さくらんぼの恋

碧 貴子

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第二章

25-2

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 ……それにしても、体が痛い。
 一晩経って大分マシになったけれども、主に股関節周りが筋肉痛だ。
 いくら普段から鍛えているといっても、そんなところは鍛えてないし。
 そもそも処女だったし。
 ホントあの野郎、処女相手に何してくれてんだって、話だ。
 それでも仕事の手を抜くわけにはいかない。
 ただ、さすがに階段の昇り降りはきつくて、ちょっと壁に手をついて休んでいたら、クロードに見つかってしまった。にっこり笑って、こちらにやってくる。
 走って逃げたいけれど、逃げられない。
 しかも間が悪いことに、ここは人気がない場所だ。
 最悪だ。

「やあ、アンヌ。愛しの我が君」
「……何か、御用でしょうか」

 素早く周りを確認し、ずりずりと後退する。
 しかし、すぐに間合いを詰められてしまう。
 クっ。本調子だったら、こんなことないのに。
 つくづく腹の立つ。
 囲うように両手を壁につけたクロードが、楽しそうに私を見おろしてきた。

「用がなきゃ、話し掛けちゃいけないのか?」
「……今は仕事中ですので」
「はは、よくいうな。仕事が終わっても、俺と話す気はないくせに」

 よく、わかってるじゃない。
 もちろん、仕事が終わってもクロードと話をする気なんてない。

「でも、色々話し合わなきゃならないことがあるだろ? 何たって、俺たちは来月には結婚するんだから」
「……ふんっ。私の意見なんて、いらないでしょうに。勝手に色々話を決めておいて、よくそんなことが言えるわね?」

 ドレスまで勝手に用意しておいて、今更私と何を話し合うというのだ。
 まったく、どうやってサイズを把握したのか。

「そもそも、泥酔した状態での返事なんて、そんなの無効でしょ!」
「そうか? でも、残念。もう、覆すことはできないぞ?」
 そう言って、楽しそうに笑う。
 ああ、もう、腹が立つ。

「それに、もしかしたら、もう子供が出来てるかもしれないしな」

 そうなのだ。
 昨日、こいつは一切避妊をしていない。
 散々中で出されたのだ、その可能性は大いに有りうる。
 きっとそれも、計算の内だったのだろう。
 腹が立ってしょうがない私が睨みつけるも、クロードはますます嬉しそうだ。
 何故だ。
 自分で言うのも何だが、私の睨み顔はなかなかの迫力のはずだ。
 睨まれて喜ぶとか、実は被虐趣味なのか。

「はは、そんな顔すんなって。啼かせたくなるだろ?」

 違った。
 サディストか。
 こんなに長い間一緒にいて、こいつの本性に気付けなかっただなんて。
 ……まあ、ところどころで、そうかな、ということはあったけれど。
 こんなのがお目付け役で、エーベルト様はさぞかし苦労をなさったことだろう。

「……でも、アンヌ。お前だって、嫌だったわけじゃないんだろう?」
「……」

 そう、それが一番問題なのだ。
 何故か、クロードに触れられても、全く嫌悪感は感じなかった。
 中に出されたのも、焦りはしたが、嫌ではなかったのだ。
 つまり私も、満更でもないということなのだろう。

「それに。ずっとお前が好きだったってのは、本当のことだしな」
 そっと、私の頬に触れてくる。
 柔らかなブラウンの瞳に優しく見つめられて、思わず私は赤くなってしまった。

 や、もう、何なのよ!?
 何でそんな、愛し気な顔で見てくんのよ!?
 その顔は反則でしょ!?

「……今夜、部屋で待ってる」

 耳元で甘く囁かれて、否が応にも昨日のことが思い出される。
 ヤバい。
 腰が抜けそう。
 するりと私の頬を撫でてから、ようやくクロードがその場から離れた。

 もう、昨日からの怒涛の展開についていけない。
 ヘナヘナとその場にうずくまってしまった私は、深く、ため息を吐いた。


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