さくらんぼの恋

碧 貴子

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第二章

22-3

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 しかし、最初こそ戸惑う素振りを見せたものの、覚悟を決めたのか、咳払いをした後でエーベルトがリディアーヌに向き直った。

「……確かに、きちんと言わなかった俺が悪い」
 そう言って、真剣な瞳で見つめてくる。

「じゃあ、今ここで言ったら、信じるんだな?」
「そうね」
「わかった」

 青灰色の瞳には、強い光が灯っている。
 側に来たエーベルトに手を取られて、リディアーヌの胸がどきりと跳ねた。
 一瞬にして周囲から音が消え去り、二人だけの世界になる。
 もうここがどこだとかは、二人には関係なかった。

 リディアーヌを見つめたまま、エーベルトがゆっくりと片膝をつく。
 しん、と静まり返った中で、エーベルトが自身の左手を胸に当てた。

「リディ、君が好きだ。愛してる。だから、これからもずっと、一緒に居て欲しい」

 エーベルトらしい飾り気のない、真っ直ぐな言葉だ。
 そして何より、聞きたかった言葉だ。
 その言葉はリディアーヌの胸に直接響いた。

「リディ?」

 思わず目頭が熱くなったリディアーヌの瞳から、ぽろりと涙が零れる。
 返事をしなくてはとわかっているも、胸が詰まって言葉が出てこない。
 ようやく絞り出した声は、震えて掠れていた。
 それでも、一語一語、しっかりと言葉にする。

「……わ、私も、ベルと、……ずっと、一緒に居たい」

 リディアーヌのその言葉に、エーベルトが何とも嬉しそうな笑顔になった。
 握った手に口付けを落とした後で立ち上がり、リディアーヌを引き寄せ抱きしめる。
 そんな二人に、周囲から盛大な歓声が上がった。
 ヒューヒューと口笛が吹き鳴らされ、冷やかしの言葉も飛んでいるが、皆一様に笑顔だ。

「ベル……、好き……」
「うん」
「私も、愛してる……」

 ギュッと抱きしめられて、リディアーヌの口から嗚咽が漏れる。
 やはり、不安だったのだ。
 子供の頃からずっと一緒で、一緒に居ることが当たり前だったからこそ、自分達のこの感情が何なのか、ずっと分からなかったのだ。
 それをこうやって口にして、形になった今、リディアーヌは安堵と喜びで胸が一杯になってしまった。
 
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