ロゼと嘘

碧 貴子

文字の大きさ
上 下
14 / 65

7-1

しおりを挟む


「ふ……」

 唇が触れた瞬間、全身に甘い痺れが駆け抜ける。
 背筋が痺れて、体から力が抜け落ちる。

 ただ唇が重ねられているだけだというのに、口付けとはこんなにも甘美なものなのか。
 抱き止められ、引き寄せられて、こんな状況にもかかわらず、何故かひどく安心する感覚を味わう。

「んんっ」

 けれどもそれも一瞬で、吐息と共に口内に入り込んできたものの感触で、身の内の蛇が暴れ出すのがわかった。
 口の中を掻き回されるたび、頭の中も掻き回されているかのようだ。
 体の痺れはそのままに、下腹に溜まった熱がドロドロと欲望を溶かして渦を巻いていく。
 堪らず喘ぎを漏らして体を密着させると、ふわりと体が宙に浮くのがわかった。

「あ……」

 抱き上げられて、束の間唇が離れる。
 離れた唇の柔らかさが名残惜しくて、縋るように見上げると、眉間のしわを深くしたロルフ卿が無言で部屋を横切り始めた。
 部屋の奥にある扉を蹴破るようにして開け、続きの間へと向かう。
 使われることを想定していないその部屋は、灯もなく薄暗い。
 ひっそりと置かれた寝台に下ろされて、私はぼんやりと上着を脱ぐロルフ卿を見守った。

 あり得ない状況だというのに、驚くほどすんなりと現状を受け入れている自分がいる。
 逆にあり得なさ過ぎて、現実味がないからだろうか。
 はだけたシャツとズボンといういでたちになって、ロルフ卿が今度は私の服を脱がせにかかる。
 徐々に露わになっていく肌に、しかし羞恥は全く湧いてこない。
 頭の中の靄は濃く、ひたすら体が疼いて熱い。
 服を脱がす指が肌をかすめる度、びくびくと体が反応してしまう。
 あられもない声が出てしまいそうで、口元を手で覆って堪えるのでいっぱいいっぱいだ。

 コルセットを解かれ、シュミーズを下ろされて、一糸まとわぬ裸体が晒される。
 汗で湿った素肌が外気に触れる感覚で、ほ、と息を吐くのと、ロルフ卿が私の上に覆いかぶさるのは同時だった。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

さっさと離婚に応じてください

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,636pt お気に入り:1,034

推しと契約婚約したら、とっても幸せになりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:610pt お気に入り:153

【完結】悪役令嬢が幸せになる話

恋愛 / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:930

聖女だって恋がしたいっ!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:28

Mな体が抑えられなくて行きずりのHをしてしまいました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:155

【R18・完結】私、旦那様の心の声が聞こえます。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:1,224

こわれたこころ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:972pt お気に入り:4,901

私の記憶では飲み会に参加していたハズだった(エロのみ)

恋愛 / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:109

【R18】ハッピーエンドが欲しいだけ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:33

処理中です...