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27.異世界の騎士とその妻は風呂上がりのアイスをご所望です
しおりを挟む「……はー……、いい湯だったー……」
髪先から雫の垂れる頭を拭きながら、ペタペタと歩いてリビングへと向かう。
今は冬であるが、魔法で空調が完全に管理されたこの部屋はとても暖かい。
ちなみに、日本人の岬が家の中では靴を脱いで寛げるようにと作られたこの家は、全ての床が床暖房である。
風呂上がりの素足に、まだ新しい木肌の床が心地よい。
何より、岬が湯冷めをしないようにと、ラインハルトが事前に暖めてくれていたのだ。
岬がこちらの世界に来て、既に一カ月が経つ。
最初は、文化どころか世界すら違うこちらで、上手くやっていけるかどうか内心心配していた岬だったが、意外にもこちらの世界はとても過ごしやすい。
電気もガスもない世界で、どうやって日常を過ごせばいいのか心配していたわけであるが、代わりに魔法があるこちらでは様々な魔道具が開発されていて、とにかくそれがとても便利なのだ。
というか、むしろこちらの方があちらよりも余程生活しやすい。
掃除は、ラインハルトが部屋に浄化魔法を掛ければ一瞬で終わるし、洗濯だって魔道具の洗濯機が洗濯から乾燥までやってくれる。
干す手間がいらないだけでなく、あちらの乾燥機と違って魔法で乾かしているため、服は皺にはならないし、タオルだってフカフカだ。
お風呂だって、魔力を込めた魔石を置くだけでお湯が出るし、シャワーも使い放題だ。
それに、それら道具の動力である魔石は、ラインハルトが魔力を補充するため、光熱費だってかからない。
とにかく、快適なのだ。
ただ不満があるとすれば、家事にほとんど手間がかからないため、ラインハルトが仕事に行っている日中暇だということくらいか。
おかげで、空いたその時間に料理の仕込みをするため、毎日が非常に豪華な食卓となっている。
しかしそれも、近い内にこちらの事情や貴族のマナーなどを教えてくれる家庭教師がやってくる手筈になっているため、きっと忙しくなるだろう。
すっかり忘れがちであるがラインハルトは貴族であり、スティフタフ子爵家の本宅と領地を、これからは妻となった岬が管理しなければならないからだ。
となると、学ばなければならないことは非常に多い。
だがそれも、岬にとっては楽しみである。
新しいことを学んだり挑戦するのは楽しいし、何よりそれら全ては自分達の為なのだからなおさらだ。
以前は会社という組織の、いつでも交換可能な歯車として朝から晩まで身を粉にして働いていたことを思えば、余程やりがいがある。
「ライ―。お風呂空いたわよー……て、あれ?」
リビングのドアを開けて声を掛けるも、いつもだったらそこに居るはずのラインハルトが居ない。
タオルを首にかけたまま訝し気に岬が辺りを見回すと、反対側のドアが開いて見慣れた金の髪が現れた。
「ミサキ、風呂を出たのか?」
「ええ、今出たところよ。…………て、ライ。その、手に持ってるのはもしかして……」
「そうだ! ミサキに食べさせたくて作ったんだ!」
眩しい笑顔と共に差し出されたそれは――。
「アイス! しかも三種類も……!」
「ああ! ミサキが好きなチョコレートに苺、それからバニラだ!」
いつもだったら一緒に入ると言い張って聞かないラインハルトが、今日に限ってあっさり岬を一人で風呂に行かせたのはこの為だったのか。
岬としてはたまに一緒に入る分には良いのだが、毎日となると落ち着いて風呂を楽しめないため、いつもはラインハルトを説得するのが一苦労なのだ。
とはいえ、最終的にはいつも一緒に入ることになるのだが。
「凄い! でも、よく作れたわね? 大変だったんじゃない?」
「や、そんなことないぞ? 材料はこちらでも簡単に手に入る物ばかりだし、冷却魔法で冷やし固めればすぐだしな! むしろ向こうで作るよりも簡単なくらいだ!」
ニコニコと笑って差し出されたガラスの器を受け取れば、ひんやりと冷たい。
促されるままにソファーに腰掛けた岬は、ワクワクしながら程よく固まったクリーム色のそれを匙ですくった。
「――美味しい!」
一口口に含めば、滑らかに舌の上で溶けて、バニラの香りと甘いミルクの味が口いっぱいに広がる。
何より風呂上がりの火照った体には、この冷たさがありがたい。
「はー……幸せー……」
また、冬に部屋を暖かくして食べるというのが、何ともいえない。
温かく快適な部屋に、ゆったりとしたソファー、そしてそこに大好物のアイス。
何より隣には、ラインハルトが。
風呂上がりの心地よい脱力感もあって、へにゃりと笑みがこぼれる。
すると岬の呟きに、ラインハルトがその顔を更に嬉しそうに崩した。
「ミサキの幸せは安いものだな!」
「やー、安くはないでしょ。冬に温かい部屋でアイスを食べるなんて、とっても贅沢じゃない。それにこのアイスだって、凄く手間がかかってるわけだし」
「そうか? ミサキに喜んでもらえると思えば、こんなのお安い御用だぞ?」
どの家庭にも魔道具があるわけではない。
魔道具は非常に高価なのだ。
この家がこんなに快適なのは、ひとえに岬がこちらに来て不自由しないようにと、ラインハルトが大金をはたいて色々用意してくれたからこそだ。
第一、こちらの一般家庭でアイスを食べることなど不可能だ。
「ライ……ありがとね?」
食べ終わった器を目の前のテーブルに置いてから、隣のラインハルトに抱きつく。
抱きしめ返されて、岬は甘えるようにその胸に顔を埋めた。
「……ライの匂いがする……」
「……っ! す、すまない! 今日は昼間に汗を掻いたから、臭いかもしれない……」
「臭くないよ? 私、ライの匂い好き」
慌てて離れようとするラインハルトに、抱きしめる腕に力を込める。
確かに汗の香りがするが、ラインハルトのそれは、不思議と心地よい。
抱きついたまま、深く匂いを吸い込むように息を吸う。
すると、抱きしめるラインハルトの腕に力が込められて、更にその香りが強くなった。
「……ミサキは……ずるい……」
「へ?」
「……不用意にそんなことを言って……いつもそうやって私を翻弄する……!」
言いながら、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。
翻弄するつもりで言ったわけではないが、まあなかなかに恥ずかしいことを言った自覚がある岬は、しばらくされるがままに抱き締められることにした。
「……こんなにも可愛くて魅力的なくせに無防備で、私は毎日心配で心配でしょうがない……!」
「やー……、そんな風に思ってるの、ライだけ――」
「またそんなことを言って! この村の男共をあんなに魅了しておいて、まだそんなことを言うのか……!?」
一転して、体を離したラインハルトに睨みつけられて、岬は疲れたようにため息を吐いた。
「魅了、て……また大げさな……」
「大げさじゃない! ミサキはもっと自分の魅力を自覚すべきだ!」
こちらの国では、岬のような黒目黒髪は余り居ないのだという。
加えて日本人特有のこの肌と顔付きが、村の人間には物珍しく映るらしいのだ。
とはいえ、それで嫌がらせを受けるような事はないのだが。
むしろこちらでは、邂逅の森からやってきた人間は神のお導きでこちらに来ているのだと信じられているため、それはそれは丁重にもてなされる。
そのため岬も村では森に選ばれた神の賓客として、下にも置かない扱いを受けていた。
「……ライは、心配し過ぎ――」
「いいや! 第一、向こうでだってミサキは凄くモテていたじゃないか!」
じっとりと睨みつけられて、再び岬はため息を吐いた。
モテていたとか、一体何をどう判断したらそうなるのか。
「どこが? 誰が誰にモテてたって言うのよ」
全く言い掛かりもいいところである。
しかし岬のその言葉に、今度はラインハルトが深いため息を吐いた。
「……あの女も報われないな……」
「はあ? 女って、まさか篠山のこと?」
「そうだ。……まさか、気付いてないわけじゃないだろう?」
言われて、岬はぱちくりと目を瞬かせた。
「ええっ!? 違う違う!! 篠山はそんなんじゃないよ!!」
「……違うというのなら、なんなのだ。ただ慕っているというだけにしては、あの執着は尋常ではなかったぞ?」
ラインハルトの顔が、苦虫を噛み潰したようになっている。
どうやら愛良のことは、思い出したくもないことなのだろう。
とはいえ散々絡まれて、未遂とはいえ岬との結婚を邪魔されたのだから、ラインハルトとしてはいい感情がないのは当然である。
その辺りの経緯も今では聞いて知っている岬は、すっかり渋い顔になったラインハルトに苦笑を漏らした。
「まあ、ただの先輩後輩というには行き過ぎた感じはあったわね」
「そうだろう?」
「でもあれは、ライが思ってるようなのじゃないのよ」
そう言って、岬は少し遠くを見るように瞳を細めた。
「……私が、両親を事故で亡くしてるのは知ってるわよね?」
「ああ……」
「実は篠山も、家族を事故で亡くしてるのよ」
二人姉妹の愛良には、七つ上の姉が居たのだという。
年が離れていたこともあって、愛良とその姉はとても仲が良かったのだそうだ。
しかし愛良が高校生の時、恋人が運転するバイクに乗っていた姉は事故に遭い、そのまま恋人と一緒に帰らぬ人となったのだ。
「結婚式の直前だったそうよ」
「……」
「……多分だけど、そのお姉さんを私に重ねていたんじゃないかしら。……まあ、ハッキリと言われたわけではないけどね」
姉を恋人に取られてしまったのだと、寂し気に笑って話していた愛良の姿が瞼に蘇る。
同性に誤解をされやすい愛良にとって、きっとその姉が一番の理解者だったのだろう。
「だから、篠山には追体験させるようなことになってしまって、申し訳なかったなって」
「……そうか……」
