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第二章
26-3
しおりを挟む「じゃあ、きちんと申し込むんなら、いいんだな?」
「そうね」
形式、大事。
それに、私だってロマンティックなプロポーズに憧れがないわけじゃない。
ロマンティックとはいかなくとも、せめて普通に素面のときに申し込んでくれたら良かったのだ。
「わかった」
どうやら納得したらしい。
クロードがふっと、私を拘束する腕を緩めた。
雰囲気が軽くなったことに、ホッと息を吐く。
そんな私を、クロードが抱きしめてきた。
うん、温かい。
そうなのよ。
嫌じゃ、ないのよね。
むしろ、落ち着く。
つまりは、私もクロードのことが好きなのだ。
まだあんまり実感ないけど。
そもそも、あんなに酔っ払ったのだって、相手がクロードだったからだろう。
私の中で、無意識に気を許して甘えられる存在だということだ。
これはもう、認めるしかない。
力を抜いて、背後のクロードに体を預ける。
すると、後ろから腕を回して私の手を取ったクロードが、指と指を絡めて握ってきた。
「……アンヌ、好きだ」
耳元に顔を寄せて囁いてくる。
「ずっと、ずっと前から好きだ」
優しく囁かれて、じわじわと体温が上がっていく。
絡めた指はそのままに、もう片方の手で私の顎を捉えたクロードが、そっと振り向かせて口付けてきた。
唇を軽く触れ合わせ、柔らかく食んでくる。
何度も啄むように口付けた後で、開いた唇の隙間から熱い舌を差し入れてくる。
受け入れるように開けた口の中を舐められて、クロードの舌のザラリとした感触に、私の下腹がズクリと疼いた。
互いに舌を絡ませ合って、吸い合う。
口内に溜まったクロードの唾液をこくりと飲み干すと、体が火照る様に熱くなった。
「……アンヌ、好きだ。俺と、結婚してくれ……」
口付けの合間に囁いてくる。
目を開ければ、そこには熱を灯したブラウンの瞳。
ああもう。
降参だ。
求められるままに受け入れて、互いにぐったりと身体を横たえたのは、すでに空が白むかという頃だった。
体は疲れ切っているが、何か非常に満たされた感覚だ。
確かに、これはクセになる。
一度知ってしまったらやらずにはいられない、というのが良く分かった。
というよりも、心から全てを許せる人間と繋がる喜びを知ってしまったら、もう一人には戻れない。
そのことが空恐ろしくもあり、嬉しくもある。
優しく抱きしめられ、背中を撫でられて、かつて感じたことのないほどの充足感と安心感の中で私は微睡みに沈んだ。
「アンヌ。それって、お揃いよね?」
私の耳元を見て、お嬢様が楽しそうに聞いてくる。
「クロードもつけてたし。ふふふ、仲がいいわね!」
奴の片耳には私の瞳の色と同じ薄黄緑色のピアスが、私の耳元にはクロードの瞳と同じ淡いブラウンのピアスが着けられている。
クロードが私に贈ったのだ。
「でも、ピアスって珍しいわね。南の方の国では盛んみたいだけど、うちの国では余りないわよね」
そう、イヤリングではなく、ピアスなのだ。
わざわざこのために、私は耳に穴を開けさせられたのだ。
クロードの言い分としては、護衛としてもお仕えしている我々は体を動かす機会が多いためイヤリングでは取れてしまう可能性が高いから、というものだったが、絶対それが理由ではないだろう。
嬉々として私の耳に穴を開ける奴の姿は、嗜虐嗜好全開の独占欲を溢れさせていた。
まったく、とんだ変態野郎である。
でも、そんなのがいいという私も、もうすでに同類なのかもしれない。
や、実に、不本意なのですがね。
ただもう、引き返せないし、引き返す気もない。
まあでも、そこまで求められて思われてる私は、幸せなのだろう。
それに、新たな目標もできたことだし。
お嬢様とエーベルト様お二人の子供の乳母になる、というのが最近の私の目標だ。
となると、早く子供を作らねばならない。
何となく、またもや奴の策略に嵌った気がしないでもないが、まあいいでしょう。
私達の子供がお二人のお子様の乳兄弟になるとか、楽しみでしょうがない。
うん、お嬢様。アンヌは、どこまででもついて参りますからね!
ーーーーーーーーーーーーーーー
お読み頂き、ありがとうございます!
「さくらんぼの恋」は、ここで一旦完結になります。
ただ、リディアーヌとエーベルトはお気に入りのキャラなので、できれば次章も続けられたらなと考えております。
だいぶ先にはなってしまうかと思いますが、その時はもしよろしければまたお読み頂けたらとても嬉しいです。
ここまで、二人の応援、ありがとうございました!
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