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しおりを挟む「……やー、岬さん。……婚約者さんホンット、イケメンですね……」
遠い目でそう言うのは、岬の後輩、島崎 翔也25歳だ。
「あー……、ありがと」
「つか、いいんすか?」
「何が」
「や、あれ……」
島崎が言いたいこともわかる。
紹介してからずっと、女性陣がラインハルトにべったりなのだ。
しかも、野営料理はお手の物のラインハルトに、先程から女性陣の好感度はダダ上がりである。
お陰で、今回の幹事である島崎は見せ場を取られてここに追いやられたというわけだ。
ちなみに、ラインハルトの手伝いを女性陣が競ってやりたがるため、岬たちは暇だ。
「別に?」
「やー、凄い自信ですねー。心配になったり、しません?」
「うーん、とはいってもなー……」
料理が出来る間に出された、酒のつまみである裂きイカを食べながら、肉を焼くラインハルトの方へ顔を向ける。
すると、岬の視線に気づいたラインハルトが、蕩けるように笑って手を上げた。
「…………愚問でした」
途端、島崎が再び遠い目になる。
ノンアルビールの缶を持ち上げて、手を振り返した岬は、苦笑して島崎に視線を戻した。
「そういう島崎こそ頑張んなくていいの? 篠山にアピールするチャンスなんじゃないの?」
このバーベキューを島崎が企画したのは、愛良を誘いたかったからだ。
「…………それを、岬さんが言います?」
「あー……。や、ごめんね?」
ジトリと睨まれて、すかさず目を逸らす。
結果的に島崎の見せ場を奪ってしまっただけでなく、今、ラインハルトの隣で甲斐甲斐しく野菜を焼くのを手伝っているのは愛良なのだ。
「……つか、なんで岬さんの婚約者さん、愛良ちゃんに手伝いを頼むんです!? 普通、そこは岬さんでしょう!?」
「やー……、それには色々事情がありまして……」
「岬さんだって! 自分の婚約者が他の女に手伝いを頼んで平気なんですか!?」
「や、ホントに色々あって……」
憤慨する島崎に、岬はモゴモゴと言葉を濁した。
実は、愛良に手伝いを頼むようラインハルトに言ったのは、岬なのだ。
ラインハルトの側に居れば、自然と課の女性陣と一緒に居ることになる。
これを機に、愛良が課の女性たちとの親交を深められればという岬の浅知恵である。
「……ま、何となく岬さんが何考えてんのかは、わかってますけどね」
ふんっと鼻を鳴らした島崎に、岬は思わず苦笑してしまった。
新人の頃から岬が面倒を見てきた島崎は、なんだかんだいって岬のことをわかっているのだ。
それに、気があるだけあって、愛良のこともさすがに良く見ている。
愛良と課の女性陣の間に距離があることを、島崎も知っているのだろう。
何気に島崎も優秀なのだ。顔だって悪くない。
にもかかわらずモテないのは、どこかお調子者の残念感があるからか。
「……にしても、岬さん。下手、打ちましたね?」
「え? どうして?」
驚く岬に、島崎がため息を吐いた。
「普通に考えたら、わかるでしょ。……イケメンに何かと声を掛けられて気にされてれば、他の女性たちは面白くないに決まってるじゃないですか」
「……でも、ライは私の婚約者だよ?」
「甘いっ!!」
そう言って、首を傾げる岬にビシっと指をさしてくる。
ちなみにその手には飲みかけの缶を持ったままだ。島崎も車の運転があるので、もちろんノンアルコールだが。
「だから余計にまずいんでしょうが!」
「……?」
「先輩の婚約者と仲良くしてると思われたら、心象が悪いでしょう!?」
「なんで? 仲良い方がいいじゃん?」
本気でわからない岬がそう言うと、島崎が心底呆れた顔になった。
「……岬さん、本当に女ですよね?」
「見ればわかるでしょ」
「…………はあ。……まあ、そこが岬さんの良いとこでもあるんですがね」
諦めたように首を振る。
納得のいかない岬が理由を聞こうと島崎に声を掛けようとしたところで、しかしそこで料理が出来たと声を掛けられて、その話はそれきりになったのだった。
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