さくらんぼの恋

碧 貴子

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第二章

22-1

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「リディっ!!」

 駆け寄ってきたエーベルトに腕を取られそうになったリディアーヌは、思わずパッと飛び退いてそれを躱した。

「おいっ! リディっ!」
 躱されたことが心外だったのか、エーベルトは驚いた様に目を見開いている。
 リディアーヌはつんっとそっぽを向いた。

 一旦は落ち着いた気持ちが、エーベルトの顔を見た途端、何だか再びムカムカとしてきてしまったのだ。
 いなくなったリディアーヌを心配してくれていたらしいその様子は凄く嬉しかったものの、一方で妻だから心配していただけだと思ってしまう気持ちもある。
 ロキに言われたことで、とりあえずエーベルトに会ったら、まずは自分の気持ちを素直に伝えようと思っていたリディアーヌだったが、実際エーベルトを目の前にしたら、先程の遣り取りを思い出して腹が立ってきてしまったのだ。

「何?」
「何って! いきなりいなくなったら心配するだろう!?」
「いきなりじゃないわ。ちゃんと、帰るって、言ったもの」
「そうはいっても、リディはこの辺りは初めてじゃないか!」
「そうかもしれないけど、私だって子供じゃないんだから、一人でちゃんと帰れるわよ」
「そういう問題じゃないだろ!? リディは女なんだから!! この辺りは治安が悪いし、それに実際迷ってたじゃないか!!」

 リディアーヌも、いきなりいなくなったのは悪かったと思っていた。
 それに事実、道に迷って絡まれたりして、自分の行動の軽率さを反省していたのだ。
 しかしエーベルトに責められて、リディアーヌは素直に謝るタイミングを逸してしまった。

「そうね。でも、大丈夫よ。親切な方が、道を案内して下さったもの」
 そう言って、すっ、とロキの隣に行く。

「だからご心配なく。妻だからって、形式的に心配してくれなくても大丈夫よ?」

 見せつけるように、にっこり笑ってロキを見上げると、エーベルトがあからさまにムッとした顔になった。
 ロキはというと、二人の遣り取りを面白そうな顔で見ている。
 エーベルトを案内していたノートン達は、ことの成り行きをハラハラした様子で見ているが、リディアーヌ達にそれを気にする余裕はない。

「なんだよそれ。形式的に心配とか、どういう意味だよ」
「あら、そのままの意味よ? 子供の頃からの付き合いで、惰性で一緒になったような妻だもの、わざわざ心配してくれなくてもいいって、意味よ」
「はあ!? そんなこと一言も言ってないだろ!? それに、一緒に居たいから結婚しようって、ちゃんと言ったはずだ!!」

 攻める口調のエーベルトに、リディアーヌはカチンときた。
 一緒に居たいとは言われたが、気持ちは聞かせてもらっていない。
 気が付いた時には、大声が出ていた。
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