1 / 89
プロローグ
しおりを挟む
「ねぇ、どうして同じなのに違うの?」
ボロボロになったくまの人形を抱えながら、鏡にはあの子になれなかった惨めな自分の姿が写る。
「どうして同じなのに誰も助けてくれないの?」
同じになるようにした髪型も服装も、鏡に写る全てがあの子と同じだというのに。
それでも誰一人、私とあの子を同じだとは言ってはくれない。
今日という日のために、笑い方も話し方も全てマネをした。
だって、私も認めて欲しかったから。
「いつだって私の味方はあなただけね」
語りかけても答えてはくれない人形を強くだきしめた。
私とあの子。
まったく同じ顔に同じ声。
「双子なんて大嫌い。唯奈もお母さんも大嫌い!」
そう。私たちは双子だった。
それなのに、いつでも誰にでも受け入れられる可愛い妹と、何をしてもうまくいかない私。
ただ親戚たちが集まる今日だけは、私なりに頑張ったはずだった。
でも結果は……。
一階から、大人も子供もはしゃぐ声が聞こえてくる。
そして外からは大きな花火の音がした。
何にも楽しくない。
人が多いだけ、余計に一人は寂しい。
「あれぇ? ああ、こんなトコにいたのねーさん」
誰も入れないように子どもながらに布団などで作ったバリケードを崩し、唯奈が部屋に入ってきた。
「ねぇ、なぁんでみんなと一緒に遊ばないのぉ?」
知ってるくせに。
ホントに嫌い。
「唯奈には関係ないでしょ。一人にしておいて」
「え~? でもぉ、こーんな日に一人だなんてかわいそうでしょ」
「かわいそうだなんて、誰が言ったのよ」
「あはははは。だぁれも言ってないけど~」
私は涙を堪えながら、唯奈を睨みつける。
知ってる。知っていた。
わざわざ言われなくても、もうずっとずっと前から。
私のことなど、誰もかわいそうだとも、心配すらもしてないことなど。
そして唯奈もそんなことなど知っているのに。
「大嫌い」
「そう? わたしは大好きよ、ねーさん」
どういう意味の大好きなの。
自分だけがみんなに優しくされるから?
同じ顔なのに自分だけ愛されるから?
ああ、ホントに大嫌い。
いなくなりたい。ううん。どっか行ってよ。
唇を噛みしめて、叫び出したくなる気持ちを抑え込む。
「ねぇ、ソレ貸して?」
私の手から唯奈がくまの人形を取り上げた。
「やめてよ、私のくまさん。返して!」
「いいじゃない。もうクタクタのくまさんなんて」
「やめてよ。大事なの! 触らないで、私のくまさん‼」
唯奈が取り上げたくまの人形を取り返したくて、くまの足を引っ張る。
唯奈には触って欲しくなかった。
私の大事な大事なただ唯一の味方。
私にはこの子しかいないのに。
唯奈はいつもみんなに愛してもらってるじゃない。
なのに、なんで私のものに手を出すの?
「やめてよ。返して。くまさんを離してよ」
「ちょっとぐらい貸してくれたっていいでしょ」
「嫌よ、私のくまさん」
「なに喧嘩してるの!」
私たちの大きな声に気づいたのか、母が二階の子供部屋まで上がってくる。
そして一つの人形を取り合う私たちを見つけた。
「おかぁさん、ねーさんがお人形さん貸してくれないのぉ」
人形をぱっと離し、泣きマネをしながら唯奈が母の足元にしがみつく。
今まで泣いてなんてなかったのに。
「お姉ちゃんなのに、なんで人形ぐらい貸してあげないの!」
鬼のような形相で母は私の手から人形を取り上げた。
「私のくまさん! 返して。嫌だぁぁぁぁぁ」
こんなにはっきりと母に自分の主張をしたことなどあったかだろうか。
でもどうしても、渡したくない。
母が取り上げた人形を抱え、母の後ろで意地悪そうに微笑む唯奈と目が合う。
いやだいやだいやだいやだ。
私は仁王立ちする母の横をすり抜け、そのまま唯奈に掴みかかった。
「やだ、ねーさん離してよ」
「じゃあ、くまさんを返して。私のくまさん! 返して、返して、返して!」
「いい加減にしなさい」
母は私を力一杯唯奈から引き離す。
ドンっという鈍い音がした。
背中に鈍い痛みが走る。
母の力で私は壁にまで大きく吹き飛ばされたのだ。
痛くて悲しくて、涙でぐにゃりと世界が歪む。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
私は悪くないのに。悪いことなんてしてないのに。
どうして。どうして。
どうして母さんはいつだって唯奈の味方で、どうして私を愛してくれないの?
痛みから大きく泣き叫ぶ私に、母が顔をしかめた。
唯奈ですら、その場で固まって動きはしない。
「どうして唯奈はこんなにいい子なのに、あんたは聞きわけがないの!」
私が悪い子なの?
言うことを聞かないから?
