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「それで。何があったんですか?」

 ワクワクと、好奇心を隠しもせずに聞いてくる。
 間違いなく入社一年目の新人だが、本当、愛良は遠慮というものがない。
 まあそれも、岬が相手だからかもしれないが。

「……えー、……何か、結婚をすることになった……、的な……?」
「それって、プロポーズされた、ってことですよね!」
「一応……」

 プロポーズも何も、起きたらいきなり伴侶だ何だと騒がれたわけであるが。
 ただ岬も、今では昨夜のことを夢ではなく、現実のこととして思い出していたため、認めざるを得なかった。
 それに岬も、ラインハルトと結婚するということに、否やがあるわけではない。
 夢だと思っていたのが現実で、戸惑っているだけだ。

「キャーッ! じゃあ、その流れで昨夜はってことですか!? キャーっ!! 凄い!! 情熱的!!」

 愛良は何やら一人で興奮して騒いでいる。
 定食のサバの味噌煮をつつきながら、岬は遠い目になった。
 昨夜どころか今朝まで、とはさすがに言えない。

「……でも、本当によかったです」

 ひとしきり一人で騒いだ後、しみじみとそう言う。
 味噌汁をすすっていた岬が、なんだと思って見上げると、愛良がふんわりと苦笑した。

「だって、最近の岬さんは、見ているこっちが辛いくらいでしたから」

 どうやら心配を掛けていたらしい。
 岬は仕事にプライベートは持ち込まない主義だが、濃いクマをつくって痩せてしまった姿に、周りは皆心配していたのだという。

「それまでずっと、毎日凄く楽しそうにしてたのに、急にそんな風になって。しかも、ちょっと前までは飲み会も断って家に帰ってたのに、最近は死んだ魚みたいな目で残業してるし。これはもう絶対彼氏に振られたんだって、皆で話してたんですよ。だから、聞くに聞けなくて」

 まさかそんな噂が立っていたとは。
 そして、アラサー女が彼氏に振られたとあっては、とてもではないが目も当てられなくて聞けなかったということを言いたいらしい。
 しかも何故、岬が振られたことになってるのだ。
 何気に酷い。

「でも! 仲直りしたんですね! 本当に良かった!」
「……心配かけて、悪かったわね」

 それでも、心配してくれていたのはありがたく、岬は苦笑しながらお礼を言った。

「それで、結婚式はいつですか!? もちろん、仕事は続けるんですよね!? それに、出会いは!? 歳は!? 何してる人ですか!?」

 キラキラと瞳を輝かせて、矢継ぎ早に質問してくる。

「ていうか!! 私、岬さんは結婚しない人かと思ってました!! だから、ホンット意外で!!」
「何それ。どういうことよ」

 一体彼女の中で岬のイメージはどうなっているのか。
 思わず岬が唖然とすると、愛良が無邪気な笑顔を向けてきた。

「だってほら、岬さんはちょっと、残念なとこあるじゃないですか~」
「はいぃ!?」
「折角そこそこ綺麗なのに、枯れてるっていうか、変わってるっていうか。今だって、堂々と首に湿布だし。しかも皆、全然疑問にも思わないし。指輪だって、普通絆創膏で隠します?」

 首の痕は、あれから湿布を貼って隠したのだ。
 お陰でやたらと湿布臭いが、周りからは首って凝るよね~、ぐらいに言われて岬はホッとしていたのだ。
 ちなみに指輪は、石鹸を付けても取れなかったため、やむを得ず絆創膏で隠すという荒業に出たのだが、幸い今のところ誰からも指摘はされていない。

「さすが岬さんクオリティですよね! ---------あいたっ!」

 無言でデコピンをかました岬であった。
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