の笑みだ。

 そして、その顔をちらりと私に向ける。

 相変わらず私に向ける表情は固い。

 チェリーの説明をきっと、信じて疑わないのだろうなぁ。

 胸の奥が締め付けられるのを、私はあくまで無視する。

 今更こんなことで傷つかない。傷つくはずがないわ。


「はい、ありがとうございます」

「ふふふ。嬉しい。こんなに嬉しい日はないですわ。お父様、グレン様ありがとーございます」


 涙を目にいっぱい溜めてウルウルとさせながら、チェリーは隣に座るグレンの手に自分の手を重ねる。

 予定調和というか、わざとらしい演技というか。

 私はこんなに不快な思いをしながら、何を見せられているのだろう。


「チェリー、君には正式なプロポーズはまた別の場所でさせてもらうけれど、これからは僕だけを見つめて欲しい。この婚約を受けてくれるかい?」

「まぁ、グレン様。もちろんですわ」

「おめでとう、チェリー。早速、ドレスの準備をしなければね」

「はい、お母様」

「よかったな、チェリー」

「ええ。本当に幸せですわ」

 そう言いながら、ちらちらとチェリーは視線を私に向ける。

 幸せそうな家族風景だが、会話が私の中には入っていかない。

 ただ幸せな家庭の中での疎外感は、前世ともなんの大差もなかった。

 またなのね。

 生まれ変わっても、また私の居場所はどこにもない。


「アイリス、チェリーたちから聞いた話なのだが今回この婚約破棄になった経緯は理解しているのか?」

「理解……。理解とは?」


 どうせ私の意見など聞く気もないくせに。

 ここに呼んだのだって見せしめでしかない。

 お父様この人はなにが言いたいのだろうか。

 違うな。

 お父様はなんと言わせたいのだろうか。

 今だってここに至る経緯すら分かってもいないのに。


「あなた、なにも今こんなおめでたい席で」

「だとしてもだ。貴族令嬢である以上、結婚をしなければここでは生きてはいけない。次の夜会にはキチンと出席をして、新しい婚約者を探すんだ」


 そんなこと……。でもまぁ、そうだったわね。

 この世界では、女性貴族の身分などあってないようなもの。

 そしてこの石頭とも言える父には特に、女は結婚してこその幸せという文字しかない。

 もしこのまま次の婚約者が見つからなかったら、私はどうなるのだろう。

 だけど一つだけ分かることはある。


「承知しました、お父様」


 反論は許されないということだ。

 今ここで反論したところで、なにもいいことなどない。

 身の振りを決める権限も、ココでは父にしかないのだから。

 こんなことを言わすためだけに呼んだと言うのなら、茶番でしかないわね。

 見せしめに、忠告。

 まったくひどい断罪のような昼食会ね。


「お父様、私はお邪魔のようですし、そろそろ退出してもよろしいでしょうか?」


 父は私に何か言いたげな顔をしていたが、それを読み取ることは出来ない。

 そしてもちろん、今の私には読み取るつもりもなかった。


「……そうだな」

「そうね、アイリスはまだケガも万全ではないのだから、そうしなさい」

「ありがとうございます」


 母の助け舟にほっとしながら、一礼してそそくさと息苦しい空間から逃げ出したのだった。
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