さくらんぼの恋

碧 貴子

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第二章

25-1 アンヌ②

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「アンヌ、おめでとう! 本当に良かったわ!」
 翌日、出仕した私に、開口一番お嬢様が満面の笑みで言ってきた。
 お嬢様は何とも嬉しそうだ。

「二人がどうなるのか、もうずっとヤキモキしてたのよ? それにしても、クロードの長年の思いが伝わって、本当に良かったわ~!」

 はい?
 長年の思い?
 何ですか、それ。

「私が結婚するまでは、アンヌは絶対に結婚を承諾しないだろうからって、クロードはずっと待ってたのよ?」

 まあ、当然でしょう。
 お嬢様のもとを私が離れるわけがありませんからね。

「もしアンヌが私について公爵家こっちに来るって言わなかったら、お父様からクロードとの結婚を勧めてもらう手筈になってたの。もう随分前から、クロードはお父様にお願いしてたのよ?」

 何、です、と……?
 つまり、侯爵様は御了承済み、だと。
 実質、結婚決まってたようなもんじゃないですか!?

「もう、本当アンヌったら、あんなにクロードはわかりやすいのに、全然気付かないんだもの。見ていてもどかしいったらなかったわ。それに、公爵家こっちに来たアンヌにちょっかいを掛けられないようにって、クロードは随分牽制してたみたいね。ここの侍女達が言ってたわよ?」

 色恋沙汰に鈍いお嬢様にそれを言われてしまうとは……。
 というか。
 だからか。
 公爵家ここの使用人達が、私と話す時やけにビクビクしてると思ったら。
 奴の仕業だったか。
 かと思えば、覚えもないのに、若い侍女には睨まれるし。
 普段エーベルト様と一緒に居るから余り目立たないが、奴はなんだかんだいって顔は良いのだ。
 しかもエーベルト様付き。筆頭出世頭だ。
 そんな訳で、奴はモテる。
 侯爵家でも、若い達に騒がれてたし。
 や、ホント、何故私なの。
 もっと若くて可愛い子がいるじゃないか。
 ていうか、こんなことで恨まれるなんて勘弁して欲しい。

「結婚式は来月なんでしょう? もう式場もドレスも準備できてるって聞いたわ。ふふふ、アンヌのウエディングドレス姿、楽しみだわ!」

 そう昨日、あの後私を抱き潰したクロードは、私が動けないのをいいことに、あっという間に公爵夫妻に結婚の報告をしやがったのだ。
 お陰で、私が邸に戻る頃にはすっかりお祝いムードで、とてもじゃないが結婚を断れるような状況ではなかった。
 しかも。
 聞けば、既に式場の予約も、ドレスの準備までできているという徹底ぶり。
 つまり、私は完全に嵌められたわけだ。
 クソっ。あの野郎め。
 私はもう、生涯独身でお嬢様にお仕えする覚悟だったというのに。
 まあ幸い、奴と結婚してもお嬢様のお側を離れずに済むのは良かったけど。
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