さくらんぼの恋

碧 貴子

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第二章

22-2

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「でも、好きって言ってもらってない!!」
「そういうリディだって!!」

 真っ赤な顔で、二人にらみ合う。
 完全に痴話喧嘩であるが、すっかりヒートアップしている為、お互い以外見えていない状態だ。

「第一、言わなくたって、ちゃんと態度で示してるだろ!?」
「そんなの、言ってくれなくちゃわからないわよ!! それにそういうことは、普通男の人から言うものでしょう!?」
「こういうときばっかり、そういうことを言うんだな!! いつもは女扱いすると、すぐ怒るくせに!!」
「なにそれっ!! それはベルが馬鹿にするからじゃないっ!!」
「別に馬鹿になんかしてない!!」
「じゃあなんなのよ!!」
「だから!! 好きだって言ってるんだ!!」
「はあ!? そんな言い方で、信じられるわけないじゃない!!」
「面倒臭いやつだなあ!! じゃあどうしたら信じるんだよっ!?」
 エーベルトは頭を掻き毟らんばかりだ。
 だがこんな状況でそんな言われ方をされても、全く気持ちを感じられない。
 腕を組んだリディアーヌは、ふいっと顔を逸らせた。

「……ちゃんと言ってくれなきゃ、イヤ!」
「はあ!?」
「レイノルド様は、ちゃんと跪いて愛を告白してくれたって、アディは言ってたわ!」
「はああ!? それはレイだからだろ!?」
「お義姉様にもらった本にも書いてあったわ!!」

 そうなのだ。リディアーヌがこれまで読んできた本では、大概愛の告白は男の方から跪いて、というものが殆どだ。
 跪かないまでも、ロマンティックなシチュエーションで男が女に愛を囁くのは、物語の定石だろう。
 それに、あの武骨なリディアーヌの兄でさえ義姉に結婚を申し込んだときは跪いたという。
 リディアーヌとて、女だ。ロマンティックな愛の告白を夢見ないわけじゃない。
 さすがにエーベルトにそれを期待していたわけではないが、それにしたってこれはない。

「い、今、ここでか……?」
「そうよ!」
 戸惑う様に辺りを見回したエーベルトを、リディアーヌは睨みつけた。

 大声で騒いでいた為に、周りには大勢の人だかりができてしまっているが、本気で好きだというのなら、愛を告白するのに場所は関係ないはずだ。
 完全に頭に血が上ってしまっているリディアーヌは、ここが下町の路地裏であるということはすっかり脳裏から消え去っていた。
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