109 / 123
第二章
22-3
しおりを挟むしかし、最初こそ戸惑う素振りを見せたものの、覚悟を決めたのか、咳払いをした後でエーベルトがリディアーヌに向き直った。
「……確かに、きちんと言わなかった俺が悪い」
そう言って、真剣な瞳で見つめてくる。
「じゃあ、今ここで言ったら、信じるんだな?」
「そうね」
「わかった」
青灰色の瞳には、強い光が灯っている。
側に来たエーベルトに手を取られて、リディアーヌの胸がどきりと跳ねた。
一瞬にして周囲から音が消え去り、二人だけの世界になる。
もうここがどこだとかは、二人には関係なかった。
リディアーヌを見つめたまま、エーベルトがゆっくりと片膝をつく。
しん、と静まり返った中で、エーベルトが自身の左手を胸に当てた。
「リディ、君が好きだ。愛してる。だから、これからもずっと、一緒に居て欲しい」
エーベルトらしい飾り気のない、真っ直ぐな言葉だ。
そして何より、聞きたかった言葉だ。
その言葉はリディアーヌの胸に直接響いた。
「リディ?」
思わず目頭が熱くなったリディアーヌの瞳から、ぽろりと涙が零れる。
返事をしなくてはとわかっているも、胸が詰まって言葉が出てこない。
ようやく絞り出した声は、震えて掠れていた。
それでも、一語一語、しっかりと言葉にする。
「……わ、私も、ベルと、……ずっと、一緒に居たい」
リディアーヌのその言葉に、エーベルトが何とも嬉しそうな笑顔になった。
握った手に口付けを落とした後で立ち上がり、リディアーヌを引き寄せ抱きしめる。
そんな二人に、周囲から盛大な歓声が上がった。
ヒューヒューと口笛が吹き鳴らされ、冷やかしの言葉も飛んでいるが、皆一様に笑顔だ。
「ベル……、好き……」
「うん」
「私も、愛してる……」
ギュッと抱きしめられて、リディアーヌの口から嗚咽が漏れる。
やはり、不安だったのだ。
子供の頃からずっと一緒で、一緒に居ることが当たり前だったからこそ、自分達のこの感情が何なのか、ずっと分からなかったのだ。
それをこうやって口にして、形になった今、リディアーヌは安堵と喜びで胸が一杯になってしまった。
2
お気に入りに追加
751
あなたにおすすめの小説

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

王太子の愚行
よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。
彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。
婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。
さて、男爵令嬢をどうするか。
王太子の判断は?

初めから離婚ありきの結婚ですよ
ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。
嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。
ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ!
ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる