26 / 65
10-3
しおりを挟む
今日私は、お父様から絶縁を言い渡されるものとして臨んだのだ。
もしくは絶縁とまではいかずとも、領地の奥にある寒村の修道院で、世捨て人として一生を過ごせと言われるものとばかり思っていた。
なのに、失態を咎められないばかりでなく、まさかロルフ卿との結婚を勧められるとは。
天地がひっくり返ったような気分とは、このことを言うのだろう。
それに。
あのロルフ卿が、お父様に許しを求めて毎日我が家を訪れていたなんて。
ロルフ卿こそ、うちのお父様を毛嫌いしていたはずだ。
そもそもずっとロルフ卿には嫌われているとばかり思っていたのに、嫌われてはいなかったというだけでも驚きなのに、私のために世間体も顧みず、自らを犠牲にしてまで責任を取ろうとしてくれるとは、誰が想像できただろう。
横にした体を丸くすれば、ロルフ卿との馬車の中で交わした遣り取りを思い出す。
私を覗き込む、柔らかに深く、甘い瞳を思い出して、私の胸が、心臓を優しく掴まれたかのように切ない疼きを訴えた。
やおら体を起こし、音を立てずに隣室にあるクローゼットへと向かう。
広いクローゼットの一番奥、目立たぬよう服と服との間に紛れ込ませて掛けられた、ロルフ卿の瞳と同じ色のマントを取り出して、私はそっとそれを身に着けた。
いつぞやと同じように、身を包むようにして羽織れば、ふわりと潮風を纏った木の匂いがする。
顔を埋めて深く息を吸い込めば、少し煙たいような、野性味を感じさせる匂いの奥に、ほのかに甘い蜜の香りが。
途端、香りの記憶から、汗を掻いて私を見下ろすロルフ卿の姿を思い出して、堪らず私はその場にうずくまった。
薬を飲んでお互いに正気でなかったとはいえ、あの日のことは思い出すだけで赤面してしまう。
痴態を晒したことはもちろんながら、私を乱れさせるロルフ卿の記憶に、思わず呻き声が出てしまう。
優しく、かつ激しい愛撫に、息もできないような口付け。
何より、まるで愛しい恋人を見るかのようなあの眼差しを思い起こして、身の内に震えが起きる。
耳元に、私の名前を呼ぶ低く掠れた声が蘇り、私の胸が締め付けられたように苦しくなった。
私は、ロルフ卿のことは好きではないはずだ。
もちろんそれは、ロルフ卿も。
なのに今はロルフ卿のことを考えると、鼓動が早くなって胸が苦しくなる。
会いたいという思いと、会うのが怖いという思いがせめぎ合って、自分が何を望んでいるのかわからなくなる。
もしくは絶縁とまではいかずとも、領地の奥にある寒村の修道院で、世捨て人として一生を過ごせと言われるものとばかり思っていた。
なのに、失態を咎められないばかりでなく、まさかロルフ卿との結婚を勧められるとは。
天地がひっくり返ったような気分とは、このことを言うのだろう。
それに。
あのロルフ卿が、お父様に許しを求めて毎日我が家を訪れていたなんて。
ロルフ卿こそ、うちのお父様を毛嫌いしていたはずだ。
そもそもずっとロルフ卿には嫌われているとばかり思っていたのに、嫌われてはいなかったというだけでも驚きなのに、私のために世間体も顧みず、自らを犠牲にしてまで責任を取ろうとしてくれるとは、誰が想像できただろう。
横にした体を丸くすれば、ロルフ卿との馬車の中で交わした遣り取りを思い出す。
私を覗き込む、柔らかに深く、甘い瞳を思い出して、私の胸が、心臓を優しく掴まれたかのように切ない疼きを訴えた。
やおら体を起こし、音を立てずに隣室にあるクローゼットへと向かう。
広いクローゼットの一番奥、目立たぬよう服と服との間に紛れ込ませて掛けられた、ロルフ卿の瞳と同じ色のマントを取り出して、私はそっとそれを身に着けた。
いつぞやと同じように、身を包むようにして羽織れば、ふわりと潮風を纏った木の匂いがする。
顔を埋めて深く息を吸い込めば、少し煙たいような、野性味を感じさせる匂いの奥に、ほのかに甘い蜜の香りが。
途端、香りの記憶から、汗を掻いて私を見下ろすロルフ卿の姿を思い出して、堪らず私はその場にうずくまった。
薬を飲んでお互いに正気でなかったとはいえ、あの日のことは思い出すだけで赤面してしまう。
痴態を晒したことはもちろんながら、私を乱れさせるロルフ卿の記憶に、思わず呻き声が出てしまう。
優しく、かつ激しい愛撫に、息もできないような口付け。
何より、まるで愛しい恋人を見るかのようなあの眼差しを思い起こして、身の内に震えが起きる。
耳元に、私の名前を呼ぶ低く掠れた声が蘇り、私の胸が締め付けられたように苦しくなった。
私は、ロルフ卿のことは好きではないはずだ。
もちろんそれは、ロルフ卿も。
なのに今はロルフ卿のことを考えると、鼓動が早くなって胸が苦しくなる。
会いたいという思いと、会うのが怖いという思いがせめぎ合って、自分が何を望んでいるのかわからなくなる。
2
お気に入りに追加
512
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。
白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。
前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる
KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。
城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。
絶倫彼は私を離さない~あぁ、私は貴方の虜で快楽に堕ちる~
一ノ瀬 彩音
恋愛
私の彼氏は絶倫で、毎日愛されていく私は、すっかり彼の虜になってしまうのですが
そんな彼が大好きなのです。
今日も可愛がられている私は、意地悪な彼氏に愛され続けていき、
次第に染め上げられてしまうのですが……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
皇妃は寵愛を求めるのを止めて離宮に引き篭ることにしました。
鍋
恋愛
ネルネ皇国の后妃ケイトは、陰謀渦巻く後宮で毒を盛られ生死の境を彷徨った。
そこで思い出した前世の記憶。
進んだ文明の中で自ら働き、 一人暮らししていた前世の自分。
そこには確かに自由があった。
後宮には何人もの側室が暮らし、日々皇帝の寵愛を得ようと水面下で醜い争いを繰り広げていた。
皇帝の寵愛を一身に受けるために。
ケイトはそんな日々にも心を痛めることなく、ただ皇帝陛下を信じて生きてきた。
しかし、前世の記憶を思い出したケイトには耐えられない。命を狙われる生活も、夫が他の女性と閨を共にするのを笑顔で容認する事も。
危険のあるこんな場所で子供を産むのも不安。
療養のため離宮に引き篭るが、皇帝陛下は戻ってきて欲しいようで……?
設定はゆるゆるなので、見逃してください。
※ヒロインやヒーローのキャラがイライラする方はバックでお願いします。
※溺愛目指します
※R18は保険です
※本編18話で完結
騎士団長の欲望に今日も犯される
シェルビビ
恋愛
ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。
就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。
ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。
しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。
無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。
文章を付け足しています。すいません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる