さくらんぼの恋

碧 貴子

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第二章

26-2

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 久方振りにお嬢様と手合わせをして、私はすっかり上機嫌になった。
 しかしそんな楽しい気分も、クロードに会った瞬間、萎んでしまった。
 にこやかに微笑んでいるけれど、私に向けられた視線は焼け付くようだ。
 そんなクロードを見て、エーベルト様が非常に気の毒なものを見るような顔を私を向けた。

「……アンヌ、諦めたほうがいいよ? 下手に抵抗すると逆効果だから」
 去り際に、そっと耳打ちしてくる。

 それは、もう逃げられない、ということでしょうかね。
 ええ、ええ。わかっておりますとも。
 とはいっても、私にも意地がありますからね。

 そんなこんなで、仕事の用件だけで、クロードには近寄らず、目を合わせずに、何とか私は一日を耐えきった。
 しかし、その日の仕事を終えて部屋へ戻ろうとする私を待ち伏せしていたクロードに、あえなく簡単に捕まってしまった。
 わざわざ遠回りまでしたというのに。
 どうやら私の行動は読まれているらしい。
 やはりどうあっても、もう逃げられないようだ。

「……で、アンヌ。何がそんなに気に入らないんだ?」

 クロードは、背後から私を羽交い絞めするかのように拘束してソファーに座っている。
 ちなみここはクロードの部屋だ。私を捕らえた後、すぐに部屋へと連れ込んだのだ。
 抵抗するだけ無駄だと悟った私は、すでにされるがままにクロードの膝の上で大人しくしている。
 まあどうせ、遅かれ早かれ二人で話し合わなきゃならないわけだし、腹を括ったわけですよ。
 それに、いつまでも避け続けるわけにもいかない。

「そんなに、俺と結婚するのが嫌なのか?」
 明らかに不穏な空気が漂っている。
 そんなクロードに、私は大きくため息を吐いた。

「……やり方が、強引すぎなのよ」

 別に、クロードと結婚するのが嫌だというわけではない。
 私の意思を無視したようなやり方が気に入らないだけだ。

「でも、そうでもしなきゃ、お前は俺と結婚しようとは思わなかっただろ?」

 まあ、そうかもしれないけど。
 生涯独身でお嬢様にお仕えする覚悟だったし。

「だとしても、もう少しやりようってもんがあるでしょう? こんな罠に嵌めるようなやり方をされて喜ぶ人間はいないわよ」

 そう、やり方が問題なのだ。
 酔った状態でなし崩しに結婚を承諾させるとか、さすがにそれはないだろう。

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