ロゼと嘘

碧 貴子

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「君は、誰もが自分と同じように清廉潔白だと思うのはよした方がいい」
「そ、そんなこと……」
「だからこそ、そんな君がもどかしくもあり、同時にずっとそのまま、純粋なままの君でいて欲しいとも思う。……まあ、当時はもどかしい思いが強かったんだが。今にして思えば、君の隣で君を守る役割が何故自分じゃないのか、それが一番もどかしかったんだろうな」

 苦笑するロルフ卿に、目を丸くする。
 こんなのまるで、愛の告白ではないか。
 すると私の考えを読み取ったかのように、ロルフ卿がすかさず言葉を繋いだ。

「そうだ。ずっと君が好きだったんだ。だからロゼ、あの時の君の言葉が嘘だったのかどうかなんてどうでもいい。俺が君を好きで、君を抱きたいと思ったから抱いた、それだけだ」
「……っ」
「ロゼ、君が好きだ。愛してる」

 至近距離で覗き込まれ、愛を告げられて、途端に何も考えられなくなる。
 目の前の青い瞳は、真剣そのものだ。
 海のように深いその瞳に捕えられて、息もできない。
 ただひたすらに深く青いその色を見詰めていると、さらに顔が近づけられて、こいねがうようにロルフ卿が囁きを漏らした。

「嫌か?」

 鼻先が触れ、吐息が唇をくすぐる。

「嫌なら嫌だと言ってくれ――」

 次の瞬間、唇を塞がれて、私は答える術を失った。
 重ねられた唇の感触に、頭の奥が痺れて体から力が抜ける。
 無意識で振り上げた手は、抵抗する力もなくただロルフ卿に絡め取られた。

 嫌かと聞くくせに、答えさせる気はないのだ。
 そしてもちろん、嫌であるはずもなく。
 心の内を探るように、確かめるように、触れ合わされた唇が柔らかく擦られて、食まれる。
 抱き寄せられ、喘ぐように息を吸うと、開いたその隙間から熱い舌が差し込まれて、震えるほどの愉悦に私は完全にロルフ卿の手の中に堕ちた。

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