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 途中で一度休憩を挟んだほかは、順調に目的地に着くことが出来た岬たちは、車から降りるなり大きく伸びをした。

「あー、空気が美味しい!」
「ここまでくると、やっぱり全然空気が違いますね!」

 愛良もいつもよりはしゃいだ様子だ。
 ありがたいことに天気も良く、澄んだ空気の中、目の前には赤く色づいた山並みが見えるのだ、自然とテンションも上がってくる。
 さてラインハルトの反応はと、隣を見れば、そこには食い入るように山並みを眺めるラインハルトが居た。

「……ライ?」
「ああ、ミサキ。……本当に、綺麗だな」
 言葉少なに、そう答える。

「……確かに、向こうとは全然違うな……」
「そうなの?」
「ああ。私の国では、こんなに色々な色に山が染まることはなかったからな……」

 瞳を細めて見詰める様は、どこか感慨深げだ。
 ふと、不安になって、岬がラインハルトの服の裾を掴むと、にっこりと笑ってラインハルトが岬を引き寄せた。

「大丈夫だ」
「べ、別に……」
「はは。ミサキ、可愛い」
 言いながら更に岬を抱き寄せようとしてくる。

 しかしその時、呆れたような愛良の声が掛けられた。

「……ちょっと二人とも。私が居るの、忘れてます?」
「あ、いや! そういうわけではっ……」

 愛良の声に、慌てて体を離す。

「ま、いいんですけどね。今更ですし」

 にっこり笑ってそう言われてしまっては、返す言葉がない。
 しかし、ラインハルトが再び岬の腰に腕を回して引き寄せてきた。

「なっ、ラ、ライっ!?」
「はは。今更だし、いいんじゃないか?」
 言いながらますます岬の体を引き寄せる。

「それに私の国には、すでにミサキと私の婚姻届けは出してあるわけだし」
「えっ!?」

 ラインハルトのその言葉に、愛良が驚いたように絶句した。
 ミサキからは婚約したとしか言っていなかったから、まさか既に婚姻がなされているとは思わなかったのだろう。

「つまり、ミサキと私は正式に夫婦というわけだ。……な? 今更だろう?」
 そう言って、にっこりと微笑んで愛良を見詰める。
 しかし、その目が全く笑っていないように感じるのは、気のせいではないだろう。

 瞬間、愛良がギリリと音が聞こえてきそうなほど悔しそうな顔になったが、すぐにまた微笑みを浮かべる。
 こちらもまたにっこり笑って岬たちを見返す愛良は、いつもの愛良だ。

(え? み、見間違い?)

 戸惑う岬に、愛良が何とも楽しそうに笑みを向けてきた。

「そうだったんですね! なんだ、岬さんも言ってくれれば良かったのに!」
「あ……え、ええ……。ほ、ほら、式はまだだし、向こうに届けは出したって言っても、どうせもうすぐに辞めるわけだからいいかと思って……。それに、日本での届けはまだだから……」
「ああ、国際結婚となると手続きとか面倒臭そうですもんね」
「そ、そうなのよ」
「ふふふ。でも、おめでとうございます!」

 笑顔でそう言う愛良には、先程一瞬見せた気配は微塵もない。
 心から岬たちの結婚を祝福しているように見える。

(……やっぱ、見間違いよね……。だって、あんなにライとお似合いだって、既に家族みたいだって言ってくれてたし……)

「ありがとう、篠山」

 気を取り直した岬は、今度は屈託のない笑顔を浮かべたのだった。
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