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第二章
23-1
しおりを挟む「……それにしても、リディ。本当に大丈夫だったのか?」
「ええ。ちょっと変なのに絡まれたけど、私が倒そうとする前にロキが追い払ってくれたのよ」
「まったく……」
微笑んで答えたリディアーヌに、隣に座ったエーベルトが溜め息を吐いた。
ここは、帰りの馬車の中だ。
ノートン達にお礼を言って別れた後、公爵家から廻したお忍び用の馬車に乗り込んだのだ。
ちなみに一緒に来ていたアンヌとクロードは、別に馬車を拾って帰るという。
先程の路地裏での遣り取りをアンヌ達もばっちり見ていた為、どうやら遠慮したらしい。
「それにしても、あいつ。ただの破落戸じゃないだろう」
「ロキ?」
「ああ。あいつの手は、剣を握る手だ」
ロキと握手した時に、エーベルトが首を傾げたのはそれでだったのか。
ロキは、リディアーヌの身のこなしだけで実力を察したくらいなのだ、相当の実力者だろう。
それに、リディアーヌに絡んできた男達がロキには頭が上がらない様子だったことを考えても、やはりただの破落戸ではない。
「なんでそんな奴がフェンリル商会なんかに居るんだ?」
「用心棒とかじゃ?」
「いや、あの手は相当鍛錬した者の手だ。それに、破落戸の用心棒は剣は使わない。使うのはナイフだ」
「ふーん。でも、悪い人じゃなかったわよ?」
あれからノートン達に聞いたのだが、ロキが勤めているというフェンリル商会は、どうやらあまり評判のよくない組織らしい。
その為最初、ロキ達フェンリル商会の人間にリディアーヌが絡まれていると思ったエーベルト達は、非常に焦ったのだという。
しかし、確かに軽薄な物言いはするものの、ロキは悪い人間には思えない。
絡まれたリディアーヌを助けてくれたのだって、あれは普通に親切心からだろう。
キス云々言われたのだって、あれは多分、リディアーヌの対応と実力を見るためだ。
「そうだな、俺も悪い奴には見えなかった。……まあ何にせよ、リディに何もなくて良かったよ」
どうやらはぐれたリディアーヌを相当心配してくれていたらしい。
眉を下げたエーベルトを見て、リディアーヌは途端に申し訳なくなってきた。
「……心配掛けて、ごめんなさい」
「本当だよ。別にリディの力を侮っているわけじゃなくて、本当にあの辺りは物騒だからさ」
実際絡まれたのが大した男達じゃなかったから良かったものの、もしロキのような人間だった場合、リディアーヌとてただでは済まなかっただろう。
「……そうね。次、はないようにするわ」
「ああ、そうしてくれ」
そう言って神妙な顔で頷く。
心配してくれているのだ。
リディアーヌは何だか嬉しくなった。
これまでは、女扱いされると対等ではないような気がしてどうしても反発してしまっていたが、今はそれが嬉しい。素直に、エーベルトに守られたいと思う。
何だか自分が、物語のお姫様になったような気分だ。
それに先程の愛の告白は、文句なく物語のワンシーンのようだったではないか。
まあ、路地裏で男達に取り囲まれて、ではあったが。
とにかく、リディアーヌは嬉しくて堪らなかった。
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