捕らえた捕虜に屈辱をあたえるつもりがどうしてこうなった！？～チンペチが取り持つ数奇な縁～

2

　

「……何なんだ！？　くそっ！！　あいつ、何考えてやがんだ！！」

　独房を走り去った後、自室に戻り、勢いよくベッドへとダイブした男――――レントンは、動揺のままに枕をボスボスと殴った。



　昨日レントンの部隊は、赤い稲妻の異名を持つ敵国の軍人とその部下を捕らえたのだが、捕らえる際にその部下が、赤い稲妻を庇って怪我を負った。
　袈裟懸けに背中をザックリと斬られ、放っておけばそのまま死ぬだろうことは間違いない怪我だ。
　まあ、本来であれば死に掛けの敵国の兵など捕虜といえども放っておくのだが、生かしておけば赤い稲妻を尋問する際の役に立つ。
　それに、命を呈してまで上官を守ろうとしたその男の心意気には、少なからず心揺さぶられるもがある。
　そんなわけで、指揮官であったレントンはその男の治療を命じたのだった。

　しかし、そんな事情を知らない赤い稲妻は、その異名の由来である燃えるような赤毛を振り乱して、部下の男の治療を願ってきた。
　目に悔し涙を浮かべ、縛られた体で自ら額を床に擦り付け部下の命乞いをする。
　そんな赤い稲妻の姿は、憎い敵国の人間ではあるものの、同じ上官としてレントンの心の琴線に触れるものがあった。

　だが、さすがにそのまま願いを聞くわけにもいかない。
　赤い稲妻は、これまで何人もの同士達を戦場で屠ってきたのだ。
　なにより、部隊の指揮官としての立場がある。
　そんなわけで、その場でレントンが出した条件というのが、“一晩屈辱に耐えるのならば”というものだった。

　とはいえ、貴族階級出身のレントンは、実を言うと荒事に向いていない。
　伯爵家の三男という出自から、部隊の指揮官になったようなものだ。
　ただ、昔からチェスが好きで戦略を練るのが得意なため、その特技を生かして軍に入ったのだった。
　だから部隊のブレーンとして指揮官の務めは果たしてはいるものの、やはりどうしても迫力に欠ける。
　まあ、強面ガチムチの副指揮官が睨みを利かせているため、部隊としては統率がとれているのだが。

　なので、最初はオーソドックスに鞭打ちにでも、なんて考えていたレントンだったが、何故か一緒に独房に行くはずだった副指揮官がついてこようとしない。
　あれ？と思って聞くと、ニヤリと笑って「やりますね」などと言う。
　なんのこっちゃと思って戸惑っていると、何とも楽しそうに笑って「まあ、お楽しみになったらいいですよ」と言われて、漸くレントンも副指揮官の言わんとしていることを察したのだった。