私のことなんて見てもくれないくせに。
「うわぁぁぁぁんっ」
「あんたは今日はご飯抜きよ。そのままそこで泣いてなさい」
母はそう言いながら、唯奈の手から人形を取ると私に放り投げた。
そして唯奈の手を引き、下へと降りていく。
「くまさん、私のくまさん……くまさん、くまさん。うぇぇぇん。痛いよぅ……痛いよぅ」
私の涙が、くまの頬を伝う。
まるで一緒に泣いてくれているような、そんな気がした。
くまさんだけがこの世界で唯一の私の味方。
この子さえいれば、私は大丈夫。
そう自分に言い聞かせる。
そしてぼろぼろとこぼれ落ちていく涙を隠すように、私は強く抱きしめた。
ボロボロになったくまの人形を抱えながら、鏡にはあの子になれなかった惨めな自分の姿が写る。
「どうして同じなのに誰も助けてくれないの?」
同じになるようにした髪型も服装も、鏡に写る全てがあの子と同じだというのに。
それでも誰一人、私とあの子を同じだとは言ってはくれない。
今日という日のために、笑い方も話し方も全てマネをした。
だって、私も認めて欲しかったから。
「いつだって私の味方はあなただけね」
語りかけても答えてはくれない人形を強くだきしめた。
私とあの子。
まったく同じ顔に同じ声。
「双子なんて大嫌い。唯奈もお母さんも大嫌い!」
そう。私たちは双子だった。
それなのに、いつでも誰にでも受け入れられる可愛い妹と、何をしてもうまくいかない私。
ただ親戚たちが集まる今日だけは、私なりに頑張ったはずだった。
でも結果は……。
一階から、大人も子供もはしゃぐ声が聞こえてくる。
そして外からは大きな花火の音がした。
何にも楽しくない。
人が多いだけ、余計に一人は寂しい。
「あれぇ? ああ、こんなトコにいたのねーさん」
誰も入れないように子どもながらに布団などで作ったバリケードを崩し、唯奈が部屋に入ってきた。
「ねぇ、なぁんでみんなと一緒に遊ばないのぉ?」
知ってるくせに。
ホントに嫌い。
「唯奈には関係ないでしょ。一人にしておいて」
「え~? でもぉ、こーんな日に一人だなんてかわいそうでしょ」
「かわいそうだなんて、誰が言ったのよ」
「あはははは。だぁれも言ってないけど~」
私は涙を堪えながら、唯奈を睨みつける。
知ってる。知っていた。
わざわざ言われなくても、もうずっとずっと前から。
私のことなど、誰もかわいそうだとも、心配すらもしてないことなど。
そして唯奈もそんなことなど知っているのに。
「大嫌い」
「そう? わたしは大好きよ、ねーさん」
どういう意味の大好きなの。
自分だけがみんなに優しくされるから?
同じ顔なのに自分だけ愛されるから?
ああ、ホントに大嫌い。
いなくなりたい。ううん。どっか行ってよ。
唇を噛みしめて、叫び出したくなる気持ちを抑え込む。
「ねぇ、ソレ貸して?」
私の手から唯奈がくまの人形を取り上げた。
「やめてよ、私のくまさん。返して!」
「いいじゃない。もうクタクタのくまさんなんて」
「やめてよ。大事なの! 触らないで、私のくまさん‼」
唯奈が取り上げたくまの人形を取り返したくて、くまの足を引っ張る。
唯奈には触って欲しくなかった。
私の大事な大事なただ唯一の味方。
私にはこの子しかいないのに。
唯奈はいつもみんなに愛してもらってるじゃない。
なのに、なんで私のものに手を出すの?
「やめてよ。返して。くまさんを離してよ」
「ちょっとぐらい貸してくれたっていいでしょ」
「嫌よ、私のくまさん」
「なに喧嘩してるの!」
私たちの大きな声に気づいたのか、母が二階の子供部屋まで上がってくる。
そして一つの人形を取り合う私たちを見つけた。
「おかぁさん、ねーさんがお人形さん貸してくれないのぉ」
人形をぱっと離し、泣きマネをしながら唯奈が母の足元にしがみつく。
今まで泣いてなんてなかったのに。
「お姉ちゃんなのに、なんで人形ぐらい貸してあげないの!」
鬼のような形相で母は私の手から人形を取り上げた。
「私のくまさん! 返して。嫌だぁぁぁぁぁ」
こんなにはっきりと母に自分の主張をしたことなどあったかだろうか。
でもどうしても、渡したくない。
母が取り上げた人形を抱え、母の後ろで意地悪そうに微笑む唯奈と目が合う。
いやだいやだいやだいやだ。
私は仁王立ちする母の横をすり抜け、そのまま唯奈に掴みかかった。
「やだ、ねーさん離してよ」
「じゃあ、くまさんを返して。私のくまさん! 返して、返して、返して!」
「いい加減にしなさい」
母は私を力一杯唯奈から引き離す。
ドンっという鈍い音がした。
背中に鈍い痛みが走る。
母の力で私は壁にまで大きく吹き飛ばされたのだ。
痛くて悲しくて、涙でぐにゃりと世界が歪む。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
私は悪くないのに。悪いことなんてしてないのに。
どうして。どうして。
どうして母さんはいつだって唯奈の味方で、どうして私を愛してくれないの?
痛みから大きく泣き叫ぶ私に、母が顔をしかめた。
唯奈ですら、その場で固まって動きはしない。
「どうして唯奈はこんなにいい子なのに、あんたは聞きわけがないの!」
私が悪い子なの?
言うことを聞かないから?
私のことなんて見てもくれないくせに。
「うわぁぁぁぁんっ」
「あんたは今日はご飯抜きよ。そのままそこで泣いてなさい」
母はそう言いながら、唯奈の手から人形を取ると私に放り投げた。
そして唯奈の手を引き、下へと降りていく。
「くまさん、私のくまさん……くまさん、くまさん。うぇぇぇん。痛いよぅ……痛いよぅ」
私の涙が、くまの頬を伝う。
まるで一緒に泣いてくれているような、そんな気がした。
くまさんだけがこの世界で唯一の私の味方。
この子さえいれば、私は大丈夫。
そう自分に言い聞かせる。
そしてぼろぼろとこぼれ落ちていく涙を隠すように、私は強く抱きしめた。
0
お気に入りに追加
873
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる