さくらんぼの恋

碧 貴子

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第二章

24-3

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「……今、逃げようとしただろう?」
「ク、クロードさん!?」

 聞き覚えのある低い声は、クロードのものだ。
 心なしか声のトーンがいつもより低いのは気のせいだろうか。

「クロード、でいい。……昨夜は散々そう呼んでたろうが」

 そう言われても、全く覚えがない。
 というか、何だか言葉遣いが違くありません?
 あれか? これがいわゆる“一度ヤったくらいで俺のモノ”ってやつか?

「あの~、こんな状況で誠に申し訳ないのですが、私、覚えてなくてですね……」
「ほう。……それで?」
「一体何がどうなってこんな状況か、……うひゃあっ!!」
 いきなり首筋を舐め上げられて、思わず変な声が出てしまった。
 何なの一体!?

「クっ、クロードさんっ!? なっ、何をっ!?」
「覚えてないってんなら、思い出せばいいだけだろ?」
「だっ、だから何をっ、……ひゃうっ!?」
 今度は耳を舐め上げてくる。

「……思い出せないんなら、思い出せるよう、手助けしてやろうか?」
 耳に唇を付けられて囁かれる。
 低く艶のある声を直接吹き込まれて、思わずゾクゾクとした快感に体が震えてしまった。

 ホント、これ誰!?
 同じ人!?
 あのいつでも礼儀正しいクロードは、どこ行った!?

 そして、いつのまにか後ろから圧し掛かられる体勢だ。
 両手を絡めとられ、完全に身動きを封じられている。
 非常に、まずい。
 と思ったら、私のあそこに何やら熱くて硬いものが宛がわれた。

「はあっ」
 ぐぷりと先端が入り込み、途端に快感が体を突き抜ける。
 そのままズブズブと熱い杭を埋め込まれて、私の体がぶるぶると震えた。

 ていうか。
 私、初めてだったんですけど。
 処女だった人間相手に、コレって、どうよ?
 なのに、何でこんな感じるの?

 なんて、考えていられたのも一瞬で、すぐさま私は快楽の淵に沈められた。
 散々喘がされ、絶頂を経験させられてぐったりとする私に、最後は当然のように中出しで。
 呆然とする私を、クロードは非常に満足そうな顔で抱きしめてくる。
 極めつけの一言に、私は唖然とした。

「式は来月でいいか?」
「は? しき?」

 しきって何だ?
 指揮、四季、史記、……式?

「はあ!? 式って、結婚式ってことっ!?」
「それ以外、何があるんだよ」
「ちょっとっ!! 何がどうなったらそうなるわけっ!?」
「だから。昨夜、ちゃんとプロポーズしたろ?」
「はいぃ!?」

 展開についていけない。
 というか!! 一体昨夜、何があった!?
 酔って絡んだ最後の記憶から、どこがどうなったらプロポーズ的な展開になるのだ。

「つうか、お前が言ったんだろ」
「はあ!?」
「初めては、結婚する相手とじゃなきゃ嫌だって」

 ……あ……。
 何か、言ったような気がする。

「だから、ちゃんと責任取るから、結婚しようって言ったら、お前、頷いたじゃないか」

 言われて、だんだんと記憶が蘇ってきた。
 そう、お嬢様の手が離れて寂しいと泣く私を、クロードが慰めてくれたのだ。
 何か、俺がいるから的なことを言われ、愛の告白的な展開に、ちょうど弱っていた私は頷いてしまったのだ。
 その後で、この宿屋に連れ込まれ、押し倒されそうになって、そんなことを口走ったような気がする。

「……思い出したようだな?」
 そう言って、なんとも綺麗に微笑む。
 しかしその目は、獲物を捉えた捕食者のそれだ。

 うん。
 これは、まずい。
 逃げ切れる気が全くしないのは、何故だろう。

「というわけで、アンヌ。……もう、離さないからな?」

 私の背中を、つうっと汗が伝った。

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