「……でも、仕方がないわよね。だって、それでも私は篠山よりライが大事なんだから」
「ミサキ……」
眉を下げて見詰めてくるラインハルトの顔を覗き込んで、岬はにっこりと微笑んだ。
確かに、正直愛良のことは心残りではある。
だが、どんなに冷たいと言われても、岬は彼女の姉ではないし、愛良かラインハルトかと言われたらラインハルトを取る。
たとえ何があったとしてもラインハルトを選ぶのだから、岬が愛良に出来ることはあれ以上はなかっただろう。
後は、愛良自身が乗り越えなければならないことだ。
何より岬が、そうやって両親の死を乗り越えてきたのだから。
「……ライ、好きよ? ずっと……ずっと一緒にいてね」
「もちろんだ! ずっとずっと、死ぬまで一緒にいる!」
感極まったように抱き締められて、岬も腕をラインハルトの背中に回す。
途端、嗅ぎ慣れた香りと温もりに包まれて、岬は安心してその身を預けた。
「絶対よ……?」
「ああ! 私はミサキより絶対先には死なないから安心してくれ!」
「ふふっ、なにそれ」
確信を持って言い切るラインハルトに、思わず笑みがこぼれる。
その言い方は、やけに自信満々だ。
ラインハルトの腕の中でクスクスと笑みを漏らしていると、一旦体を離したラインハルトが、優しく微笑んで岬を覗き込んできた。
「ミサキと約束したからな」
「約束……?」
「そうだ。結婚するからには、ミサキより先には死なないと約束をした」
「ライ……」
「それに魂の共鳴者は、その人生を終える時まで一緒なのだそうだ。……だから、私達はずっと一緒だ。それこそ、“死が二人を分かつまで”、な」
あちらの世界で使われる誓いのフレーズと話の内容に、一瞬面食らって目を見開く。
柔らかく微笑むラインハルトをまじまじと見つめて、それから岬はジワジワと胸が温かく、喜びに満たされていくのがわかった。
こちらに来て、既に結婚式は済ませている。
それこそ盛大に式を挙げたのだ。
けれども。
「じゃあライ……、――病める時も健やかなる時も――」
いたずらっぽく微笑んで見上げれば、ラインハルトもまた微笑んで見返してくる。
言わんとすることをすかさず理解したラインハルトが、岬の手を取って言葉を引き継いだ。
「富める時も貧しき時も――」
「「死が二人を分かつまで、互いに愛し、慈しむことを誓います」」
そっと唇を重ねれば、ふわりと甘い香りと味がする。
幸せの味だ。
それが何かわかった二人は、顔を見合わせて笑ったのだった。
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アイスを食べようとするだけで召喚ってꉂꉂ(ᵔᗜᵔ*)面白いꉂꉂ(ᵔᗜᵔ*)
ありがとうございます!
アイスは某海外アイスクリーム(ラクトアイスではなくアイスクリーム♪)のイメージです♪(n*´ω`*n)
完結おめでとうございます!
執筆ご苦労様でした~(* ̄∇ ̄)ノ
ヒロインが異世界転移するストーリーが多い中、ヒーローが現代社会に異世界転移して、男前な嫁(ヒロインw)を持ちかえ……ゲット……連れ帰るパターンは早々無いので斬新でした~( ̄▽ ̄)b
しかも年の差カップルで、オマケに姉さん女房とか激圧な設定でニマニマしながら読んでました~(  ̄▽ ̄)
今回も素敵な物語をありがとうございますwww
岬さんのコトだからOL時代のスキルを生かして子爵夫人として男前(ぇ)に活躍してそうですね(≧▽≦)
あ、またもや別件ですが、2作目の御本を手に入れました~\(^o^)/
ロイドくん可愛い!(≧▽≦)
某所の番外編はまさに理科実験室の標本だらけ………ヽ(;゚;Д;゚;; )ギャァァァ
ありがとうございます!
完結まで凄く時間がかかってしまったお話ですが、最後までお読みいただけて、凄く凄く嬉しいです……!
最初にパッとイメージで、アイスを物欲しそうに見てる異世界の騎士……という映像が浮かんで、それから書き始めたお話でして、題名を付けた時に最後のアイスのところで締めると決めたのですが、途中で書けなくなってしまってwww
なので本当、最後まで楽しんで読んで頂けて本当に嬉しく、ありがたいです。
岬はきっと、ラインハルトの世界でも逞しく生きていってくれることかと!
互いに振り回され振り回しつつ、あの調子でいくんだと思いますw(n*´ω`*n)
そして、別件もありがとうございます!
そうなんです、イラスト、ロイドがもう本当にまじ天使なのです!!ヽ(≧▽≦)ノ
こちらも楽しんで頂けて嬉しいです!!
番外もありがとうございます!
いつも応援ありがとうございます!
心より感謝しております。
ラブホですね(* ̄∇ ̄)ノ
ライ君を押し倒す岬さんwww(///∇///)
………んでもって結局は、形勢逆転でライ君に押し倒されてますよん岬さんっ!!(≧▽≦)ノ
ラブホですねw(〃´∪`〃)ゞ
そして、押し倒すつもりが押し倒されで、お約束の展開でありますw